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あそび×まなびのひろば 「鳥の巣画廊」の巣箱をのぞいて、森のなかへ

【大森山アートプロジェクト2021レポート】
秋田市大森山動物園と秋田公立美術大学が取り組む「大森山アートプロジェクト」が今年も大森山公園一帯で開催中です。グリーン広場や彫刻の森では、木々に設置された鳥の巣箱がさらに森のなかへと誘います。

大森山公園で「大森山アートプロジェクト2021」開催中!

秋田市大森山動物園と秋田公立美術大学が取り組む「大森山アートプロジェクト」が今年も大森山公園一帯で始まっています。
大森山公園グリーン広場から彫刻の森にかけて展開する「あそび×まなびのひろば」は、子どももおとなも遊びのなかで学び、学びから新たな遊びをつくる創造的な広場として3年目を迎えました。2021年度の「あそび×まなびのひろば」は、秋田公立美術大学の学生・卒業生14人の手による「鳥の巣画廊」です。

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「あそび×まなびのひろば -鳥の巣画廊-」は大森山公園グリーン広場周辺にて8月29日(日)まで開催。7月24日のオープニングイベントでは、鳥の巣箱を制作した学生が巣箱を取り付けたその場で解説しました
彫刻の森の杉木立にも鳥の巣箱を設置して小さなギャラリーに。木漏れ日がまぶしい、森のなか
巣箱を見つけては、のぞいていく子どもたち。森のなかで別空間へと誘われます

壮大な森で出会う、小さな鳥の巣箱

コロナ禍によって、人と接触することや移動することがはばかられる状況が続きます。そんななかでも鳥は自由に国や地域を移動し、居場所を探して巣をつくり生きていきます。壮大な世界で生きる鳥にならい、大森山公園の森のなかに自然素材でさまざまな鳥の巣箱をつくり、巣箱を画廊として14人それぞれが作品を制作しました。壮大な森のなかの、小さな鳥の巣箱。見つけてなかをのぞければ、そこにはまた別の世界が待っています。

「あそび×まなびのひろば -鳥の巣画廊-」には村山修二郎准教授監修のもと、地域プロジェクト演習を履修する学生を中心とした1〜4年生に加え卒業生も特別参加。暑い日射しを浴びながら、学生たちは森のなかにどんな巣箱をつくったのでしょうか。

小濱百花《くーろんきゅう》は香港発祥の水菓子・九龍球をモチーフに制作。九龍球は寒天ゼリーの中にフルーツが入っていますがカラフルな小花をガラスに入れて涼やかに
楽しさの花、うれしさの花、悲しさの花、寂しさの花。たくさんの思い出の花が咲くポシェットをイメージした藤原すもも《いつかの思い出》。ずっと憶えているかのように、枯れずにそっと咲いています
ふたつの三角形を組み合わせた砂時計を思わせる巣箱が木立に溶けこむ依田碧《ゆるやかな日常》。巣のなかは暖色の花であたたさを表現

森のなかで感じた大切な
「時間」と「存在」をテーマに

大森山を歩いたとき「幼いころから馴染みのある香りがして、包み込まれるようで、すごく安心感や懐かしさがあった」という長谷川由美は《森はいつもあなたのそばに》を制作。大森山の森の雰囲気に「大切な祖父の面影が重なった」と話します。いつもそばにある存在として祖父の面影をイメージして制作した巣箱のそばには、木々のスケッチや言葉で構成したファイルを吊り下げました。

浅沼玲花《旅の途中で》は自分の「成長」をテーマに制作。「森羅万象はいろいろな影響を受けながら変化し続けていく。これから自分はどういう体験をしていくのか、どんな影響を受けて成長していくのか。20歳になるのを機に自分を見つめ直し、立ち止まって振り返る場にしたい」と語ります。

森のなかを流れ、やがて朽ちていく「時間」と「存在」を可視化しようと試みたのは、大野開《朽》。杉木立で2つの異なる木に設置した2つの巣箱のうち、ひとつは空っぽ。もうひとつには小さな黄色い花の絵が掛けられています。静かな時間のなかで時には虫が入り込み、時には風音が響くであろう時間と生物の存在を小さな巣箱に感じさせてくれます。

自分の知らないはるか昔から長く生き、頑固に根を張り、包みこんでくれる森への感謝をつづる長谷川由美《森はいつもあなたのそばに》
蔓や藁、麻縄などの巣箱に自分がこれまで影響を受けてきたものを閉じ込めた浅沼玲花《旅の途中で》
内匠光《貴方の「 」》の巣箱は、小さな家。屋根や扉を開けると小さな和室に静かな時間が流れています
鳥の巣箱を開けると、きれな女性の笑顔。歴史的パンデミックにひたすら家にこもり、手を動かして描いていた作品。水徐琉聖《人生は壮大な暇つぶし》
木漏れ日が差し込む杉木立にふたつの巣箱を設置した大野開《朽》。ひとつは空っぽ。もうひとつには小さな花の絵。風化した絵は絵としての役割を失い、もしかしたら何も残らず空っぽになるかもしれません
大森山動物園から続く広場の木の下に設置した服部正浩《ゐをかる》。一見、鳥の巣箱には見えないテラコッタは、トラの口にキツネ、その奥にはヘビが潜んでいます。森に棲む動物たちの関係性をモチーフにした作品
巣箱を開けると、そこには誰かの巣。「3月に拾った誰かの巣。次に使うのは一体誰なんだろう」と、次の動物を待つ菅原果歩《SECONDLY》

