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高清水園における〈創作活動〉を探る 職員研修ワークショップ 第1回

昨年より創作活動をプログラムに取り入れはじめた障害者支援施設「高清水園」。「わたしたちの園では、どのような〈創作活動〉に取り組んでいけばよいのか」という職員たちの真摯な疑問に向き合い、ともに考える職員研修ワークショップの開催に至る担当者によるレポートをお届けします。

秋田市上北手にある「障害者支援施設:高清水園」では、昨年より創作を活動に取り入れ始めました。創作活動に関して先進的な施設の取り組みを調べたり、視察に行くなど、職員の方々による調査も取り組まれてきました。そういった中で、「わたしたちの高清水園では、どのような〈創作活動〉に取り組んでいけば良いのか」という真摯な疑問が生じてきたそうです。

しかし、職員の方々の思いは様々です。そこで、まずは利用者の方が合同で創作するような取り組み(例えば施設のお祭りの看板絵を描くなど)ができないかと、秋田公立美術大学にご相談が寄せられました。ここから、今回の内容で職員研修を行うことになるまでには紆余曲折がありました。

専門家から学び、課題に気づく

秋田公立美術大学には、秋田市新屋にて地域活動支援センターを運営している「NPO法人アートリンクうちのあかり」の代表理事を務める安藤郁子先生(ものづくりデザイン専攻)がおられます。早速、安藤先生にご相談し、高清水園を見させていただくことになりました。

現在高清水園で行われている活動について特に改善しなければならない点が無いことや、今も様々な興味深い表現が見られるといったことが安藤先生から伝えられました。また、利用者の方々の日常生活での行為をどのように表現として捉え、読み取ろうとするかが大切であることも伝えられ、いわゆる「アート作品」を作る/作らせるといった活動ではない展開も事例などを盛り込みながらお話されました。

チームをつくり、プログラムをつくる

この視察のあと、しばらくして高清水園のご担当の方からご連絡をいただきました。どのような相談をしたいか、どのようなことを学びたいか、より多くの職員にあらためて問いかけてみたいとのことでした。2週間ほどかかったでしょうか、集まった意見は〈創作活動〉の取り組み方を知りたい、教えて欲しいというものだったようです。職員の方々を対象とした研修をさせていただくこととなりましたが、職員自身がこれからを考えていけるような内容にして欲しいというご要望をいただきました。

その後も職員の方からヒアリングをしていく中で感じられたのが、〈創作活動〉に対する各々の考えやスタンスを、お互いに想像でのみ捉えているということでした。そこで、職員の方々による対話を取り入れたものにしようと、対話の場作りやファシリテーションにに定評のある、まちづくりファシリテーターの平元美沙緒さんにも加わっていただいて研修プログラムを考えていくことになりました。

プログラムを仮組みしたところで、再度職員の方々に集まっていただきヒアリングを行いました。職員の方々からもお互いの考えを知り合いたいという言葉も出、研修参加者の相互のやり取りの時間をより多くしたプログラムへと修正することになりました。

ファシリテーターの平元美沙緒さん

4月のご相談から始まった高清水園での研修ワークショップ。ついに9月、事前ワークが課され、2週にわたって開催されることとなりました。

第1回目
9月5日(木)15時〜17時(ファシリテーター:平元美沙緒さん)

自前の名札を作る
創作活動に関する研修ということもあって、用意した紙や紐、テープなどを用いて自由に名札を作ってもらいました。最初、戸惑う様子も見られましたが、各々の雰囲気を表していると思われる名札が、胸にぶら下げられて行きました。

想いの共有:
事前課題「わたしの想いの円グラフ」を用いて、創作活動に対する考えや想いを共有する

職員の方々がそれぞれに〈創作活動〉を捉えているらしいことはわかったのですが、どのように感じているか、どのように考えているか、4〜5人でグループになり、それぞれの「想い」を円グラフを用いて紹介しあいました。円グラフでは、〈創作活動〉に対して自分が考えること・思うことなどの割合を表していただきました。
円グラフには、
・利用者の方々がどう捉えていると思われるか
・内容について
・活動時間の長さなどについて
・自身の関与について
・こうしてほしいと思うこと
などが割り振られていました。みなさん同じ高清水園にお勤めですが、高清水園の〈創作活動〉に対する考えは多様で、ときに対極的な想い・考えも見られました。

