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秋田からはじめる新しい挑戦 SPACE LABO 審査員講評を公開

秋田市文化創造交流館(仮称)のプレ事業の一環として昨年11月~12月に開催した「SPACE LABO」。最終審査を経て、審査員特別賞とレジデンス賞が選出されました。審査員による講評とともに、SPACE LABOを振り返ります。

SPACE LABO ― 秋田市文化創造交流館(仮称)の開館を見据えたプレ事業として、秋田駅前の3つの商業施設内の空きスペースを”クリエイトスタジオ”と見立てて展開するプランの公募事業。
展示やリサーチ、ワークショップ、上映など、様々な挑戦を受け入れる3つのクリエイトスタジオを結ぶことで、秋田の今を見つめ、秋田のこれからを思考する場の創造を目指しました。

書類選考を経て採用された7組のラボ・フェロー。11月から12月にかけて順次公開された7つのプランから、最終選考を経て審査員特別賞1組とレジデンス賞2組が選出されました。

審査員特別賞

■ 植村宏木「もの考-秋田-」

秋田における風土や空気感、歴史や暮らしの中にある思考や感覚についてリサーチを行い、制作した作品を展示。リサーチを経て秋田の土地における記憶や時間、空気、それらとともにある気配といった「目には見えないが知覚できるもの」について考察を重ね、作品化することで秋田という土地を感覚的に捉える場をつくることを目指した。

[期間]2019年12月7日、8日、14日、15日
[会場]秋田オーパ8階 特設会場

撮影:須賀亮平

Profile

植村 宏木

北海道生まれ。秋田公立美術工芸短期大学卒業。名古屋芸術大学大学院修了。 空間に漂う空気、気配、時間、あるいは人の魂や感受性といった不可視の”もの”を、硝子(ガラス)によって表わそうと試みている。硝子のほか、土地のリサーチと考察をもとに、石・木などの自然物、糸・縄など人の手による物、ドローイング等を組み合わせて作品を制作する。

レジデンス賞

■ 虻川 彩花 「秋田から始まるファッション~個人ブティックを訪ねて~」

秋田市内に存在する多くの個人ブティックやリサイクルセンターのリサーチを行う中で、それらがつくりだす空間が現代に生きる私たちが忘れていた大切な何かを思い出させてくれるような感覚を得、リサーチと制作を通じてその正体を掴むことを目指した。さらには、秋田における個人ブティックやファッションセンターの今日的機能を考え、秋田から新しいファッションのあり方を提案した。

[期間]2019年12月14日~18日
[会場]フォンテAKITA6階 市民学習スペース外側

撮影:須賀亮平

Profile

虻川 彩花

秋田公立美術大学在学時代、人の記憶をテーマに作品作りに取り組む。卒業制作では時間の経過と共に水槽に溶ける写真を制作。卒業後、秋田市内でSoZoRoという名前で制作活動を開始。人の記憶から、ものがとどめる記憶の作品化を試みる。主にプラスチック素材の装飾具を作り、ものと人の関わりを常に観察している。

■ 居村 浩平「目が合った人の真似をする」

目が合った人を対象に、その人の表情、動作、ふるまい、口調などを真似する即興パフォーマンスを秋田市内で行い、その記録資料を展示。また、暗黒舞踏を生んだ土方巽や、その土方の故郷にある西馬音内盆踊りなどの秋田の「踊り」のリサーチを通じ、秋田という地域特有の身体性を考察しながら、秋田の人びとと視線を交わすことをきっかけに、これまでとは異なる秋田の踊りを生み出すことを試みた。

パフォーマンス:
[期間]2019年11月3日〜11月9日
[会場]フォンテAKITA 6階市民学習スペース外側、秋田市内各所

記録資料公開:
[期間]2019年11月10日~12月22日
[会場]フォンテAKITA 7階特設会場

撮影:須賀亮平

Profile

居村 浩平

高知県生まれ。大学では近代以後の美術を専攻。「アートとは何か?」という問いを軸にジャンルにとらわれない制作活動を行う。その制作の中で、東日本大震災から影響を受けたこともあり、卒業後は福島県に移住。近年は人として地域に関わることと、アーティストとして関わることのちょうど良いバランスを探している。