動物と人、自然と人間の関係性
その狭間に潜む「何者か」の存在

グリーン広場の木陰にたたずんでいるのが服部正浩《ゐをかる》。大きく口を開けたトラのその口のなかにはキツネが丸まって入り込み、その奥には・・。
「狐は賢かった。己の弱さを自覚し、より強い者の権威を利用した。しかし狐は気づかなかった。自分よりも弱い者に利用されていることを。
鳥は賢かった。己の弱さを自覚し、より強い者の権威を利用した。しかし鳥は気づかない。安寧の地など無いということを」(看板より)

杉木立の入り口に設置した杉澤奈津子《引っ越しました》は、歯ブラシやハンガー、洗濯バサミ、鉛筆、サンダルなど捨てられた日用品を取り付けた巣箱。どこかから引っ越してきた親子3羽が、オブジェが邪魔で雨漏りのする巣箱に棲み着きました。しかし「お母さんへ 僕は家出します。こんな巣箱はもうイヤです」と、どうやら鳥太郎は両親をおいて巣箱を出ていってしまったようです。巣箱をのぞくと、そのなかには包丁が! 自然と人間の関係に思いをめぐらせるような仕掛けにドキッとさせられます。

一方、ミマチアカリの《大森山vol.3》は、杉の木と同化するかのような巣箱にひっそりと「何者か」の存在を描きます。
「小さな箱は異界との境界世界であり、何者かの高濃度地帯である。その内と外は常に互いを溶かし、狭間にあったかもしれない線を消している。面は硬く時に柔らかい沈黙の中で、無形の存を被っている」(看板より)
巣箱をのぞき込み、沈黙しながらも確かに存在するその気配に、じっと向き合う人の姿がありました。

杉澤奈津子《引っ越しました》を開けて、なかをのぞくと・・
森のにぎわいと静けさのなかに確かに存在する「何者か」を印象づけるミマチアカリ《大森山vol.3》

意識の隙間に存在する
錆びついた「時間」

川西海斗《錆付いた時間》は、金属の腐食反応である錆をもとに巣箱内の空間で時間を描いた作品。「錆は時間と密接に関係し、意識の隙間のような場所に存在している」と川西。その場所の時間を内包した錆を採取することで、場所に流れた時間を切り取ることができます。あるいは錆の侵食を止めたり進めたりすることで、時間を操作することも可能となります。
時間を操った空間は、刻々と姿を変えていくはず。《錆付いた時間》の巣箱のなかを次にのぞいた時には、違う姿が見られるかもしれません。

金属の腐食反応をもとに巣箱内の空間で時間を操作した川西海斗《錆付いた時間》
森のなかで鮮やかな黄色の板が目を引く、田村久留美《無人 AHIRU 長者》
わらしべ長者ならぬ「AHIRU長者」。今後どんな展開を見せるのか・・!? すでにあひると並んでセミの抜け殻が横一列に置かれていました

森のなかで小さな鳥の巣箱を探してのぞくことで、さらに森の奥へと入り込んでいく「鳥の巣画廊」は大森山公園グリーン広場周辺で8月29日(日)まで開催中。全14カ所にある巣箱は黄色い旗が目印です。
秋田市大森山動物園と秋田公立美術大学の「大森山アートプロジェクト2020」は今後も続きます。お楽しみに!

■あそび×まなびのひろば -鳥の巣画廊-
長谷川由美 藤原すもも 浅沼玲花 依田碧 内匠光 小濱百花 川西海斗 菅原果歩 水徐琉聖 服部正浩 大野開 田村久留美 杉澤奈津子 ミマチアカリ[秋田公立美術大学学生・卒業生]
*監修 村山修二郎[秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻教員]

撮影:草彅 裕

Information

大森山アートプロジェクト2021「あそび×まなびのひろば -鳥の巣画廊-」

●会期:7月24日(土)〜8月29日(日) 10:00〜16:00
●場所:大森山公園グリーン広場周辺
●参加費:無料[自由に参加いただけます]
※参加者は画廊の作品を見てまわりながら森のなかで自由に自分の責任であそんでください。人は常駐していません。自然に近いエリアなため、無帽、黒い服装や軽装、サンダルなどでは危険です。蜂やけものなどにも十分注意してください。自然物はむやみに取ったり傷つけたりしないでください。小さなお子さまは保護者の方と一緒にお越しください。
●主催:大森山動物園、秋田公立美術大学
●企画・制作・お問い合わせ:
NPO法人アーツセンターあきた TEL.018-888-8137

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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