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大森山公園「彫刻の森」で続ける 彫刻保全活動報告

【大森山アートプロジェクト2020レポート④】
秋田市大森山動物園と秋田公立美術大学が連携して取り組む「大森山アートプロジェクト」。大森山公園にある「彫刻の森」では今年も、学生と教員によって彫刻の保全活動が行われました。

大森山アートプロジェクト2020
今年も大森山公園「彫刻の森」で彫刻保全活動を行いました!

秋田市大森山動物園と秋田公立美術大学が連携して取り組んでいる「大森山アートプロジェクト」。2020年度はワークショップやモニュメント制作、映像制作、サル舎やペンギン展示場での作品制作、「彫刻の森」の彫刻作品保全活動などを展開しています。

▼大森山アートプロジェクト2020 プレスリリース
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大森山公園「彫刻の森」では今年も、学生と教員が自然のなかで汗を流して彫刻作品の清掃作業を行いました! 担当コーディネーター 田村 剛のレポートと写真で今年の彫刻作品保全活動を振り返ります。

子どもたちの感性の育成を願って造られた
大森山公園「彫刻の森」

清掃作業スタート。今年は1年生がたくさん参加してくれました

大森山動物園のある大森山公園には、20点の彫刻が点在する「彫刻の森」があります。秋田県彫刻連盟と秋田市によって計画され、1976年5月5日にオープン。当時の若き彫刻家たちが制作に参加し、子どもたちの感性の育成を願って造られました。

そしていま、大森山動物園と秋田公立美術大学が連携して繰り広げる「大森山アートプロジェクト」では、2018年から教員と学生らが彫刻の保全に取り組み始めています。2020年は夏から秋にかけて複雑な天候が続きましたが、晴れ間を見計らった10月11日、11名の学生と本プログラム監修の皆川嘉博准教授らが、大森山公園に保全活動に行きました。

大森山の自然のなかで触れる彫刻作品

今年は大学のある新屋を中心とした地域で活動する秋美の学生サークル「あらやちゃぷちゃぷ大学」にお声がけし、皆川先生の授業を履修する学生と合わせ、多くの1年生が参加しました。

大森山公園の「彫刻の森」に来るのが初めての学生もいたので、作品を観ることからスタート。みんな自由に彫刻のポーズを真似てみたり、作品に駆け寄っていく様は、県外の美術館や展覧会にも行きにくい状況にあって、作品鑑賞への希求を感じさせました。同時に、大森山の自然——カモシカに出会えるほどの——にも興味を惹かれ、塩曳潟に流れ込む水路の水の流れや生き物も気になって仕方がないといった様子でした。

彫刻のポーズを真似てみる学生たち

これまでの活動の成果が見えてきた!

40年以上もの間、自然にさらされた作品の風化に気を付け、昨年までは部分的には高圧洗浄機も用いて汚れを落とす必要がありました。カビや苔を落とし、微生物による表面の劣化を抑える効果があります。今年も同じように考えていましたが、表面の保護(シーラー塗装)が効いたのか、汚れの付着が少なく軽く拭くだけできれいになりました。

今年もシーラー塗装で表面の保護を行いました。彫刻表面が乾いてからコンクリート表面に補強用のシーラーを塗って防水性を高めます。表面が崩れていくことを押さえ込むためです。これまでの活動のお陰で作業を手早く進めることができました。「彫刻の森」の山上にある作品の清掃は昨年までは取り組めなかったのですが、今年はようやく手掛けることができました。

シーラーを塗って防水性を高めて表面を保護

昨年制作した《リヒト》の汚れを落とす

大森山アートプロジェクト2019で、皆川先生によって制作された陶作品《リヒト(Licht)》。昨年、大森山動物園のユキヒョウ「リヒト」展示場横に設置されましたが、屋外に佇んでいることから1年の汚れを落とすことになりました。設置から1年が経って、「環境に馴染んできたようだ」と皆川先生。汚れを落とした《リヒト》は、これからもユキヒョウ「リヒト」の横で来園者を間近に見つめます。

田村 剛(NPO法人アーツセンターあきた)

皆川准教授と《リヒト》

40年の時を超えて、より魅力的な「彫刻の森」へ

昭和51から59年の間に設置された具像、抽像の彫刻20点が佇む「彫刻の森」。季節によって表情の違う大森山の樹々や空を背景に観賞しながら散策できるこの場所で、40年余りの時を刻んできました。今後は、どのような活動をしていったらいいのでしょうか。保全活動のプロジェクトを担当する皆川准教授からのメッセージです。

「彫刻の森」は、彫刻が設置されてから40年以上が経過しています。彫刻の素材は、コンクリート(モルタル)、石材、ブロンズ(青銅)。設置時には木彫や鉄製の彫刻もあったようです。木彫や鉄の彫刻は、その後劣化し壊れ、撤去されています。
野外空間の、しかも秋田県のような雪の降る寒冷地では凍害もあり、彫刻は大変に痛んだ状態でした。特にコンクリートの彫刻は、作品表面がボロボロになって崩れ、カビや苔が生えていました。「彫刻の森」の地形自体が大きな谷の底にあり、湿気などもこもりやすく彫刻にとってはなかなか厳しい環境です。
彫刻保全活動も3年目を迎え、汚れが彫刻に付着しにくくなるなど改善の兆しが見えつつあります。ただし、より抜本的に彫刻を補修・修復するには至っておりません。秋田市民に再び、この素晴らしい彫刻たちに足を運んでもらうには、彫刻1体1体をより高度な修復で蘇らせていくこと。それと同時に、現代の彫刻を新たに設置することが必要だと感じています。そうすることによって、より魅力的な「彫刻の森」になるのではないかと考えます。(皆川嘉博)

■「彫刻の森」の彫刻作品保全活動
田村久留美 大内七海 岡本真実 川西海斗 後藤那月 小林桃子 佐藤和花子 庄司彩乃 濱田悠陽 平山はな 藤原櫻和子[秋田公立美術大学学生]
*監修 皆川嘉博[秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻教員]

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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