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地域に愛され続けるものを目指して 「ドンパン娘キャラクター・ロゴ制作」

【ドンパン娘キャラクター・ロゴ制作事業 レポート】
秋田公立美術大学は本年度、秋田県大仙市と協働で同市中仙地域を代表するイベント「ドンパン祭り」の踊り子「ドンパン娘」のキャラクター・ロゴ制作事業に取り組んでいます。2023年3月の完成を目指し、調査やドンパン娘などへの聞き取りから始めて、約9カ月。地域に長く愛されるドンパン娘のキャラクター・ロゴとは何か、追求した学生たちの姿を紹介します。

ドンパン娘の本質を探る

参加する教員・学生が初めて顔を合わせた2022年6月。担当教員の石川昌准教授(コミュニケーションデザイン専攻)は集まった学生6人に伝えました。「地域に長く愛されるキャラクターとロゴをつくりたい」

地域の人々に受け入れてもらい、使ってもらい、愛し続けてもらいたい。「大切なのは、ドンパン娘の根本的な本質を掴んでキャラクターやロゴに落とし込むこと。ドンパン娘たちの雰囲気、踊りの仕草、地域においてどんな存在なのか。探っていこう」

かわいい女の子のキャラクターは探せばたくさんいます。ドンパン娘のキャラクターやロゴだとわかるような「ドンパン娘らしさ」とは何か。
制作の一歩目は、インターネットや資料に眠る先行事例を、そして中仙地域に散らばるデザインの核となる要素を、拾い集めることから始まりました。

ドンパン祭りで踊るドンパン娘(2017年、ドンパン祭り実行委員会提供)
ドンパン節を踊る人々。多くの人が踊りに参加する(2017年、ドンパン祭り実行委員会提供)

ドンパン祭りの踊り子「ドンパン娘」

「ドンドンパンパン、ドンパンパン」
思わず口ずさみたくなる明るい曲調で親しまれている民謡「ドンパン節」。その発祥の地、大仙市中仙地域では毎年8月16日にドンパン祭りが開かれます。盛夏の夜に力強く響く祭囃子、心浮き立つ曲調に誘われて、幾重もの大きな踊りの輪が生まれます。

ドンパン祭りのステージや地域内外のイベントで、お手本として踊るのが踊り子「ドンパン娘」。そろいの絣衣裳と花飾りを身に付け、中学生から大人まで幅広い年代の約30人が活躍しています。

今回の事業ではこのドンパン娘を題材に、ロゴを1種類、キャラクターは「等身大」と等身を縮めてデフォルメされた「ちびキャラ」の2種類作成します。

ドンパン祭り実行委員会
公式HP:http://donpan.hana.jp
公式Instagram:https://www.instagram.com/donpan_festival/

「現地に行って印象変わった」

7月に大仙市を訪れた現地調査では、大きな発見がありました。「土地の雰囲気、踊りや曲の様子など実際に行かないと分からない雰囲気を感じることができた」。学生の一人、三塚陽菜さんは振り返ります。

学生たちは現地調査の前に先行事例を集め、デザインに活かしたいポイントをまとめてきました。そのポイントは「使いやすいシンプルさ」「しなやかな踊り」「地域のアイドル的な存在」など。
現地調査は地域の人やドンパン娘たち本人への聞き取りを通し、ドンパン娘に持つ思いを探り、学生が考えたポイントとのズレや活かすところを確認する機会でした。

学生たちによる事前調査のアイデア(一部抜粋、PDF)

ドンパン娘(左から2番目)をお手本にドンパン節の踊りを体験する学生

現地調査で得られた発見の1つは「踊りの印象」です。
「指先までの意識がすごい。何回踊っても美しいままだった。美しさを感じる一方で、踊りの強さ、元気さを感じた」(早坂七海さん)
現地調査では、ドンパン娘がお手本となり、ドンパン節の踊りを市民が体験する講習会に参加。学生たちも実際にドンパン節を踊ってみましたが、なかなか指先まで気が回りません。しなやかに、かつ元気よくエネルギッシュに踊り続けるドンパン娘たちに驚きました。

絣姿のドンパン娘から聞き取りをする学生

さらに、アイドルではないという「地域での在り方」。 
「ドンパン娘はアイドル的なイメージだったが、実際はわいわいと楽しそうに練習をやっていて、地域に住んでいる身近にいる女の子たちなんだなと感じた」(吾妻楓子さん)
ドンパン娘たちは練習でも笑顔でにぎやか。手の届かないアイドルではなく、『一緒に踊ろうよ』と誘ってくれる身近なお姉さんのような親しさがありました。

