ARTS & ROUTES あわいを
たどる旅

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様々な領域のあわい
から生まれる
「旅と表現」の探求

江戸時代後期に活動した旅行家で博物学者の菅江真澄は、三河国に生まれながらも、東北全土を歩き秋田にも長く滞在しました。様々な土地をフィールドワークし、そこにある文化習俗、風土、宗教や儀式、生活の様子などをスケッチと言葉、ときに詩なども書き、残していきました。真澄のこの活動は記録として価値があるだけでなく創造としても高く評価されるべきものです。また、約200年前に真澄が残した記録をたどり、その表現としての価値を再考することは、写真や映像などの複製技術が発達し、それらによる記録が芸術表現においても大きな地位を占めるようになった現在においては非常に重要なことでしょう。
本展は、様々な媒体により表現される芸術自体が、多様な領域のあわいにあるものということを改めて意識した上で、「旅と表現」をひとつの主題とするものです。真澄の活動とその軌跡をたどるプロジェクトを起点とし、秋田公立美術大学の教職員を中心に現代のアーティストたちによる複数のプロジェクトを展覧会という形式で公開します。秋田公立美術大学が様々なかたちで取り組んできたプロジェクトベースの活動やリサーチ、そのプロセスをいかに展覧会という形式で、美術館という場において定着させるか。出来事や時間などかたちをもたないものを展覧会へと描き出す新たな試みです。

キュレーター/服部浩之

菅江真澄
秋田県立博物館蔵

※菅江真澄(1754-1829)
江戸時代後期の紀行家、博物学者。三河国(愛知県東部)に生まれ、本草学・医学、漢学などを修めた後、30歳で故郷を旅立ち信州から東北、北海道を巡歴。48歳で再び秋田入りしてからは秋田領内にて生活や民俗、歴史、地理、文学、考古など多岐にわたる内容を日記や地誌、随筆として絵と文章とで記録した。

服部浩之

服部浩之/インディペンデント・キュレーター。1978年愛知県生まれ。2006 年早稲田大学大学院修了(建築学)。アジアを中心に展覧会やプロジェクト、リサーチ活動を展開する。青森公立大学国際芸術センター青森[ACAC]ではNadegata Instant Party による「24 OUR TELEVISION」(2010 年)、藤井光をディレクターに迎えAHA![Achives for Human Activities!/人類の営みのためのアーカイブ]とも協働した青森市所蔵作品展「歴史の構築は無名のものたちの記憶に捧げられる」(2015 年)など滞在制作を軸としたアーティストとのプロジェクトを多数実践する。共同企画に「十和田奥入瀬芸術祭—SURVIVE:この惑星の、時間旅行へ」(十和田市現代美術館、奥入瀬エリア|2013 年)、「あいちトリエンナーレ2016—虹のキャラバンサライ」(愛知県美術館ほか|2016 年)、「Going Away Closer」(ウィフレド・ラム現代美術センター、ハバナ|2017 年)など。第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示「Cosmo-Eggs | 宇宙の卵」(2019)キュレーター。秋田公立美術大学准教授。

ARTS & ROUTES あわいをたどる旅

フィールドワークとリサーチを手掛かりに、
様々な領域のあわいから生まれる「旅と表現」の現在を探求するプロジェクト

フィールドワークとリサーチを手掛かりに、様々な領域のあわいから生まれる「旅と表現」の現在を探求するプロジェクト
プロジェクト

2019年5月始動〈現在進行中〉

ジャーナル

2020年
3月に
全3号発行 →次号2020年夏発行予定

展覧会会期

2020年11月28日(土)~
2021年3月7日(日)
(休館日:12月29〜31日及び、1月13〜22日)

展覧会会場

秋田県立近代美術館
(秋田県横手市赤坂字富ケ沢62−46) 詳しくはこちら

江戸時代後期に東北全土を歩き、旅のなかで様々な土地に逗留して文化習俗、風土、宗教や儀式、人々の生活の様子などを記録し続けた菅江真澄。約200年前に真澄が残した記録に宿る創造性に着目し、その旅の軌跡をたどるプロジェクトが始まりました。
現代美術は、様々な領域のあわい(間)に存在します。アーティストたちは歴史学や地理学、人類学や数学、情報技術など隣接する多様な領域の知に刺激を受け、現在の世界を描出しようと試行しています。
本展は、アーティスト・研究者・デザイナー・運営事務局それぞれが、作品制作や研究活動のひとつひとつを主体的なプロジェクトとして立ち上げ、2020年11月から始まる展覧会までの「あわいをたどる旅」を探求します。
出来事や時間など表現者たちの軌跡をたどる媒体〈JOURNAL〉を発行するなど、かたちを持たないものを展覧会へと描き出す過程を公開しながら、ものづくりの現場である美術大学をひらく新たな試みです。