審査員による講評

秋田市文化創造交流館(仮称)のプレ事業の一環として開催したSPACE LABO。どういう尺度で、まちの各所で展開されたラボ・フェローの挑戦を評価していくのかについて、白熱した議論が交わされました。

 すでにあるものを真似して作るのであれば迷いはないし不安もない。しかし、誰も挑戦したことのない独自な活動を始め、そして続けるには強い意志と柔軟な態度が必要となる。社会の対応はそれらに対して冷たく厳しいからだ。だからこそ経験を重ね、強度と深度を身に付けたい。今回挑戦した多くの実践に敬意を表したい。展示のための空間ではないし、誰にでもオープンな場なので難しい環境だと思う。だから面白い。まちにありそうでありえない異質なものを見つけた時、まちと体験者の間になんらかの揺さぶりや摩擦が発生する。その重なりがまちの魅力に繋がるのだと思う。

 今回の公募で秋田に生まれ育ち、あるいは他の地域に暮らしながらも、秋田での活動を願っている人が多いことが分かった。それはとても心強く、大きな可能性に繋がる。まちはもっと新しい経験を重ねて欲しい。そして多くの人の実践の場として信頼できるところでなければならない。

Profile

藤 浩志

美術家。奄美大島出身の両親の影響で大島紬周辺で遊ぶ。京都市立芸術大学在学中演劇活動に没頭した後、地域をフィールドとした表現活動を志し、全国各地の現場でプロジェクト型の表現を模索。同大学院修了後パプアニューギニア国立芸術学校に勤務し原初的表現と社会学に出会い、バブル崩壊期の再開発業者・都市計画事務所勤務を経て土地と都市を学ぶ。「地域資源・適性技術・協力関係」を活用したデモンストレーション型の美術表現により「対話と地域実験」を実践。

ラボ・フェローの皆さんは、秋田をフィールドワークし、そこから得た言語を超えた感覚を、インスタレーション、映像、絵、様々な媒体を用いて、見事に表現してくれました。その中でも、スペースの特性や雰囲気などをよく考え、うまく活用し、自身の作品と滑らかに接続させていたのが植村宏木さんの『もの考―秋田―』(審査員特別賞)でした。レジデンス賞を受賞した虻川彩花さんの作品は、商業スペースで個人ブティックをテーマにするということ自体挑戦的で、色々と紆余曲折があったようですが、それをアートとしてしっかり昇華していたと思います。同じくレジデンス賞を受賞した居村浩平さんの作品は、真似された側が、自身の身体感覚を再認識するという事柄に果敢に挑んだ作品となっていました。

 惜しくも受賞を逃した他の作品も、どれも挑戦的かつ遊び心のあるものでした。制作あるいは完成した作品を通じて生まれた様々な「つながり」を、単なる偶然として捨て置くのではなく「縁」として捉え、今後その構造を深く思考するきっかけにしていただければと思います。

Profile

唐澤 太輔

南方熊楠研究、秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科准教授。1978年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期過程修了。博士(学術)。早稲田大学社会科学総合学術院に助手、助教として勤務した後、龍谷大学世界仏教文化研究センター博士研究員を経て現職。専門は哲学/文化人類学。特に、人類が築き上げてきた民俗・宗教・文化の根源的な「在り方」の探求を知の巨人・南方熊楠(1867〜1941年)の思想を通じて行なっている。近年は、熊楠とアート的思考の比較考察、及び華厳思想の現代的可能性についても研究を進めている。