ドンパン祭りが開かれるドンパン広場を見学する学生ら

そして、中仙を巡って感じた「土地の雰囲気」も制作の糧となります。
現地調査では、ドンパン祭りが開かれるドンパン広場や道の駅「なかせん」なども巡りました。山々に臨み、春は桜、秋は黄金色に染まる田んぼが思い浮かぶのどかな風景。聞き取りに協力してくれた地域の方々の優しさやドンパン節への愛着。「踊りの指導、聞き取りの時、とても温かく迎えてくれた。素朴な温かさ、優しさを反映したい」(牧田颯平さん)

事前の資料集めや現地調査と同時に、委託者の大仙市やドンパン祭り実行委員会からは「ドンパン娘」のブランドイメージを聞き取り、共有しています。

ドンパン娘ブランドイメージ(PDF)

本来ならば8月16日のドンパン祭りにも訪問して、祭りの様子を体感する予定でしたが、あいにくの雨でまさかの中止。
現地調査は7月のみでしたが、学生が考えたデザインのポイントとのズレや活かすところを確認でき、デザインの基礎となるブランドイメージも固まりました。

いよいよキャラクターとロゴの制作に入ります。

道の駅の歩道には「どんぱん節の里」と刻まれている

3つの世界観

制作はキャラクターから。ロゴはキャラクターのデザインがある程度定まった後に、そのデザインに合うものを制作することにします。

「デザインで大変なのは『世界観の決定』。最初の提案で世界観、つまりデザインの方向性を3つ出せると良い」(石川准教授)
2案だけだと「どちらかを選ばなければいけない」と検討しにくく、逆に4案以上だと選択肢が増えすぎて選びにくい。内容を比較して選択しやすい3案を提示し、方向性の決定を目指します。

学生たちは3案のグループに分かれ、それぞれが「等身大」と「ちびキャラ」のキャラクターを制作することに。「自分たちが楽しみながら、喜んでもらえるものをつくってほしい」と石川准教授は呼びかけます。

検討を重ね、提案する3案の方向性も決まりました。
「王道」「シンプル」「個性的」です。

「王道」「シンプル」「個性的」どれがいい?

10月、大仙市とドンパン祭り実行委員会に向けてプレゼンをする日がやってきました。キャラクターの制作に本格的に取り掛かってから2カ月。学生たちが制作したキャラクターを初めてドンパン祭り実行委員会に示します。

学生たちはこの時、キャラクターのデザインやコンセプトだけなく、キャラの背景設定やグッズへの展開例まで練り上げた資料を準備していました。今後の展開まで想像できるような提案だと、依頼した側もキャラクターが実際にどのように使われるかイメージしやすくなるためです。
それぞれの自信作を掲げた学生たちは、自分達の言葉でデザインのコンセプトを説明しました。

ドンパン娘キャラクター第1稿プレゼン資料(全11ページ、PDF)

zoomでドンパン祭り実行委員会(左)へプレゼンする学生ら(10月)
zoomでドンパン祭り実行委員会(左)へプレゼンする学生ら(10月)

[王道]はドンパン娘の元気良さ、豊かな表情を押し出した誰もが愛着を持つようなキャラクターです。
漫画的でありながらも目が大きなアニメ調のいわゆる萌えキャラにはせず、キャラの性格や家族などの設定を盛り込んで、キャラを立たせます。

[シンプル]は使いやすさを重視しています。
おばこらしい、日本的・伝統的な雰囲気を線や色合いをレトロ調にすることで表現し、描き込みを少なくすることで広告やパッケージデザイン、立体グッズなどへの使いやすさを意識しました。

ひと目見た時に驚くようなデザインの[個性的]。
体型や肌の色が多様なキャラを集めて現代的な多様性を持つグループ案を提示したり、ドンパン節が輪になって踊る盆踊りであることなどから「円」との関わりをモチーフにしたり、他にはないデザインを強調しました。

それぞれの方向性で、ドンパン娘らしさを追求したキャラクターです。
石川准教授は実行委員に伝えました。「自信を持って制作したキャラクター。この中からドンパン娘として特に強く出したい要素というものを教えてほしい」
ドンパン娘たちや地域の人々にとって、どの要素がキャラクターとして重要なのか。選んでもらうこととなりました。

この第1稿は同時に、アンケートとして中仙地域全世帯約3200戸、中仙地域小中学校、市内事業所に配布され、SNSやHPでも意見を募集しました。
ドンパン娘キャラクターアンケート募集ページ(現在は終了しています)