出展作家=岩井成昭・岸健太・迎英里子・長坂有希・藤浩志
リサーチアソシエイト=石倉敏明・唐澤太輔・小松和彦
グラフィックデザイン=吉田勝信・梅木駿佑
ウェブデザイン=北村洸
企画監修=服部浩之
企画運営=NPO法人アーツセンターあきた(岩根裕子・石山律・藤本悠里子・高橋ともみ)
主催=秋田公立美術大学・「ARTS & ROUTES -あわいをたどる旅-」実行委員会(仮称)

PROJECT

旅と逗留、記録と創造:
菅江真澄をたどる

1)記録に宿る創造性

菅江真澄の活動を検証し、旅と記録の背後に宿る創造のかたちについて検証するプロジェクト。人類学者の石倉敏明と唐澤太輔を中心に、真澄について研究する研究者や関心をもつ表現者とともに、現代美術においても重要な「記録に宿る創造性」について探求する。

石倉敏明

石倉敏明/1974年東京生まれ。明治大学野生の科学研究所研究員。1997年より、 ダージリン、シッキム、カトマンドゥ、東北日本各地で聖者や女神信仰、「山の神」神話調査をおこなう。環太平洋圏の比較神話学に基づき、論考や書籍を発表する。近年は秋田を拠点に、北東北の文化的ルーツに根ざした芸術表現の可能性を研究する。著書に『Lexicon 現代人類学』(奥野克巳との共著・以文社)、『野生めぐり 列島神話をめぐる12の旅』(田附勝との共著・淡交社)、『人と動物の人類学』(共著・春風社)、『タイ・レイ・タイ・リオ紬記』(高木正勝CD附属話集・エピファニーワークス)など。秋田公立美術大学准教授。

唐澤太輔

唐澤太輔/1978年、兵庫県神戸市生まれ。2002年3月、慶応義塾大学文学部卒業。2012年7月、早稲田大学大学院社会科学研究科・博士後期課程修了(博士〔学術〕)。日本学術振興会特別研究員(DC-2〔哲学・倫理学〕)、早稲田大学社会科学総合学術院・助手、助教などを経て、現在、秋田公立美術大学美術学部アーツ&ルーツ専攻・大学院複合芸術研究科准教授。専門は、哲学・倫理学、文化人類学、華厳思想の研究、南方熊楠研究。著書に『南方熊楠の見た夢―パサージュに立つ者―』(勉誠出版)、『南方熊楠―日本人の可能性の極限―』など。

2)菅江真澄が現代の表現者たちにもたらしたもの

郷土史研究家の小松和彦氏とイラストレーターの宮原葉月氏がユニットで活動する「秋田人形道祖神プロジェクト」(https://dosojin.jp)と連携し、“秋田の人形道祖神と菅江真澄”という視点で真澄が旅や逗留のなかで見てきたものを再検証する。

小松和彦 宮原葉月

小松和彦/1976年、秋田市生まれ。青山学院大学史学科卒業(考古学)。秋田市で工芸ギャラリー・小松クラフトスペースを運営するかたわら、秋田県内の郷土史研究を行う。著書に『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、『村を守る不思議な神様』(宮原葉月との共著)など。

宮原葉月/神奈川県横浜市生まれ。2008年よりイラストレーターとして活動開始。国内外の広告、プロダクト、書籍のイラストを描く。代表作に『ピンクとグレー』(加藤シゲアキ著、KADOKAWA)、『服を買うなら、捨てなさい』(地曳いく子著、宝島社)の装画など。2017年より秋田市在住。

グローバル資本主義社会に
おける
旅のかたち

岩井成昭

岩井成昭は記憶の中でおこる時代や場所の交雑と再編を、菅江真澄の旅と10代半ばに見たアメリカン・ニューシネマのロードムービーに重ねる。これまで在留外国人や移民問題、人口減少や少子高齢化などの地域が抱える社会課題に芸術から応答することを試みてきた作家が、本展ではグローバルな消費の拡大により、速度がますます速くなる社会において大衆の移動を容易にした車や、疑似体験と現実を限りなく近づける映画産業を介して、現代における旅と創造の関係を再考する。

グローバル資本主義社会における旅のかたち
グローバル資本主義社会における旅のかたち
小松和彦 宮原葉月

岩井成昭/1989年東京芸術大学修士課程修了。国内外の特定地域における環境やコミュニティーの調査をもとに多様なメディアで作品を制作し、国際展やAIRを中心に発表。1990年代から多文化状況をテーマに、欧州、豪州、東南アジアにおける調査を進める。2010年からはプロジェクトベースの「イミグレーションミュージアム・東京」を主宰。その一方で、拠点を秋田におき、秋田公立美術大学の大学院「複合芸術研究科」の新設に参与したほか、同地で「辺境芸術」を標榜するなど、さまざまな活動を並行して進めている。秋田公立美術大学教授。

