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秋田公立美大で育まれる≪ものづくり≫のカタチ 第7回「湧水地点」ギャラリートークを開催

ものづくりデザイン専攻の教員・助手による研究発表展 第7回「湧水地点」。3月1日には出展作家によるギャラリートークを開催しました。

コラボレーションが生みだす新しい≪ものづくり≫のカタチ

第7回目を迎えるものづくりデザイン専攻の教員・助手による研究発表展「湧水地点」。3月1日に秋田市立赤れんが郷土館でオープンした本展覧会は、ものづくりデザイン専攻の「プロダクトデザイン」「ガラス」「木工」「漆」「陶芸」「染色」「彫金」の7つの工房に所属する教員・助手による研究活動の成果を発表するとともに、今期は「日本酒×ものづくり」をテーマに、さまざまな角度から日本酒にまつわる器や場の提案を行う作品を展示してます。

展覧会のオープンにあわせて、出展作家のうち10人が、それぞれの作品について解説するギャラリートークを開催。解説を聞きながら「日本酒」をテーマとした作品の数々を見つめると、普段とは違う技法への挑戦や異素材とのコラボレーションを経て、さらに可能性の広がりをみせる秋田公立美術大学で育まれる≪ものづくり≫のカタチが見えてきました。

新型コロナウィルス感染予防のため、マスクを着用してギャラリートークを開催

漆木工×彫金

助手を務める北村真梨子と清水理瑚は、それぞれが専門とする木漆工と彫金で、懐石料理などで供される酒器を制作。

北村の≪桜蒔絵引盃≫は、ケヤキに白漆を重ねて、桜の花びらの蒔絵をあしらった作品。数年前に参加したという神田川沿いの花見を振り返り、眼前が桜一色に覆われた時に飲んだお酒が「人生で一番美味しかった」と語る北村。その時のエピソードに着想を得て制作された本作は、ケヤキの地の色と白漆で盃全体が薄ピンク色に色づいているようにも見えます。清水は、その盃のピンク色に合うようにと銅を素材に盃台を制作し、美しいコラボレーションを実現しました。

作品について解説する清水理瑚(彫金/左)と北村真梨子(木漆工/右)
北村真梨子≪桜蒔絵引盃≫、清水理瑚≪酒盃台≫

プロダクトデザイン×漆

プロダクトデザインを専門とする柚木恵介は、漆の熊谷晃とのコラボレーションで生み出された酒器を発表。「お酒を飲む場は遊びのようなもの」と捉え、遊びの延長のイメージで、自分自身が取り組んだことのないものにチャレンジしようと卵の殻を使った酒器の創作を試みました。

≪かひのこ≫と題された作品は、グース(ガチョウ)とダック(アヒル)の卵殻に漆を塗った作品。どんな鳥の卵を使うと最も良いのかと、さまざまな鳥の卵を用いて実験を繰り返し、グースとダックに行きついたそう。熊谷は、登山好きの柚木と、度々山にスケッチに出かける自身の共通点を手掛かりに、柚木も登ったという秋田駒ケ岳の2万5千分の1の等高線の図柄を文様として施しました。

柚木恵介≪かのひこ≫
柚木恵介(プロダクトデザイン/左)と熊谷晃(漆/右)

企業×美大

先日男鹿線で運行を開始した「卒業メモリアルトレイン」事業でも、ものづくりデザイン専攻とのコラボレーションを実現したJR秋田支社。秋田公立美術大学とJR秋田支社は、今年度もう一つの大きな事業に共同で取り組んでいました。

2019年10月12日、男鹿線を47年ぶりに運行したSLの「DLおが」と「SLおが」。特別運行を記念し、乗客へのノベルティグッズの制作に秋田公立美術大学モノづくりデザイン専攻の今中隆介と柚木恵介、4年生3名が協力しました。

教員と学生らは、乗客への贈り物として何が良いのかを考えるところから開始し、乗車する年齢層や世代によって異なるSLの印象などについて議論を重ね、ノベルティグッズのイメージを収斂させていきました。最終的に着目したのはSLの動力となる石炭。石炭の形状をデフォルメした酒器を提案し、採用されました。

車内で乗客に配布されたノベルティグッズ

石膏型に粘土を流し込んで成型するこの酒器。200個の納品に向け、型の形状、流し込む粘土の状態、どういった釉薬を用いるかについて、実験を重ね、最終的には試作品も含めて500個近い酒器を制作したそう。指導にあたった今中は「学内の発表レベルでは、200個のオーダーがあれば200個制作して終わってしまう。しかし、今回のプロジェクトでは、お客様に納品するためにクオリティに真摯に向き合い、最大限までクオリティを上げることにチャレンジするという貴重な経験を積むことができた。この経験はいろんな場面でいかされることになる」と話します。

実際にプロジェクトに参画したものづくりデザイン専攻の加藤正樹は、マイクを向けられ「お客様の手に渡ることを考えてクオリティを追求するのはしんどい作業。大学内だけではできない学びをさせてもらった」と感想を述べていました。

秋田では、地域の企業と大学の距離が近いことも特徴の一つ。都市部の教育機関では恐らく実現の難しい、学生が実社会でチャレンジする場面があるという点で恵まれているといえるのかもしれません。

ノベルティグッズの制作プロジェクトについて解説する今中隆介(プロダクトデザイン)
マイクをむけられる加藤正樹(右)

Information

秋田公立美術大学 ものづくりデザイン専攻研究発表展 第7回「湧水地点」

秋田市立赤れんが郷土館・秋田公立美術大学連携企画
第5回 秋田アーツ&クラフツ

チラシダウンロード

■ 会期:2020年3月1日(日)~4月19日(日)9:30~16:30
■会 場:秋田市立赤れんが郷土館 企画展示室(秋田市大町 3-3-21)
■観覧料:一般210円(20名以上の団体料金160円)、高校生以下無料
■主 催:秋田市立赤れんが郷土館、秋田公立美術大学
■協 力:NPO法人アーツセンターあきた

<出品作家>
小牟禮尊人(ガラス)、今中隆介(プロダクトデザイン)、安藤康裕(彫金)、山岡惇(木工)、安藤郁子(陶芸)、熊谷晃(漆)、 瀬沼健太郎(ガラス)、森香織(染色)、柚木恵介(プロダクトデザイン)、山本崇弘(プロダクトデザイン)、北村真梨子(木漆工)、清水理瑚(彫金)、大木春菜(ガラス)

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた 事務局長

三富章恵

静岡県生まれ。名古屋大学大学院国際開発研究科修了。2006年より、独立行政法人国際交流基金に勤務し、東京およびマニラ(フィリピン)において青少年交流や芸術文化交流、日本語教育の普及事業等に従事。
東日本大震災で被災経験をもつ青少年や児童養護施設に暮らす高校生のリーダーシップ研修や奨学事業を行う一般財団法人教育支援グローバル基金での勤務を経て、2018年4月より現職。

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