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不思議な“いきもの”「粘菌」を探究する映像が 大学YouTubeチャンネルで公開中!

【大森山アートプロジェクト2020レポート⑤】
秋田市大森山動物園と秋田公立美術大学が取り組んでいる「大森山アートプロジェクト」。2020年度はCNA秋田ケーブルテレビと連携した広報活動として、学生たちが「粘菌」に迫った映像を制作しました。ただいま公開中!

大森山アートプロジェクト2020
注目の「粘菌」に迫りました!

秋田市大森山動物園と秋田公立美術大学が連携して取り組んでいる「大森山アートプロジェクト」。2020年度は広報活動の一環としてプログラムのなかから「粘菌」に着目。学生たちが制作した3つの映像はCNA秋田ケーブルテレビ「びよ〜んTEREBI」で放送され、秋田公立美術大学YouTubeチャンネルでも公開中です。

▼大森山アートプロジェクト2020 プレスリリース
▼大森山アートプロジェクト2020 関連記事はこちら
レポート① 冒険しに行こう!大森山の「森の居場所」へ
レポート② 体を使って動物の「まねっこ遊び」をしたよ!
レポート③ 「粘菌」の世界へようこそ!
レポート④ 大森山公園「彫刻の森」で続ける彫刻保全活動報告
レポート⑤ 「粘菌」を探究する映像が大学YouTubeチャンネルで公開中!

秋田公立美術大学ではいま、唐澤太輔准教授を中心とした粘菌研究クラブが大きく動き始めています。粘菌研究クラブの協力を得ながら、地域の人も巻き込んで制作した粘菌映像は、すべて学生の手によって構想から撮影・編集まで進められました。
ここでは第1弾から第3弾の映像を紹介! 第3弾を企画・監督した山田汐音さんのインタビューでは、粘菌とどう向き合ったのか、粘菌と人間とは?について聞きました。

第1弾「ねんきん」のはなし

「粘菌」はアメーバのように動いたり、キノコのような形になって胞子を飛ばしたりする不思議な“いきもの”。動物のようで動物ではなく、植物のようで植物でもない、だけどとても身近にある神秘的な存在です。「風の谷のナウシカ」にも登場するので知っている人も多いかもしれません。
第1弾「『ねんきん』のはなし」では、オリジナルキャラクターねんきんちゃんが唐澤先生にインタビューしたり、美大のある新屋地域の高橋伸さん、久光強さん(新屋レコーズ)に「ねんきん」について質問してみたり。粘菌の基礎知識について、実写とアニメーションを織り交ぜて構成しました。

▼第1弾はこちら

「ねんきん」のはなし 映像制作チーム
ディレクター:ファネス佳乃
編集:増田美優 伊藤達也 大場明 小西黎 杉村春香 ファネス佳乃
撮影:山田汐音 平井楓子 杉山みなみ 中川舞

奇妙な学園恋愛物語
第2弾「ねんきん日記」

第2弾は「ねんきん日記」。粘菌の特性や生態をストップモーションアニメーションで表現した学園ラブストーリー(!?)です。

登場するのは、真面目な女子高生と正体不明の不思議な男子・粘菌くん。ふたりの交流を粘菌くんの変化とともに日記形式で綴った物語。制作にあたって撮影チームは、ストップモーションアニメーションの撮影について萩原健一准教授からレクチャーを受けました。初めて得た技術や知識を存分に発揮して制作。女子高生と粘菌くんの奇妙な交流が心あたたまる(?)作品です。

▼第2弾はこちら

ねんきん日記 映像制作チーム
ディレクター:高橋理央
編集:山田汐音 ファネス佳乃
撮影:山田汐音 加藤璃子 高橋理央 ファネス佳乃
声の出演:増田美優(女子高生) 島崇(粘菌くん)

動きや移動を真似ることで探究した
第3弾「粘菌研究」

学生たちの粘菌への理解も深まってきて迎えた第3弾は「粘菌研究」。粘菌の動きや移動を「真似る」ことで学ぶ研究映像作品です。制作には、秋田公立美術大学粘菌研究クラブの教員や学生、助手らが協力。衣装を用意したり、一部ドローンを利用して撮影するなど大掛かりな撮影となりました。

「粘菌研究」では、身近に生息しているものの謎の多い生命体「粘菌」を見つめる方法として、身体や音を使ってその動きを「真似る」「表現する」ことを試みました。

粘菌を顕微鏡で拡大し、その動きを早送りするとまるで意思があるかのような動きをしています。息をするかのように、心臓の鼓動のようにうごめく黄蘗(きはだ)色の「ススホコリ」。艶やかで白く、萌え出るような「ムラサキホコリ」はだんだん縮まって紫色に変色していきます。この「ススホコリ」と「ムラサキホコリ」が押し合う様子は相撲をとるように見えたり。彼らは果たして、どんな世界を感じ、どう生きているのでしょうか?

