arts center akita

映像デザイン基礎演習の成果展 「PinP|ピクチャー イン ピクチャー」

秋田公立美術大学・映像デザイン基礎演習で制作した映像作品を紹介する「PinP|ピクチャー イン ピクチャー」が、秋田公立美術大学サテライトセンター(フォンテAKITA 6階)で開かれています。メディアアートや映像プロジェクト成果物など学生の作品が並ぶ授業成果展。1月28日(火)まで。

VOICE, MEMORY, SOUND, LOOP…。

出題された多彩なテーマのもと、学生が制作した映像作品を紹介する「PinP|ピクチャー イン ピクチャー」が、秋田公立美術大学サテライトセンター(フォンテAKITA 6階)で開かれています。萩原健一准教授が指導する「映像デザイン基礎演習」の授業成果展。「2年生が大半を占め、履修生のほとんどが初めての映像制作体験なので、多様な手法を取り上げるようにしている」と萩原准教授が語る「PinP」をレポートします。

どこか懐かしい「記憶のおはなし」

2018年度夏季集中・2019年度前期7月最終課題である「VOICE and MEMORY」の映像作品「記憶のおはなし」は、提出された作品の中から選抜した7作品。ある思い出について、母親や幼なじみなどそれぞれにインタビューを行い、収録した音声をもとに制作しました。過去の出来事を思い出そうと曖昧な記憶を掘り起こし、つなぎ合わせていく人間の声色を観察し、物語とイメージを構成した作品はどこか懐かしく、鑑賞する側の記憶とも混じり合って不思議な印象を残します。

終わらない「架空のテニスラリー」

2018年度前期に出題された「Loop」は、日常の人間の仕草を取り上げた20作品。ある行為の再現を繰り返すことで、終わらない出来事を描いていきます。この課題によって、学生はロストスコープと呼ばれる手描きアニメーション手法を学びました。

2019年度前期夏季集中mission3として出題された「Rally」は、対人の掛け合い(架空のテニスラリー)をテーマにした制作課題25作品。ものの投げ合い、LINEのやりとりなど、リピート再生での鑑賞を前提に実写撮影とモーショングラフィックで制作しています。

一方、2018年度前期7月最終課題である「1-Page」は、高精細ディスプレイを1冊の“動く本”と見立て、1ページの紙面を考えた23作品。幾つかの場面、幾つかの映像が1ページの世界の中で展開します。

「Paper-Work」を題材にした2019年度前期6月課題は印刷した紙を動画のフレームとして用い、ストップモーション撮影したもので、「物質素材とデジタルデータの境界が交差したイメージ」という26作品。水道の蛇口から流れ出る水をハサミで切ったり、大学にあるエオス像を手でくるくると回したりと大胆です。

従来のディスプレイサイズとは異なる、細長く斜めに設置された変則的な画面比率を支持体とする「Color-Bars」では、2019年度夏季集中最終課題より24作品を公開。画面がいつもと異なることが、表現に変則的な効果をもたらします。

JR秋田駅中央改札のデジタルサイネージを再現

流れるように展開する横長の作品は、JR秋田駅中央改札の上部に設置された幅11メートルのデジタルサイネージの再現映像。映像デザイン基礎演習の履修生をはじめとした学生有志によって制作され、シーズンごとに更新されていく映像は秋田駅利用者にはおなじみとなりました。2018年の第1期から2020年2月以降公開予定である映像までご覧いただくことができます。

ISCA2019にて最優秀賞を受賞した森田明日香『the cooing』

原語の発音と映像のモーショングラフィック

森田明日香(2年)『the cooing』は、英語の発音ごとに作成したモーショングラフィックをプログラミングによる自動再生で無作為に混ぜ合わせ、偶然性を取り入れながら、意味をなさない言葉の生成を試みた作品。本作品は国内外の大学・大学院の学生対象の芸術・情報メディア系国際コンペ「ISCA2019」にて、デジタルコンテンツ部門の最優秀賞を受賞しました。

「cooing」とは、生後数ヶ月の赤ちゃんの発声法を意味します。発せられた原語と発音ごとに作成した映像が、言葉の意味ではなく無意味な音をより原初的な体験として印象づけます。

ピアノ鍵盤によって可視化される風景

高橋鈴奈(2年)は『余韻』にて、実写映像にシェイプモーションを組み合わせることでその場に漂う気配を可視化しました。音階の1音ごとに映像を配置したピアノを演奏することで、音に誘われるように風景と気配を感じさせます。

日常生活における何気ない音、言葉、出来事のリズムを題材とした乙戸将司(ビジュアルアーツ専攻3年)『こうしん』は、Norman McLaren『canon』(1964)、Rsnaud Hallee『Gravite』(2009)の2つの映像作品をリファレンスし、新たな解釈を加えて制作した映像作品。軽やかに刻むリズムを目と耳で追い、日常的でありながら意外な展開が楽しく、心地よさを感じさせる作品です。本作は、ビジュアルアーツ専攻3年次の専攻課題で制作され、2019年11〜12月に開催された「NEO_展」にて発表されました。

高橋鈴奈『余韻』
日常生活のリズムが題材となった乙戸将司(ビジュアルアーツ専攻3年)の映像作品『こうしん』

「映像制作はどうしてもカメラやPCといった多機能な道具と付き合う必要があり、学生は手が止まりがち。覚える機能を最小限に絞り、ほとんどのテーマを1〜2週間ほどに設定することで短期間で素早くつくり、たくさん失敗してもらうようにしている」と語る萩原准教授。今後、さまざまな素材やメディアを扱うことになる学生たちに対し、「粘土をこねるように、あるいは作曲するようにそれぞれが映像をつくり、独自の表現を探究していってほしい」と指導しています。

映像デザイン基礎演習成果展「PinP|ピクチャー イン ピクチャー」は、1月28日(火)まで。学生の授業成果をぜひご覧ください。

Information

映像デザイン基礎演習成果展「PinP|ピクチャー イン ピクチャー」

■会 期:2020年1月10日(金)〜28日(火)※会期中無休
■時 間:10:00〜18:00
■観覧料:無料
■会 場:秋田公立美術大学サテライトセンター(秋田市中通2-8-1 フォンテAKITA6階)

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

一覧へ戻る