愛らしく、親しみやすいドンパン娘

11月末、市民アンケート約460件の回答とドンパン祭り実行委員会の了承を得て、キャラクターの方向性が決まりました。
ドンパン娘の親しみ、愛らしさが全面に出た[王道]です。

アンケートでは約7割が[王道]が良いと回答。「令和の時代にふさわしい今どきのかわいさがある」「幅広い年代に親しまれやすい」「ひとめで『皆で一緒に踊りたい!』とワクワクな気持ちになる」など、誰もが受け入れやすいキャラクターが好まれたようです。

一方、[シンプル][個性的]の案に対しての意見も集まりました。

[シンプル]は「落ち着いたレトロな感じがドンパンらしい」「おばこらしさが地域特有の良さを出している」など。
[個性的]では「誰でもなれるという多様性の表現がいい」「他のキャラクターと差別化を図ってほしい」「他にはないユニークさがほしい」など。
[王道]を選ばなかった市民の方がキャラクターとして求めているのも、やはり「ドンパン娘らしさ」でした。

王道一筋に絞るのは最善ではないかもしれない。メンバーは検討を重ねます。
当初は3つの方向性から1つに絞るという目標でしたが、シンプルな「おばこらしさ」も個性的な「他にはないユニークさ」も重要ではないか。
現地調査で集めた資料を見直し、制作の原点に立ち戻りました。

踊りの資料を見ながら方針を話し合うメンバー(11月)

「らしさ」を追い求めて

たどり着いた結論は、[王道]をデザインの基本の方向性としつつ、[個性的][シンプル]の要素も取り入れるという方針です。
ドンパン娘の他にはないユニークさを出すことや中仙地域から育まれるおばこらしさは、親しみやすさや愛らしさと同様に、ドンパン娘の「らしさ」としてキャラクターに必要なものでした。

[王道]の絵柄に、[個性的]の「誰でもなれる」という在り方や、踊りの輪の「円」などからモチーフに円を使うコンセプトを活かし、色合いや線の描き方などは[シンプル]に時代が変わっても受け入れられるよう工夫することとします。

一度原点に立ち戻ったことで、よりドンパン娘への理解が深まったメンバー。
ロゴの制作も開始し、完成に向けて一気に走り出します。

ロゴアイデアを描く学生(12月)
キャラクターを描く学生(12月)

完成は3月!お披露目は8月に

そして現在、制作は3月の完成を目指して佳境に入っています。
メンバーたちはこの9カ月、探し続けてきました。地域に受け入れてもらい、使ってもらい、愛してもらえるキャラクターやロゴはどんなものか。

「最初から良いものを作り続けようという気持ちだったけれど、修正を重ねるにつれてどんどん良いものに変わっていっている」(増田美優さん)、「自信を持って出せるデザイン。完成に向けて最後まで頑張りたい」(高橋空乃さん)と学生たちは振り返ります。

コンセプト、線の描き方、色、ポーズ、表情。キャラクターやロゴを制作する過程でメンバーはさまざまなアイデアを見つけ、描き、途中で消えたものもありました。

そんな日の目を見なかったアイデアも吸収し、1つのデザインとして3月にはドンパン娘のキャラクターとロゴが完成します。

お披露目されるのは、来年8月のドンパン祭りの日。
少し先のこととなりますが、楽しみにお待ちください。

Information

ドンパン娘ロゴ・キャラクターデザイン制作事業

■プロジェクトメンバー
大仙市
秋田公立美術大学
 石川 昌(コミュニケーションデザイン専攻准教授)
 吾妻 楓子(同専攻3年)
 高橋 空乃(同)
 早坂 七海(同)
 牧田 颯平(同)
 増田 美優(同)
 三塚 陽菜(同)

■協力
ドンパン祭り実行委員会
公式HP:http://donpan.hana.jp
公式Instagram:https://www.instagram.com/donpan_festival/

■コーディネーター
伊藤 あさみ(NPO法人アーツセンターあきた)

■お問い合わせ
NPO法人アーツセンターあきた TEL.018-888-8137
※本事業は、大仙市から「ドンパン娘シンボルキャラクター・ロゴ制作事業」として委託を受け実施しています。

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

伊藤あさみ

新潟県生まれ。元新聞記者。地域の話題から医療・政治・司法関連まで幅広く執筆。2022年より、アーツセンターあきたにて主に秋田公立美術大学の地域連携事業を担当。離島暮らしや豪雪地帯を経験した中で、伝統が残る祭事や風土などに触れ、どんな所でもその土地ならではの良さがあふれているなと感じています。好きなゲームはDQ11。

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