▼第3弾はこちら

粘菌研究 映像制作チーム
ディレクター:山田汐音
編集:山田汐音
撮影:大森山アートプロジェクト2020映像制作チーム(加藤璃子/中川舞/ファネス佳乃/増田美優/山田汐音)、秋田公立美術大学粘菌研究クラブ(唐澤太輔/伊東陽菜/後藤那月/坪谷奈摘美/中村花/平山はな/船山哲郎/宮本一行/迎英里子/諸江一桜/林文洲)
出演:秋田公立美術大学粘菌研究クラブ、大森山アートプロジェクト2020映像制作チーム

第3弾「粘菌研究」を監督した山田汐音さん(秋田公立美術大学1年)に話を聞きます。

第3弾「粘菌研究」で身体を使って表現した「ススホコリ」

ビジュアル的な色の鮮やかさや動きの面白さに注目

ーー第3弾「粘菌研究」を監督した山田汐音さんは、第1弾からすべての映像に関わってきました。粘菌との出会いは何がきっかけでしたか?

「粘菌」について知ったのは、大森山アートプロジェクト2020の映像制作チームに参加したことがきっかけです。粘菌研究クラブのミーティングにお邪魔して唐澤先生のレクチャーを聞くうちに、「たしかに面白い」と思いました。第2弾では、高橋理央さん(1年)がつくった学園恋愛物語がしっかり作られていて、これをぜひアニメーションでつくってみたいと思い、ストップモーションアニメーションの撮影レクチャーを萩原先生から受けて初めてアニメーションを制作しました。

ーー第3弾「粘菌研究」は山田さんの企画・構成でした。どんなコンセプトで制作したのでしょうか?

第1弾、第2弾と制作してきて、粘菌のビジュアル的な動き、色の鮮やかさ、かたちなどを映像で表現できたら面白いのではないかと思いました。その動きを人間がやれば、できれば粘菌が好きな人たちがやったら面白いのではないかと唐澤先生に相談したところ、その場ですぐ「やろう!!」という話になりました。先生はもともと、粘菌の動きをもとにダンスをしたり、音を出したりといったことを考えてらしたようでした。粘菌研究クラブの方々にもご協力いただくことになり、唐澤先生から粘菌の映像をお借りしたり、どの粘菌にするか、どんな動きにするかなど皆さんに助けていただきました。助手の船山さんにはドローンを飛ばして撮影していただいたり、撮影の時は出演してくれる人が足りなくてレストハウスにいる人をかき集めたりということもあって…大変でした。複数人で即興的に思い思いの粘菌を演じることもあって、独特な一体感と空気感が得られたのは貴重な体験でした。

鮮やかな黄蘗(きはだ)色の身体がうごめく「ススホコリ」は…
その動きを手の動きで表現しようとイメージ
みんな「ススホコリ」になりきっています

粘菌はどんな世界を見ているのだろう?

ーー映像制作を通して、どんなことを感じましたか?

粘菌はとても魅力的だけれど、不可解な、まだ分かっていない部分が多くて。その感覚的な部分を言葉で人と共有するのに苦労しました。当初はビジュアル目的だったのですが、人間と粘菌の時間軸の違いを映像にすることの難しさや可能性を感じたり、聴こえない粘菌の音を人間の音で表現するのが面白かったり。人間は粘菌をどう見るのかではなく、粘菌はどういう世界を見ているのか。彼らはどんな気分で、どんな世界を見ているのか…という感覚に次第になっていきました。そもそも、人間とは全く違う“いきもの”が感じている世界を想像して浸ろうとすることは、面白いことではあるけれど、難しいことでもありました。

「ムラサキホコリ」が萌生する映像をもとに…
純白の衣装でダンス

ーー制作を進めていくうちに、粘菌との向き合い方が変わっていったんですね。

ビジュアル目的だった最初とは向き合い方が変わっていったので、粘菌の扱い方については考えさせられました。こんなに奥の深い“いきもの”、まだ解明されていないものについて、こういう表現でよかったのかどうか。もっと違う表現の仕方を考えたほうがよかったのかな…と。

ーー映像制作を終えていま、粘菌についてどう思いますか?

粘菌に惹かれたのは、やはり不思議な、未知の可能性のようなものがあるからです。宝探しで見つけるようなめずらしいものや、見たことのない世界を感じたいというのが自分の根底にあって、もしかしたら私自身が未知の世界に行きたいと思っているのかもしれません。自分自身が見たことのない世界を、絵を描くことで感じられたらと思っています。

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秋田公立美術大学粘菌研究クラブでは、2021年3月15日(月)から28日(日)まで、秋田市新屋のアラヤニノで展覧会「めぐり方のレシピ」を開催中です(11:00~18:00)。3月15日(月)にはシンポジウム「粘菌の視座」(複合芸術会議2021Vol.2)が開催されました。
▼詳細はこちらをご覧ください。https://www.akibi.ac.jp/daigakuin/exhibition/粘菌研究クラブ《派生する悦び》/

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「ススホコリ」と「ムラサキホコリ」の粘菌相撲

■大森山アートプロジェクト2020 映像制作
伊藤達也 大場明 加藤璃子 小西黎 杉村春香 杉山みなみ 高橋理央 中川舞 平井楓子 ファネス佳乃 増田美優 山田汐音[秋田公立美術大学学生]
*担当教員 水田圭[秋田公立美術大学コミュニケーションデザイン専攻教員]、萩原健一[秋田公立美術大学ビジュアルアーツ専攻教員]
*協力 CNA秋田ケーブルテレビ

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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