NPO法人アーツセンターあきたのオープニング記念イベント「アーツセンターあきたのトリセツ」。
理事長・藤浩志の挨拶と、事務長・三富章恵による活動紹介で始まった第1部に続き、第2部にはパネルディスカッションが行われました。まずはアーツセンターあきたを設立した秋田公立美術大学について、「美大を知る、秋美を解く」をテーマにお送りします。
パネルディスカッション「美大を知る、美大を解く」
パネリスト
◼︎今中隆介(ものづくりデザイン専攻教授)Skype参加
東京藝術大学大学院美術研究科修了。2003年デザイン事務所アールホームワークス設立。2013年より現職。http://r-homeworks.jp/
◼︎皆川嘉博(アーツ&ルーツ専攻准教授)
彫刻家。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期過程満期退学。2002年秋田公立美術工芸短期大学講師就任。2006年秋田県芸術選奨受賞。2013年より現職。
◼︎山内貴博(景観デザイン専攻准教授)
建築家。東京藝術大学大学院美術研究科博士過程後期修了。建築設計事務所勤務を経て、2013年より現職。
モデレーター
◼︎阿部由布子(ビジュアルアーツ専攻助教)
アーティスト/キュレーター。九州大学大学院芸術工学府博士後期過程単位取得満期退学。2009年秋田公立美術工芸短期大学講師就任。2013年より現職。
◼︎田村剛(NPO法人アーツセンターあきた プログラム・コーディネーター)
三富:秋田公立美術大学は2013年に短大から4大化し、新しい芸術領域の創造に挑戦にする大学としてスタートを切りました。領域横断をテーマに、既存の美術大学、芸術大学の枠組みにとらわれないアーツ&ルーツ専攻やものづくりデザイン専攻などユニークな専攻やカリキュラムを備え、国内外で活動するアーティスト、デザイナーなどの専門家、研究者などを教授陣に迎えています。
パネルディスカッションでは「美大を知る、秋美を解く」をテーマに、どんな教員がどんな専門性を持ち、どんなことに取り組んでいるのかをお話をいただきたいと思います。先生方からは事前にキーワードを集めさせていただきました。美大はどういうところなのか、その中でも秋美にはどんな特徴があるのかを一緒に探っていければと思います。
分野を横断できる秋美のカリキュラムの魅力
阿部:パネルディスカッション「美大を知る、秋美を解く」というテーマの中には「美大」と「秋美」、2つのワードがありますが、美術系大学の特徴、そしてその中でも秋美の特徴を掘り下げたいと思います。
皆川:ほとんどの美術系大学では彫刻、日本画、油画、工芸、デザインなど技法で分けられている。秋美はそういう分け方はしていない。それが他の大学と大きく違うところですね。日本にひとつしかない特徴のある専攻としては、アーツ&ルーツ専攻があります。
阿部:カテゴリーで分けて教育するのが一般的ですが、秋美はあえてそれをしていない。領域横断的な取り組みができるように、問題意識、課題意識に合わせて学習できるシステムになっています。
今中:自分たちには、分野を分ける従来の美術教育を受けてきた課題意識がある。課題に目覚め、じつは自分がいま学んでいる手法では自分がやりたいことは表現し切れないんじゃないかという局面があり、分野を変えたり横断してみたいとなったときに、従来の美術教育の縦割りのシステムでは難しかった。
阿部:自分の適正や課題意識を明らかにしていけるのが秋美のカリキュラム。自由に横断して歩ける魅力があります。
地域と秋美が連携することで、思わぬ方向に広がる
山内:美短から4大に変わり、2014年に社会連携のあり方を打ち出す4つのビジョンを立てました。ローカルメディアを使って情報発信することや景観のこと、ネットワークのことなどの中のひとつに、街中にギャラリーを展開することがありました。
その頃にCNA秋田ケーブルテレビさんから、新社屋の外装について相談があり、思い切って「ギャラリーを」と提案したところ、それがBIYONG POINTとして実現することになった。思わぬ方向に広がった例として、こんなCNAさんとの連携がありました。今後もこういった展開を意識していければ。その時は一過性のものであっても、その後はインフラとして整備されて、まち全体を俯瞰して見られればいい。大学、企業、自治体と連携していくために秋美を役立てられたらと思います。
阿部:地域で何ができるのかを一緒に考え、実現していく取り組みは今後、増えていくのではないでしょうか。さまざまな分野を横断する事業を展開する過程で、地域の力を結集して文化を興す土壌ができつつあるのではないかと感じます。この傾向が加速することを期待したいと思います。
三富:領域横断の新しい芸術を起こそうという取り組みがこの話の先に実現していくのではないかと感じました。第2部ではこういった先生方を擁して、短大から4大に変わり、大学院ができ来年度は博士過程ができていく美大のリソースをアーツセンターが新たにできたことでどう地域とつないでいくことができるかについて話し合いたいと思います。
パネルディスカッション「秋美のききめ 〜感性で地域は変わる〜」
パネリスト
◼︎柴田誠(秋田公立美術大学副理事長)
早稲田大学政治経済学部卒業。前秋田商工会議所専務理事、元秋田県企画振興部長、同産業労働部長。県職員として商工業、観光振興、地域プロジェクト、財政などを担当。元能代市助役。
