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考えている。現象を見ている。 渡辺楓和展「遠くの雨が聞こえる」

日常にある「現象」に着目して作品を制作している作家・渡辺楓和を特集した展覧会「遠くの雨が聞こえる」が秋田駅前の秋田公立美術大学サテライトセンターで開かれています。秋田公立美大を卒業した作家の活動を紹介する卒業生シリーズ第2弾。7月28日まで。

「遠くの音がよく聞こえると雨」

日常のそこかしこにある「現象」を見つめ、作品を発表している作家・渡辺楓和を特集した展覧会「遠くの雨が聞こえる」が秋田駅前の秋田公立美術大学サテライトセンターで開かれています。秋田公立美術大学とNPO法人アーツセンターあきたの主催。

本展では、《夕焼け》《風》《虹と花火》《人工の欠片》など7点を展示。空を読み、風を集め、光を捉える渡辺の感度によって「現象」を再構築しています。
展覧会初日に行われたギャラリートークには、在学生や卒業生、一般の来場者らが参加。身近にあるさまざまな「現象」を捉え、「私のなかにある現象と感覚のサンプルをかたちにした」という渡辺が、出展作品や制作過程について解説しました。

渡辺は高校時代から絵画やデザイン制作を始め、秋田公立美術大学では素材と向き合う面白さから、ものづくりデザイン専攻(ガラス・陶芸)に在籍。吹きガラスやキルンワーク、手びねりや鋳込みなどガラスや陶芸の基礎を学びました。素材が持つ質感やその変化に魅せられ、渡辺はやがて、日常に現れる「現象」に着目するようになります。

変わっていく「現象」の速度や時間の層をとどめる

「朝焼けは雨、夕焼けは晴れ」「飛行機雲が立つと雨、すぐに消えると晴れ」「遠くの音がよく聞こえると雨」といった法則や、したたる雨のゆらめきやよどみ、錆びた屋根、コーヒーの染み。それらは高気圧や低気圧、空気中の水蒸気量、浸透圧などによって、時間と空間の内に現れては消えていく現象です。

「変わっていく速度や時間の層を、目に見えるようにとどめたい」

そう語る渡辺は、現象と人との距離感や時間の流れの異なりを見つめ、紙や石膏、セメント、蝋などの素材で現象をかたちにする行為を繰り返しています。渡辺は日々、どのように「現象」を見つめ、生活のなかで素材と関わってきたのでしょうか。

《夕焼け》(2019年)

違う時間軸にあるものとすれ違う

渡辺が素材とするのは、紙やプリントした写真、ペンや絵の具、石膏や蝋など。「特定の技法や素材にこだわらず、素材と人との関わり方によって生まれる現象が作品のもとになっている」と語ります。

《夕焼け》は渡辺がデジタルカメラで、異なる場所、異なる時間の空を撮影した写真をもとにした作品。インクジェットプリンターで出力した写真に水を垂らして生まれたインクのにじみは思いもよらない形に広がり、実在しない新たな空を描き出します。あるいは鉄錆を付けて劣化させ、日々その変化を観察した記録。違う時間軸にある空が夜へと切り変わる速度や時間の層が、夕暮れの空気感をはらんで揺らめきます。

《虹と花火》(2019年)

にじんだ色彩がしたたる《虹と花火》は、にじみをもたらす毛細管現象や、均一に混ざろうと動く浸透圧、上から下へと伝い落ちる重力といった当たり前のように生じる「現象」を捉えた作品。目には見えないがそこかしこにあるはずの「現象」を、色を使うことで可視化しています。

「空気中の水分や光。色がそれらを特別なものにする“幸せな現象”」と解説する渡辺。それは、「窓ガラスを伝う水滴の軌道、繊維に引き込まれていく水分子の行方をもう一度見たいと色で追いかけた」行為であると語ります。

色彩の“にじみ”によって、毛細管現象や浸透圧、重力といった「現象」が可視化される

光の反射を抑えて透過する、水と蝋の現象

「もしも雨に色が付いていたら、地面はどう見えるだろうか。大小の粒が重なり合っていく様子はきっと、美しいだろうと思う」

地面やアスファルトに落ち、染み込んでいく雨粒を捉えようとする渡辺の《水たまり》は、紙に蝋を垂らし、無邪気に切り取った作品。

「水や蝋は繊維に染み込んで、繊維の隙間を満たします。光の反射を抑えて透過させるため、透けたり、本来の色を現したりする」と渡辺。光をあて、手で動かしてみることで、雨粒のような蝋はさまざまな表情を見せます。

ぽつぽつと雨粒が重なるかのような《水たまり》(2019年)
雨が匂い立つアスファルトのような作品《無題》(2019年)。コート紙やチップボール紙にクレヨンで色を付け、蝋引きした箱を並べた
街の光を捉えた写真をもとに、板ガラスに風の軌道を施した《風》(2019年)

風景に表情をもたらす「天気」

「雨は悲しみ、曇りは浮かない気分、晴れはハッピー、雷は衝撃…。天気と感情はよく結び付けられるけれど、空を見上げて天気を見ると、さまざまな感情や記憶を想起する。現象と感情の関わりは、奥が深い」

ガラスに水、石鹸、テグスを使った実験的な作品《知らない天気》には、変化に気づき、観察し、現象を捉えようと試みる渡辺の感度が生きる。

《知らない天気》(2019年)
《知らない天気》(2019年)
浜辺で見て「きれいだと思ってしまった」というプラスチックやガラスの漂流物を集めた《人工の欠片》(2019年)

渡辺楓和展「遠くの雨が聞こえる」では、会場にて7月7日(日)「にじみ」のワークショップを開催。絵の具やペン、紙などを使ってにじませ、七夕の短冊を作ります。時間は11:00〜12:00、14:00〜15:00。当日、会場にお越しください。

Profile

渡辺楓和 わたなべふうわ

1994年秋田市生まれ。県立秋田北高等学校、秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻(ガラス・陶芸)卒業。これまでART BOOK TERMINAL TOHOKU 2016、2017出品、ガラス教育機関合同作品展出品、カレンダー草子(画詩集)制作・出版。2017年からアート・ものづくり・デザインの間をいくユニット「ふきぬけとそぞろ」として二人展、イベントなどにも参加。

Information

渡辺楓和展「遠くの雨が聞こえる」

チラシダウンロード(PDF)

◼︎会 期 2019年6月22日(土)〜7月28日(日)10:00〜18:50 ※会期中無休
◼︎観覧料 無料
◼︎会 場 秋田公立美術大学サテライトセンター(秋田市中通2-8-1 フォンテAKITA6階)
◼︎主 催 秋田公立美術大学、NPO法人アーツセンターあきた
◼︎デザイン 越後谷洋徳

◆ギャラリートーク
6月22日(土)14:00〜15:00
会場にて作家による作品解説を行います。

◆ワークショップ
7月7日(日)11:00〜12:00、14:00〜15:00
作家による小さなワークショップを開催。紙と画材を使ってさまざまな「にじみ」をお楽しみいただけます。当日、会場にて随時ご参加ください。

撮影:越後谷洋徳

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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