第1回のワークショップでは、高清水園での〈創作活動〉に対して職員それぞれが持つ「想い」や「考え」の共有に十分な時間を割きました。お互いの気持ちを知ることができ、職員同士の心理的な不安感の解消に役立ったと同時に、これから取り組んでいきたい課題や現状の問題なども振り返りで提示されました。
高清水園での〈創作活動〉をどのように考えるかについて一歩進んだ第1回を経て、NPO法人アートリンクうちのあかりの代表理事の安藤郁子先生(秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻)へと引き継がれました。
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個人の創作と関係性から生じる創作について
安藤郁子先生をファシリテーターに迎え、まずは個人の創作と関係性から生じる創作についてのレクチャーからスタートしました。
レクチャーでは、障がいのある方との創作について、支援者がそこにどのように関わっていると考え得るかについて、安藤先生のこれまでの経験と研究から導かれた視点が提示されました。
創作に対し、支援者はそのサポートをする存在であり、創作は利用者個人の中からのみ表現されていくものであるという考えもあります。しかし、安藤先生から提示されたのは、利用者と支援者が、利用者の創作に対して同格に在り、その関係性から生じる表現であるという捉え方でした。
音を聴き、それを形にする
レクチャーに続いて、実際に創作活動を職員自ら体験します。
参加者に手ぬぐいが配られ、目隠しをするよう指示されました。何をするんだろうという少しの緊張とワクワクとした雰囲気が場に広がります。テーブルには丸められた手のひらサイズの粘土がおかれました。安藤先生から、今から聞こえてくる音に耳をすませてそれを好きなように形にしてください、と説明があり、会場に静かに響く音は聞いたことのあるような無いような、硬質で軽い音でした。先生はしきりに「いま作っているのは作品ではない」ということを参加者に伝えられていました。
参加者はそれぞれの形を紹介し合いましたが、乾いた音であったことから、たとえば木管のような形状など、その音を発する「もの」の形を作る方、特徴的な音のイメージを形にする方と大きく二分していたようです。
喜びと怒りの感情を形にする
今度は目隠しをせず、「喜び」と「怒り」を形にするワークに取り組みました。「怒り」はとんがっていたり、実際に強い力が粘土に加えられたものが多く見られました。一方「喜び」は、「やさしい気持ち」、「きれいだと感じる気持ち」、「好きな動物」、そして、粘土を手で包み込むといった「自分の動作を伴うもの」など、自身に「喜び」をもたらす多様な心情をもたらす物に加え、状況までもが表現されました。特に喜びに顕著にあらわれたように、捉え方も作った形も異なるのですが、その表現についての理解や共感が難しいといった雰囲気はありませんでした。
利用者の方々の日常での表現について情報を共有する
研修を受けられた職員の方々は、日頃異なる棟を担当していることもあって、接する利用者の方々も異なります。利用者がどのような表現を、どのような手段で行なっているか、日頃の観察や大事にファイリングしていた創作物などを開示し合いました。職員の方々が、利用者一人ひとりと丁寧に向き合っていることが伝わってきました。
安藤先生から冒頭にお話があったように、利用者の方々の創作は職員を含めた周囲の方々との関係性が変化を与え、そしてその創作の変化は利用者の方々の生活や状態の変化でもあるそうです。利用者といつも近くにいる方々が主体としてあり、そこに大学のどのような関わりを生み出すことができるのか。高清水園の職員のみなさまが活動を生み出し、研鑽していく過程に関与しながら、一緒にその関係の在り方を見出していきたいと考えています。
田村 剛(NPO法人アーツセンターあきた)
Information
高清水園 職員研修ワークショップ
障害者支援施設「高清水園」からご相談を受け、秋田公立美術大学の安藤郁子准教授(ものづくりデザイン専攻)とともに、施設における創作活動のあり方や活かし方を日々の業務の中から模索するための、職員を対象とした対話型ワークショップを企画運営。
■ 期間: 2019年4月~9月
■ 事業パートナー:
・秋田県社会福祉事業団「高清水園」
・平元美沙緒(まちづくりファシリテーター)