◼︎藤浩志(秋田公立美術大学副学長)
京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。パプアニューギニア国立芸術学校講師、都市計画事務所勤務を経て美術作家として活動。地域をフィールドに新しいプロジェクトを模索。www.fujistudio.co
◼︎水田圭(コミュニケーションデザイン専攻准教授)
東京藝術大学大学院修了。フランス国立高等装飾美術学校(ENSAD)招聘教官(2000-04)。カンヌ国際広告祭デザイン部門銀賞など。
◼︎山路康文(ものづくりデザイン専攻准教授)Skype参加
東京藝術大学大学院修了。製品のプロダクトデザイン及びカラー戦略、新デザイン言語開発、チームマネジメントを担当。グッドデザイン賞best100選出、サステイナブルデザイン賞受賞「sony家庭用蓄電池」
モデレーター
◼︎三富章恵(NPO法人アーツセンターあきた 事務長)
地域社会と大学のミスマッチ
柴田:地域の方は秋美を本当に理解してくれているのかと思うことがあります。我々としても、PR不足なのでしょう。秋美の資源そのものに対して期待してもらっているとは思えないこともある。地域と結びついていくには、お互いに理解し合わなければいけないのではないでしょうか。
藤:美術に対する誤解が大きいんだと思います。大学時代の同級生はほとんどが企業に勤め、企画をやり、新規事業開拓をやり、新しい製品をつくっている。ぼくらの特技って何なのかというと、皆が「これ違うな?」と違和感を抱いていることに対して、次に何かを始めるときに絵が描けるということ。その能力はすごく必要。それを教えているのが美術大学なんだろうと思います。
水田:企業からのご依頼は、社会的な意義があるかどうか、やることによって新しい契機ができるかどうかが重要です。例えば今年度、学生と取り組んだ秋田赤十字乳児院さんのポスターは里親制度の普及という目的もあり、社会に貢献しながら自分たちも能力を上げていくものでした。コミュニケーションというのは、「なんだろう?」というところから始まっていく。そうすると社会が変わっていく。だから秋田の方は、居心地の悪いものもぜひ受け入れてほしい。そこから始まることはすごく大きい。感性は理性と結びついて初めて効果が出るんです。
THINK LOCAL,ACT GLOBAL
山路:今後、全国各地で迎えるであろう高齢化、人口減少、経済衰退などに対して、そういった課題が集中している秋田の解決に向けた取り組みは先例になります。秋田で暮らす人々が感じている超ドメスティックな価値観を世界が共鳴する形で発信すれば、大きなムーブメントにつながるのではないかと感じています。
藤:集中して何かをつくり出すときは必ず閉じていないといけない。僕自身、ひらく活動、流通させることが目的になっていますがそれはある種、つくれなくなっている環境にもあるのではないか。東北に来てひとつの可能性として感じているのは、環境的にも閉じることができる、だからこそひらくことができるということ。東京など常にひらかれた環境にいると、それ以前に何かをつくることや考えることが少なく、理性を育むことはできないのではないか。そこに危機感を感じています。
三富:課題先進県といわれている秋田で、アートやデザイン、ものづくりを使ってその課題を少しでも和らげ、解決につなげるモデルができればそれは秋田だけでなく、日本全国、あるいは同じ課題を抱える世界の地域にも応用できるはず。そんな最先端の社会のラボラトリーが、アーツセンターの活動によって実現できるのではないかと信じています。
新しい活動を模索し、未知に向かっていく
柴田:アーツセンターができたことは、秋美にとって大きな変化だと思います。以前、県庁職員のときにこのももさだに産業デザイン支援センターをつくった。短大時代の先生方にはデザインに関して多くの支援をしてもらいました。アーツセンターができたことで、これまで時間のない状況で先生たちだけでやってきたことがコーディネーターの専門集団ができたことで、大学にとっても企業にとっても、資源を活かせる環境が整ったと思う。ぜひ期待してもらいたいと思います。
藤:秋田市のいろいろなところにおもしろい過ごし方のできる空間が増えて、人が増えて、クリエイティブな仕事が増えて、ここにくれば自己実現できるんじゃないかと集まってきたり、ここで過ごしたらどんなに素敵なんだろうと思うような風景が広がっていく。常にチャレンジできて、失敗もしていく。そういう地域社会がこの延長にあるんじゃないかと思います。
これまでの価値観にとらわれず、常に新しい価値観ややり方に妄想を広げていく。それを現実に当てはめるにはコーディネーターが必要。秋美には素晴らしい人たちがいて、この状況でしかできない、つくり出す力がある。未知に向かっていきたい。
新屋浜のグラスで乾杯!
パネルディスカッション後、懇親会を始める前に紹介させていただいたのが、ほのかな若草色に輝くこちらのグラスです。
秋田公立美術大学の地元・新屋にある秋田市新屋ガラス工房。
海に近いこのガラス工房では、新屋浜で採取した砂を使ってガラスを開発しました。新屋浜の砂から生み出された色味は、ほんのりと若草色。グラス表面の波打ちがきらりとして、オープニング記念イベントに彩りを添えてくれました。
新屋ガラス工房ではこの他、薪ストーブの灰を使った琥珀色、秋田酒造の酒粕から生み出した灰色のガラスも試験中。今後の展開が楽しみです。
撮影:草彅裕