2026年3月に市制20周年を迎える能代市。この節目を記念し、能代の文化財や風景を写真家と研究者が独自の視点で捉え直す新たな連載企画「Echoes of Time(エコーズ・オブ・タイム)」が市の広報誌「広報のしろ」の11月号から始まりました。
能代の未来を照射する
能代市市制20周年における企画のテーマは〈再発見〉。能代に暮らす〈ひと〉の日常にある言葉や思いに寄り添い、あるいは心のよりどころとなる〈もの〉や〈場所〉をめぐり、地域資源の再発掘につなげようという試みです。
能代をめぐるのは、研究者の井上宗則(秋田公立美術大学景観デザイン専攻准教授)と写真家の草彅裕(秋田公立美術大学コミュニケーションデザイン専攻准教授)。研究者と写真家のコラボレーションによって光を当てるのは、この地に根ざした「時間」の積み重ねです。写真の力は、〈再発見〉からさらに〈創造〉へと拡張していきます。発案者であり都市・建築デザインを専門とする井上は、次のように記します。
「Echoes of Time」は必ずしも“20年”という区切りに焦点を当てるものではありません。私たちが光を当てたいのは、この20年という歳月を可能にした長い歴史の流れ、この地に根ざした時間の積み重ねです。この歴史から、能代の未来を照射する資源を見出したいと考え、「写真」というメディアを用いることにしました。
本企画の狙いを端的にいえば、『写真の力で新しい能代の魅力を創造する』ことです。重要なのは、魅力を『再発見する』ではなく『創造する』という点です。
広報のしろ11月号「Echoes of Time」より
例えば、草彅がライフワークとして取り組んでいる雪や水といった自然物を「1/8000秒」という一瞬で切り取る作品は、私たちが肉眼では決して捉えることのできない、全く異なる世界の姿を現します。
井上は、こうした写真との対峙を「日常に潜むまだ見ぬ豊潤な世界と出会う瞬間」と表現。既知の事物の再発見ではなく、写真によって生み出された「新しい世界」こそが、能代の未来を照らす資源になるという考えです。


写真家の「視点」が生む研究者の「こだま」
「Echoes of Time」では、草彅の写真に、井上が文章で応答します。
「私の文章は、写真家によって鋭く『切り取られた』世界に呼応する一つの『こだま(echo)』です。それは、無数にある解釈の可能性の一つを示す、ささやかな試みです」と井上。
この「こだま」が読者に響きわたり、次の10年、20年の未来を導くものとなるように願いを込めた企画です。
連載は2025年11月号から2026年3月号まで、全5回を予定。「広報のしろ」で創造される能代の姿にぜひご期待ください。
▼「広報のしろ」2025年11月号(特集ページはp15〜18)
▼「広報のしろ」2025年12月号
Profile プロフィール
井上宗則 Munenori Inoue
1980年鹿児島県生まれ。九州芸術工科大学卒業。九州大学大学院博士前期課程修了。東北大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)。東北大学助教、秋田公立美術大学助教を経て、2021年より准教授。専門は建築・歴史意匠。民間企業において携わった東日本大震災の復興計画等の実務経験を踏まえ、近年は国内外の集落デザインに関する研究を行っている。また、参加型のデザイン手法の在り方を模索しており、サイン、建築、公園、散策路等の様々な実践的な活動を行っている。(秋田公立美術大学)
Profile プロフィール
草彅裕 Yu Kusanagi
1982年秋田県仙北市生まれ。東北芸術工科大学大学院芸術工学研究科修了。秋田公立美術大学コミュニケーションデザイン専攻准教授。
生まれ育った秋田県内の自然や風土を、写真でしか捉えることのできない不可視の「瞬間と循環」を主題として撮影。 秋田を拠点に国内外で多数の個展、グループ展に参加し作品を発表し続けている。
Information
広報のしろ(2025年11月号〜2026年3月号)
「Echoes of Time 景色が受け継ぐ能代」
■写真 草彅裕
■執筆 井上宗則
■デザイン 越後谷洋徳
■編集 高橋ともみ
■企画 秋田公立美術大学
■制作 NPO法人アーツセンターあきた
■発行 能代市
能代市市制20周年記念事業業務委託