左:〈喝采の記憶/未来への命名〉/2015年/NHK秋田放送局におけるインスタレーション
右:〈Journey to be continued〉/2017年/キュメンタリー映像作品より(still image)

越境する人、もの、情報

岸 健太

機具の流通からものの旅と世界の仕組みについて探求するプロジェクト。アーバン・スタディーズという都市研究を専門とし、主にアジア地域を往来しながらフィールドワークを重ねる建築家・岸健太はものの旅のひとつの形態として物流に着目する。秋田に暮らすことで農業を身近に感じるようになった作家は、中古の農機具がグローバルに流通する現状を知る。秋田の農機具の旅を追うことで、地域を越境して様々な産業が密接につながる世界の構造を読み解いていく。

越境する人、もの、情報
越境する人、もの、情報
岸 健太

岸 健太/2016年より秋田在住。クランブルック・アカデミー・オブ・アート建築学科修了(ミシガン、米国)。ポスト20世紀の都市居住の可能性と課題を探ることを目的として、東南アジア都市の集落居住文化の構造やその変容を研究・表現する活動をすすめている。2010年にインドネシア・スラバヤ市でアーバンスタディーズのコレクティブ「OHS (Operations for Habitat Studies) 」を共同運営。超領域の都市研究プロジェクトや国際ワークショップ「Alter-Shelter」シリーズの企画と実践に、現地の市民や学生、そして建築、アート、人文社会科学諸領域の専門家と協働・連携し取り組んでいる。秋田公立術大学大学院教授。

OHS

OHS -Operations for Habitat Studies/インドネシア・スラバヤ市を拠点とするアート・コレクティブ。2010年に岸健太の都市調査プロジェクトで協働したスラバヤの若手クリエーターや学生により、アーバンスタディーズ実践組織として設立。現在は、岸とビンタン・プトラ(社会経済アクティビスト)およびサラ・イナサリ(建築家)が共同運営する。OHSでは、現代の都市居住のありかたの変容やそこに生じている問題への対応を、空間、環境、歴史、経済、政治、アート、テクノロジーなどの異なる領域が複合する視座から「オルタナティブ・パブリック・メディア」として制作・提案している。現地のアーティストや研究者、大学や行政機関と協働し、国際ワークショップ、リサーチ、出版、展覧会などのパブリック・プロジェクトを実践している。

〈「未来都市の難民」展〉展覧会の企画・ディレクション(OHSと協働)
/2011年/インドネシア・スラバヤ

旅のメカニズム

迎 英里子

彫刻家・迎英里子は、貿易など世界システムの仕組みや構造を自作の装置やパフォーマンスを通じて解明し、世界の連続性や構造を描出する作品を制作する。本展では構造を描出することが容易ではない旅のメカニズムに着目。世界中を誰もが容易に旅することが可能となった現代において、世界の連続性と旅のあり方について思考する。

旅のメカニズム
旅のメカニズム
迎 英里子

迎 英里子/1990年兵庫県生まれ。2015年京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻彫刻修了。屠畜や原子核分裂、国債の仕組みなど世の中にある様々な現象をモチーフとし、その仕組を可視化した装置を使ったパフォーマンス作品を制作する。主な展覧会に「HIAP OPEN STUDIOS」(Gallery August、ヘルシンキ、2018年)、「OPEN SITE2017-2018 不純物と免疫」(TOKAS本郷、2017年)、「ALLNIGHT HAPS 2017前期 日々のたくわえ#3 アプローチ0.1」(HAPS、2017年)、「新しいルーブ・ゴールドバーグ・マシーン」(KAYOKOYUKI・駒込倉庫、2016年)など。秋田公立美術大学助手。

左:〈アプローチ0.1〉2014年/HAPS/京都
右:〈アプローチ5.0〉2016年/KAYOKOYUKI/東京

旅と逗留、記録と創造の現在:
アーティスト・イン・
レジデンス
エスノグラファー、あるいは
ドキュメンタリスト
としての
アーティスト

長坂有希

大阪を拠点とする美術家・長坂有希が秋田で滞在制作(アーティスト・イン・レジデンス)により新作を制作。長坂は、様々な土地で人やものとの出会いから新たな物語を紡ぎ出し、写真や映像、オブジェやテキスト、朗読やパフォーマンスなど様々なメディアを組み合わせた作品を制作している。本展では真澄の旅をたどり直すことから始め、真澄が書き残した「樹木」の図絵に関心を持ち調査を始めた。学生有志による展覧会ゼミのメンバーが長坂の滞在制作をサポートする。