今回展示された7作品を見て、どれもまだ「余白」のようなものがあるのを感じました。展示としての詰めの甘さや、コンセプトがまだ定まっていないもの、単純に運動量が足りていない部分もあったと思いますが、むしろ新しいものの見方を創出する上ではこの「余白」こそがキーポイントにもなり得るのではとも思います。今回の応募要項には“クリエイトスタジオでの新しい挑戦”と書かれていました。文字で書くとどこでも見かけるような文言かもしれませんが、「クリエイティブ=創造的である=新しいものを初めてつくりだす様」であることを、作り手も我々も忘れてはいけません。どこかで見たことのあるようなものを作ることや、誰かと同じような道筋を辿ることとは全く意味が違い、そこには誰も気がついていない無駄なことや底知れない勇気が必要になるかもしれません。そういった新しい挑戦になり得るかどうかという視点で今回は評価をさせて頂きました。集う人々は熱く、場は常にハードボイルドに。そんな秋田が見られることを期待しています。

Profile

柚木 恵介

アーティスト。1978年鹿児島生まれ。東京芸術大学デザイン科講師の傍ら、造形作家として活動を続けている。近々の活動は以下の通り。2016年/KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭出品(宮城県)。2014年/表現のチカラ 東京藝大セレクション展ディレクション(香川県高松市)。2014年/日本橋三越夏の芸術祭 ワークショップディレクション(東京)。2014年/小豆島アーティストインレジデンスディレクター(香川県小豆島)。2013年/瀬戸内国際芸術祭出品(香川県小豆島)

 秋田市文化創造交流館は「市民の創造性をサポートする」がひとつのミッションとなるため、プレ事業として実施される「SPACE LABO」の応募者もいわゆる作家だけにとどまりません。それゆえ、その方々のアウトプットも、一般的な美術展示におさまるものでないし、そうあるべきでもありません。ではどんなものが文化創造交流館らしいアウトプットとなるのか?その評価尺度は?そもそも彼らへのサポートとはどうあるべきなのか?講評会に参加させていただくなかで頭に浮かんでいたのはそうした問いでした。審査員特別賞は美術としての質も備えた植村さんの制作が選定されました。対してレジデンス賞は、文化創造交流館で起こる状況を想定し、今回のコーディネーターの皆さんの考えも重視しながら、今後の可能性に賭けて虻川さん居村さん両名が選定されました。この第一回目のSPACE LABOと講評会自体も重要な社会実験となると強く感じました。

Profile

RAD ―Research for Architectural Domain―

現代における「建築の居場所(Architectural Domain)」についてリサーチを行うインディペンデントグループ。2008年に京都で設立。「建築的なアイデアは『建てること』だけを目指すべきではない」を合言葉に、ではそのとき建築家に、あるいは建築には何ができるのかをリサーチしている。建築展覧会のキュレーション、建築や都市に関するメディア制作、レクチャーイベントの企画運営、市民協働のワークショップやまちあるき、行政への都市・建築利用提案等を行う。

Information

SPACE LABO

秋田駅前に立地する3つの商業施設内の空スペースを”クリエイトスタジオ”と見立てて展開するプランを公募する「SPACE LABO」。応募のあった14組のプランをポスター展形式で公開します。さらに、その中から選ばれた”ラボ・フェロー”7組が、コーディネーターのサポートを得て、パフォーマンスや展示、リサーチ、滞在制作などのプランを展開。
[主催]秋田市
[企画]NPO法人アーツセンターあきた
[協力]秋田ステーションビル株式会社、株式会社秋田ショッピングビル、株式会社OPA

■ ラボ・フェロー プラン展
[期間]2019年11月3日~12月22日
[会場]秋田駅前商業施設空きスペース

■ ポスター展
[期間]2019年11月3日~12月22日
[会場]フォンテAKITA 6階情報発信コーナー

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた 事務局長

三富章恵

静岡県生まれ。名古屋大学大学院国際開発研究科修了。2006年より、独立行政法人国際交流基金に勤務し、東京およびマニラ(フィリピン)において青少年交流や芸術文化交流、日本語教育の普及事業等に従事。
東日本大震災で被災経験をもつ青少年や児童養護施設に暮らす高校生のリーダーシップ研修や奨学事業を行う一般財団法人教育支援グローバル基金での勤務を経て、2018年4月より現職。

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