「わたしの想いの円グラフ」で、創作活動に対する考えや想いを共有

高清水園で見られる利用者の表情とその背景の想像とその共有:
「高清水園のあんな顔・こんな顔」

「エモグラフィ」という、感情をグラフィックで表現した手法を用いて、普段接している利用者の方々がその表情をしている時にどんなことを思ったり、考えたり、言ったりしているかを書き出していくワークに取り組みました。

紙の真ん中に「高清水園」と書き、その周りにファシリテーターの平元さんから示された「おどろき」「よろこび」「やる気」「ざんねん」といったような7つの感情を表現した顔アイコンを描きます。その顔がどんな感情と見るかは、参加者に委ねられました。
このワークによって、参加者である職員のみなさんが日頃、利用者の方々と接したりしている中で、ことば、からだの動き、創作、表情などから、利用者の思いを読み取ろうとしていることに気づかされます。そしてまた、他の参加者のワークを見てそこにコメントを残したり、発言したりすることによって、参加者相互に利用者への接し方に対する共感的な雰囲気ができていきました。

エモグラフィに取り組む

利用者と職員が形成していく関係性のイメージをコラージュで表現し、共有する:
「利用者さんとわたしの高清水園」

創作活動に関わらず、利用者と職員である「私」がどのような関係性を築いていきたいのか、それを紙面や紙、紐、テープ、絵などを用いたコラージュにするワークに取り組みました。会話での表現を得意とする方にとっては少し難しいワークだったかもしれませんが、コラージュとそれを説明することばによって参加者それぞれの「利用者さんとわたし」がどうありたいかが表現されました。
いわゆる機械的なものではないよき関係、お互いに思いが汲み取れ合う関係、お互いの気持ちが伝わり合う関係、楽しく気分良く過ごせる関係など、高清水園外でも周りの人とそうありたいと思えるものが提起されました。

第1回目のワークショップを終え、次回に向けて

最後の振り返りでは、楽しく取り組めたことや職員同士で対話ができた喜び、自分も動かなければ!という思いなどが交換されました。

第2回は、秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻で陶芸家、かつ地域活動支援センター「うちのあかり」を運営している安藤郁子先生によるワークショップです。表現とは何なのか、参加者自身が表現する行為を行いながら掴んでいきます。

田村 剛(NPO法人アーツセンターあきた)

Information

高清水園 職員研修ワークショップ

障害者支援施設「高清水園」からご相談を受け、秋田公立美術大学の安藤郁子准教授(ものづくりデザイン専攻)とともに、施設における創作活動のあり方や活かし方を日々の業務の中から模索するための、職員を対象とした対話型ワークショップを企画運営。

■ 期間: 2019年4月~9月
■ 事業パートナー:
・秋田県社会福祉事業団「高清水園
・平元美沙緒(まちづくりファシリテーター)

Profile

田村 剛

NPO法人アーツセンターあきた プログラムコーディネーター。兵庫県生まれ。秋田公立美術大学景観デザイン専攻助手を経て、2018年4月より現職。 まちづくりに関連する事業を主に担当し、秋田市新屋や能代、八郎湖などの地域連携事業の企画・運営に携わる。

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた 事務局長

三富章恵

静岡県生まれ。名古屋大学大学院国際開発研究科修了。2006年より、独立行政法人国際交流基金に勤務し、東京およびマニラ(フィリピン)において青少年交流や芸術文化交流、日本語教育の普及事業等に従事。
東日本大震災で被災経験をもつ青少年や児童養護施設に暮らす高校生のリーダーシップ研修や奨学事業を行う一般財団法人教育支援グローバル基金での勤務を経て、2018年4月より現職。

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