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東北で“うた”をつくること。 「singing forever 高砂」ラジオ配信開始!

“うた”を扱った表現活動を展開するアーティスト・磯崎未菜が2つの土地を“うた”でつなぐ展覧会「singing forever 高砂」が、秋田市八橋の秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINTで開かれています。オープン初日にはウェブ上で「singing forever 高砂 開会報告」がライブ配信されました。

RADIO「singing forever 高砂 開会報告」

出向いた土地の人々の生活・風景を研究しながら、その土地の現在にそった“うた”をつくり、映像作品を制作するアーティスト・磯崎未菜。秋田市八橋の秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT(CNA秋田ケーブルテレビ社屋内)では、宮城県と兵庫県、2つの土地を“うた”でつなぐ展覧会「singing forever高砂」が開かれています。6月8日のオープン初日には、ウェブ上で「singing forever高砂 開会報告」がライブ配信されました。
http://singingforever.me/

本展は、BIYONG POINTと和菓子屋「高砂堂」(秋田市通町)の2カ所で展開。“うた”や映像を表現手段とする磯崎が、「声」を扱うメディアであるラジオ番組を展覧会と並走して配信していきます。約1時間20分のライブ配信「開会報告」では、まずは「高砂」との出会いから語り始めました。本展を企画した石山律(NPO法人アーツセンターあきた)を聞き手に、ゆるゆるとスタート。

防潮堤と新しい道路の狭間に、2体のお地蔵さんが建っていた

磯崎は2017年から、ある特定の土地に通い、その土地にそった新しい“うた”を映像作品として制作する《小民謡プロジェクト》を展開。2018年には仙台に住まいを移し、震災以降の人々の暮らしや風景の変化を記録に残すドキュメンテーションにも関わっています。

福島県や宮城県の沿岸部をめぐった磯崎が、“うた”をつくるために幾度となく通った高砂地区の蒲生で出会ったのが、2体のお地蔵さんでした。

「そこは災害危険区域に指定されていて、人はもう暮らすことのできない場所。土地の名前もなくなってしまうかもしれない。現在は区画整備工事の真っ最中で、七北田川左岸の真っ白な防潮堤と新しい道路の狭間に、2体のお地蔵さんが建っていました。その風景に、衝撃を受けて」

この高砂地区の名前の由来となったのが、世阿弥の謡曲《高砂》で名高い兵庫県の高砂。地形が似ていたことから同じ名前になったといいます。

「姿形を変えつつある高砂と、由来となった高砂。2つの高砂をつなげる表現、橋を架けるような表現ができないかというところから、展覧会の構想が立ち上がりました。2つの場所をつなげようと思った時に、能の《高砂》のお話をヒントにしてつくろうと考えました」

《小民謡プロジェクト #蒲生場所》2019

東北は、風景と人の暮らしが速い速度で変わっていく

「これまでに、《小民謡プロジェクト》として3本の“うた”の作品をつくりました。プロジェクトをやるきっかけになったのは2016年に参加した『みちのくアート巡礼キャンプ』というワークショップ。そこでたくさんの出会いがあり、私にとって大きなターニングポイントになった。震災後の東北は、風景と人々の暮らしがとても速いスピードで変わっていて、その変化を見つめていくことは自分にとっても価値のあることだと分かり、(土地を記録するためのメディアとして)“うた”のプロジェクトが生まれました」

東北をめぐる前段階として取り組んだのが、東京都にある多摩ニュータウンを舞台にした《小民謡プロジェクト #稲城場所》でした。

《小民謡プロジェクト #稲城場所》2018

「《小民謡プロジェクト #稲城場所》を制作した時は、土地と風景と自分が対等にあると感じて、そのせめぎ合いの中で面白いものができているという実感があった。でもその後に東北に移って、震災以降の風景に圧倒され、自分が見るものに対してどのようなレスポンスを返していくのかということに戸惑ったし、表現にする上で倫理的な問題ももちろんある。自分がこれまでに考えてきた美術の面白さに落とし込んでいく方法が見つけられなかったというのが正直な実感です。何か大きな現実に圧倒されて、太刀打ちできなくて、それに対してただ優しく表面を撫でることしかできないというか。表現がどんどん祈りにも似たようなものになってしまった」