旅と逗留、記録と創造の現在:アーティスト・イン・レジデンス エスノグラファー、あるいはドキュメンタリストとしてのアーティスト
旅と逗留、記録と創造の現在:アーティスト・イン・レジデンス エスノグラファー、あるいはドキュメンタリストとしてのアーティスト
長坂有希

長坂有希/1980年大阪府生まれ。テキサス州立大学芸術学部卒業、国立造形美術大学シュテーデルシューレ・フランクフルト修了。2012 年文化庁新進芸術家海外研修制度によりロンドンに滞在。リサーチとストーリーテリングを制作の主軸とし、遭遇した事象の文化、歴史的意義や背景の理解と、作者の記憶や体験が混じりあう点に浮かび上がるものを、様々な媒体をつかい表現している。主な展覧会に「予兆の輪郭」(トーキョーアーツアンドスペース、2019年)、「Quatro Elementos」(ポルト市立美術館、2017年)「マテリアルとメカニズム」(国際芸術センター青森、2014 年)、「Signs Taken in Wonder」(オーストリア応用美術・現代美術館MAK、2013 年)など。photo © koh Yoshida

展覧会ゼミ

展覧会ゼミ2019/服部浩之による展覧会をつくるためのノウハウを学ぶ、秋田公立美術大学の学生を対象とした自主ゼミ。キュレーションやマネージメントに関心のある学生が集まり、月2回の頻度で読書会(理論編)と展覧会の企画運営(実践編)行う。2019年度は、長坂有希によるプレ展覧会「木:これから起こるはずのことに出会うために/Trees:Audition for Drama still to Happen」(2019年11月18日〜2020年1月12日)の企画運営・制作サポートを行った。/講師:服部浩之/マネージメント:石山律/2019年度ゼミ生:朝倉泰臣・武田彩莉・谷口茉優・宮本しおり・乙戸将司・須川麻柚子・伊東陽菜・三井晴香

左:〈current not currency〉2019/トーキョーアーツアンドスペース本郷での展示の様子/©Kenji Takahashi/Tokyo Arts and Space
右:〈カムイワッカへ、そして私たちの始まりへ〉 2018/CAI02現代美術研究所での展示の様子/© Yoshisato Komaki

記憶と記録

藤 浩志

これまで様々な地域で「仕組みをつくる」アートプロジェクトを展開してきた藤浩志は、近年、彼自身の活動を架空の人物を通じて振り返る。奄美で生まれ、パプアニューギニアなどを経て現在は秋田に暮らす藤は、様々な土地で多様な時間や形の滞在を経験し、複数の拠点を往来し続ける、まさに旅と逗留の人生を歩んできた。その藤が、自身の旅と創造の軌跡を振り返り、記憶と記録をつなぐ物語を刻む。

記憶と記録
記憶と記録
長坂有希

藤 浩志/1960年鹿児島生まれ。京都市立芸術大学在学中演劇に没頭した後、地域をフィールドとした表現を模索。同大学院修了後パプアニューギニア国立芸術学校に勤務し原初的表現と文化人類学に出会う。バブル崩壊期の再開発業者・都市計画事務所勤務を経て土地と都市を学ぶ。「地域資源・適性技術・協力関係」を活用した美術表現を志向し、全国各地でプロジェクトを試みる。家庭廃材を利用した「Vinyl Plastics Connection」「Kaekko」「Polyplanet Company」「Jurassic Plastic」。架空のキーパーソンをつくる「藤島八十郎」等。NPO法人プラス・アーツ副理事長、秋田公立美術大学教授、NPO法人アーツセンターあきた理事長。

左:〈ワケあり雑がみ部〉2017年〜/せんだいメディアテーク
右:SYDNEY FESTIVAL2018招待作品〈Jurassic Plastic〉 2018年/シドニータウンホールク

グラフィックデザイン

プロジェクトベースの活動やリサーチ、そのプロセスを展覧会へと描き出す本展のグラフィックは、山形県在住のデザイナーへ依頼。デザイナー数名でチームを作り、領域のあわいをたどり表現するアーティストのように、共にリサーチを重ね、プロジェクトに応じて変化するグラフックデザインを展開。吉田勝信(ディレクション)/梅木駿佑(グラフィックデザイン)/北村 洸(webデザイン・コーディング)


企画運営/NPO法人アーツセンターあきた

秋田公立美術大学が設立したNPO法人。美大のリソースを活かした地域連携事業を担い、大学広報にも取り組んでいる。本事業では、服部浩之監修のもと企画運営を担当。岩根 裕子(全体統括)/ 藤本 悠里子(プロジェクト00,01,02担当)/石山 律(プロジェクト03,04及び展覧会ゼミ担当)/高橋 ともみ(テキスト編集)

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