「アウト・オブ・民藝|秋田雪橇編 タウトと勝平」小冊子+相関図、発行!
秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT(ビヨンポイント)で1月18日から始まった展覧会「アウト・オブ・民藝|秋田雪橇編 タウトと勝平」。
「アウト・オブ・民藝」とは、軸原ヨウスケと中村裕太が2018年から展開してきた「*民藝」の周辺をめぐるリサーチ活動のこと。香川から秋田に移住した宇野澤昌樹も加わった3人が、ブルーノ・タウトや版画家・勝平得之など秋田をフィールドワークして出会った秋田の「アウト・オブ・民藝」に迫りました。
本展ではこの度、展示解説や相関図など展覧会内容をギュッと詰め込んだ小冊子を発行。展覧会の記録に加え、軸原・中村による相関図解説の書き下ろし、秋田で戦前の民具などをコレクションする油谷満夫氏のインタビュー記事、付録にはタウトと勝平にまつわる相関図など充実した内容になっています。
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*民藝運動(1926-)とは、柳宗悦・河井寛次郎・浜田庄司らによって提唱された生活文化運動。名も無き職人の手から生み出された日常の生活道具に美を見出し「民藝(民衆的工芸)」と名付けられた。

展覧会記録として発行した小冊子(四六判 128×188mm、32頁)と、タウトと勝平にまつわる相関図(376×508mm)。軸原・中村による相関図解説の書き下ろしや、秋田で戦前の民具をコレクションする油谷満夫氏へのインタビュー記事などで構成。付録である相関図はポスターサイズ。大きく広げて壮大な「アウト・オブ・民藝」の旅を追体験することができます。
会場であるBIYONG POINTで展覧会初日に開かれたオープニング・トークでは、2018年に発行された書籍『アウト・オブ・民藝』の版元である誠光社(京都市)の堀部篤史氏が「アウト・オブ・民藝」の成り立ちと展開について解説しました。「アウト・オブ・民藝」とはどのような活動なのか、今後どんな展開を見せていくのかーー。小冊子を手にとる前に堀部氏のトークをご覧いただきたく、当日の記録を公開します。

『日本美の再発見』の旅を起点として
堀部:京都の誠光社という書店の堀部と申します。誠光社は20坪弱の個人書店で、基本的に私が切り盛りしており、店舗営業だけでなく小規模ながら本の発行もしておりまして、2018年に発行した、今回の企画のもととなる書籍『アウト・オブ・民藝』の発行元でもあります。秋田での展覧会には蛇足的になるかもしれませんが、「アウト・オブ・民藝」という企画自体の成り立ちや魅力についてお話させていただきたいと思います。
まず私は、自分の店を閉めてから大阪のモノレールを乗り継いで、伊丹空港から秋田空港まで飛行機に乗ってこの会場まで来ました。1日足らずの旅程ではあるんですがその途上でブルーノ・タウト著『日本美の再発見』を読みながら旅をしてきました。タウトも京都から電車とか車を乗り継いで、上野伊三郎さんの導きのもとに秋田まで旅しています。その途中で勝平得之の版画を目にして、勝平を案内役に迎え入れるという経緯でした。この本を読みながら、なんとなく不思議なタウトの旅情みたいなものを感じながら私も秋田にやってまいりました。
愛情込めて調べ上げた相関図
堀部:話を戻しますと、『アウト・オブ・民藝』という本に至る前に、まずはうちの店のギャラリースペースで小さな展示をしていただいて、その展示に合わせて全5回のトークセッションを開催、終了後にそれを本にまとめようという前提でスタートしたのがこの企画です。そもそも、軸原くんと僕は個人的に友達で、飲んだり飯食ったりして話をする中で、「『アウト・オブ・民藝』ということを考えている」と聞いて、「それ、すごく面白そうだね」と。「じゃあ、ぜひうちでやりましょう」という流れで実現しました。トークするなら中村さんとならできるんじゃないかという話を受けて、お二人で展示とトークをしていただく流れになりました。わたしは「アウト・オブ・民藝」の内容に関わっているわけではなくて、彼らのコンセプトを受けて自分でも勉強しながら本を編集・発行人を務めさせていただいたというわけです。
個人出版なので当初取り次ぎを通すことはせず、いわゆる大型書店には並んでいなかった本なんですけれども。初版1,500部刊行して、展示が松本市に巡回するなどした結果、半年足らずで1,500部が無くなりこのほど重版する運びとなりました。個人出版で2,500部というのはかなりの数字かと思います。大手出版社の初版ですと数万部という感覚はあるかもしれませんが、この出版不況と言われる中でいわゆる人文系出版の初版は2,000部も珍しくないと聞きます。そうするとあらためてこの『アウト・オブ・民藝』の反響の大きさ、「民藝」というキーワードの皆さんからの関心は広いものだなと実感しています。それ以上に、言い方は悪いですが徒花的な、歴史的には決して正史の中心にはいない人たちを拾い上げて、愛情を持って相関図を調べ上げて提示しようという彼らの活動に共感していただく読者が非常に多かったんだなと感じています。

『アウト・オブ・民藝』の版元でもある誠光社(京都市)の堀部篤史氏
調べて知ることは、最大の娯楽
堀部:『アウト・オブ・民藝』は民藝運動の中心ではなく周縁にいた人たちの方にスポットをあてた本です。何か結論めいたものを出しているわけではなく、民藝運動そのものを批判するわけでもなく、例えば「民藝の周縁にいた人たちが言っていたことが正しいんですよ」という意図も決してない。民藝運動の提唱者である柳宗悦へのリスペクトがあった上で、今考えられているものとはちょっと違うものの見方を提示しているわけです。
そして、この本のもうひとつの主題として、巻頭に山口昌男さんのこんな言葉を引用して載せています。
「ネットワークを知ることが重要なのは、そうした繋がりを知ることによって一人一人の人物についての同時代ならびに当時の記述に残されていない事実というものを、他の人物の側から投影して浮かび上がらせることができるからである」
リサーチをして、古い資料を買い集めて新しい発見をしたり、一般的には語られていないような繋がりを見出すのって非常に知的好奇心を刺激しますよね。それによって何かの批判になっていたり、明確な結論が出なくとも、古本であるとか古い資料とか何か埋もれているものを発掘してきてそれを読み解いて並べ替えるということの面白さが大事なんです。つい最近も、知り合いの写真家がこんなことを話していました。「調べて知ることは最大の娯楽だ」と。ほんと、知ることは最大の娯楽なんですよ。なるほどいい言葉やなと思って。