そう振り返る磯崎。

「“うた”は土地の記録として社会に機能するものだと考えてつくっていたけれど、祈りになってしまった東北での表現は、『無意味だ』と思いました。もちろん祈りは切実でとても重要で、そこから派生していくものには価値がありますが、外から来た人間が今頃ただ祈っていても何の意味もないだろうという思いがある。だから今回の展示では、ゼロから新しい“うた”をつくるのではなく、もう知られているものに別の見方を与えるようなやり方をしようと考えました。遥か昔に世阿弥がつくった伝統的な能に、新しい記憶を重ねていくように構成したのが『singing forever 高砂』です」

磯崎にとって、“うた”とは何なのか。何に影響を受け、表現方法をどう摸索してきたのかー。磯崎と石山の会話は、まだまだ続いていきます。

2会場で行われている展覧会同様、展覧会と並走するように配信されるラジオもぜひお楽しみください!

ラジオ配信+関連イベント
全てのラジオ配信と関連イベントの音声をウェブサイトで生配信、アーカイブします。
配信サイト http://singingforever.me/

■ラジオ配信
「ダムタイプと、声と痛みとユーモアと」
※会場非公開
日 時:2019年6月9日(日)21:00~23:00
ゲスト:高嶺格(美術家)
ゲストプロフィール:
1968年鹿児島生まれ。90年代、ダムタイプにパフォーマーとして参加。その後、身体を通して表現する数々のパフォーマンス、または観客と作品の双方向性を志向するインスタレーションや、映像・音響メディアを多用した作品を発表。2000年代以降には、音楽家やダンサーとのコラボレーション、舞台演出などジャンルを越境する幅広い表現活動に携わる。近年の個展に2012年「高嶺格のクールジャパン」(水戸芸術館)、2016年「Brothers」(TKG、台北)など。秋田公立美術大学ビジュアルアーツ専攻教授。

■ラジオ配信+イベント
「震災以降のぼくらについて」
※公開、入場無料
日 時:2019年7月12日(金)19:00~21:00
会 場:アラヤイチノ(秋田市新屋表町8-11)
ゲスト:小林太陽(美術家)
ゲストプロフィール:
1995年東京都生まれ。2016年、国際基督教大学在学中に、ゲンロン カオス*ラウンジ新芸術校第2期に参加、現代美術に初めて触れる。キャラクターなどの第3者を媒介に、作家自身と他者との関係性をテーマにした映像作品を制作。また、作家活動と並行して東京・西荻窪にあるスペース「画廊跡地」(旧・中央本線画廊)の企画運営を行っている。主な参加展に2019年「お前からはいつだって予感がする」(画廊跡地)、2018年「破滅*アフター」(六本木ヒルズA/Dギャラリー)、「カオス*ラウンジX ポタティックドリーム 実質ヴァーチャルの冬」(中央本線画廊)。

■ラジオ配信+イベント
<レクチャー>「大衆歌とプロパガンダ」
※公開、入場無料
日 時:2019年7月13日(土)16:00~18:00
会 場:秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT
ゲスト:辻田真佐憲(作家・近現代史研究者)
ゲストプロフィール:
1984年、大阪府生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院文学研究科中退。政治と文化芸術の関係を主なテーマに、著述、調査、評論、レビュー、インタビューなどを幅広く手がけている。著書に『天皇のお言葉』『大本営発表』『ふしぎな君が代』『日本の軍歌』(以上、幻冬舎新書)、『空気の検閲』(光文社新書)、『文部省の研究』(文春新書)、『たのしいプロパガンダ』(イースト新書Q)などがある。監修に『満洲帝国ビジュアル大全』(洋泉社)など多数。

Information

磯崎未菜「singing forever 高砂」

■会 期 2019年6月8日(土)〜8月18日(日)9:00〜18:00
■観覧料 無料
■会 場
秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT(秋田市八橋南1-1-3 CNA秋田ケーブルテレビ社屋内)
高砂堂(秋田市保戸野通町2-24)※毎週日曜、毎月15日定休
■主 催 秋田公立美術大学、NPO法人アーツセンターあきた
■協 力 CNA秋田ケーブルテレビ、株式会社高砂堂
■デザイン 根本 匠

《住吉、面の内より謡う》2018-2019

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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