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あそび×まなびのひろば 冒険しに行こう!大森山の「森の居場所」へ

【大森山アートプロジェクト2020レポート①】
秋田市大森山動物園と秋田公立美術大学が取り組む「大森山アートプロジェクト」が今年も大森山公園一帯で開催中です。澄みわたる秋空の下、グリーン広場には冒険心をかき立てる「あそび×まなびのひろば—森の居場所—」が出現!

大森山公園一帯で、大森山アートプロジェクト2020開催中!

大森山を包み込む秋の空気、木漏れ日、木や土の香り・・・。
秋田市大森山動物園と秋田公立美術大学が取り組む「大森山アートプロジェクト」が今年も大森山公園一帯で始まっています。大森山公園グリーン広場には、冒険心をかきたてる「あそび×まなびのひろば—森の居場所—」が出現! 秋田公立美術大学の学生たちによるインスタレーションや仕掛けを用いた「居場所」が広場の14カ所に姿を見せています。

大森山公園グリーン広場で9月26日(土)まで開催中の「あそび×まなびのひろば—森の居場所—」。オープニングイベントでは、子どもたちが体を使って「森の居場所」を楽しみました
空を見上げ、音を聞き、風を感じ、普段とは違う感覚を味わってもらおうと制作した加藤璃子《大きな鳥の巣ベッド》
麻紐でつくった蜘蛛の家の下で虫の目線を感じてもらう圷陽菜《森の家》

制限された日常の「居場所」から、森の「居場所」へ

秋田市の大森山公園グリーン広場から彫刻の森にかけて展開中の「森の居場所」は、子どももおとなも遊びの中で学び、学びから新たな遊びをつくる創造的な広場として森の中に「居場所」をつくるプロジェクトです。2019年度は村山修二郎准教授の地域プロジェクト演習を履修する学生がグループで「杉迷路」をデザイン・構成しましたが、2020年度は学生同士の接触をできるだけ避けるため、個別で制作することになりました。

地域プロジェクト演習を履修する学生11人(1〜3年生)に加え、4年生と卒業生が特別参加。新型コロナウイルス感染症の拡大により「居場所」を制限させた生活を強いられた学生たちは、森の中にどんな「居場所」をつくったのでしょうか。

麻紐や流木を使った後藤那月《めぐる—巡る・廻る—》
「普段とは違う自然の中だからこそ存分に遊び、ゆっくりと時間を使いながら自分と向き合う。自らがその場所を「めぐる」ことで自然との一体感を感じてもらいたい」と制作
「世界中を旅してきた風が、ほっと一息つく。そんな場所をつくった」という中村邦生《風のたまり場》

プロジェクトをコーディネートしたNPO法人アーツセンターあきたの田村剛は、「Zoomを使って打ち合わせを重ね、自粛期間が明けて久々に外に出て歩いたフィールドワークでは、学生たちはのびのびと森の感覚を捉えようとしていました。時間をかけて自由に森を歩いて感じることで、自分はここで何ができるのか、それぞれが深く考えることができたのではないでしょうか」と話します。

学生同士で気軽に集まることのできない環境でしたが、自然素材の材料を現地で探したり、近くの新屋浜に流木を取りにいったりと各自が場所と素材に向き合いました。麻布、麻紐、木の枝、稲藁、流木といった自然素材をそれぞれの制作に応じて集め、自然環境を肌で感じながら試行錯誤して進めました。現地での制作では、「散策する地元の人が『だんだん出来ていくね』『解説文がいいね』と声をかけてくれたことが、学生にとってモチベーションとなり、学びの場となりました」と田村。そして誕生したのが、この「森の居場所」です。

「地面の形を変形させることで大地を踏みしめること、駆け上がること、身をまかせること、そういったアクションができる場をつくり、大地と人との関係を意識させる場所にしたい」という岡崎未樹《大地に触れること》
岡本真実《紡ぐ繰る繋ぐ》は秋田と京都の伝統行事を参考に子どもたちの健康を祈り、人と人を繋ぐための居場所として制作
大森山の杉の木を素材としたミマチアカリ《大森山 浮遊するもの》は、空気や気配のように森を浮遊するかたちを持たない何かが宿る6つのお面。「森はかたちのない彼らにとって野生の状態であり、彼らと人の間に交点が生まれた時、人に作られたお面は、森の中で彼らの居場所として存在しはじめる。 そしてお面もまた、見えない彼らを、彼らの居る森を、自分の居場所として生きることをはじめる」
日常ではできない特別な体験として、「大森山のこの居場所を“音”で体感してもらいたい」と制作した石前詞美《森自然音と私自然音》
麻布と麻紐で秘密の居場所をつくった風晴瑛水《森の秘密基地》
葛西陽奈乃《みかえる》では、これまで来た道を立ち止まって振り返る

森の中は、自分の“感覚”に気づく場所

「森の居場所」は14カ所。中に入ったり、寝転んだり、土にまみれたり、音を出して聞いてみたり。

「例えば《風のたまり場》は、なだらかな傾斜のあるこの場所に世界中の風が溜まってくることをイメージして制作されました。ただ歩いているだけでは気づかなかったかもしれないことが、『世界中の風が』とイメージを示されることで『肌に感じる風のことに気づいた』と来場者が話してくださることもありました。他にも作品を通して、ここはジメジメしている場所だな、ここはいい光が射し込む場所だと神経を研ぎ澄ます自分の“感覚”にも気づかせてもらえたように思います」と田村。

なだらかなグリーン広場の地形を生かしたり、杉木立ちや土を利用するなどした作品が、いつもの森をちょっと別の世界へ。そして、自分の「居場所」へと変えてくれます。

「君がずっと忘れたくない大切にしたいものって、なに?」と問いかける山田汐音《わすれもの》
松ぼっくりや稲藁を使い、宝探しのような場所をつくった赤坂凛《共有し合う居場所》
“わっか”によって自分で好きな空間をつくる堀江侑加《わたしのわ》
木陰で休息できる空間としてハンモックを吊り下げた岡村菜々子《こかげのおやすみ処》

「あそび×まなびのひろば−森の居場所−」は大森山公園グリーン広場で、9月26日(土)まで開催。その他、秋田市大森山動物園と秋田公立美術大学が連携して進める「大森山アートプロジェクト2020」は今後も続きます。

■あそび×まなびのひろば—森の居場所—
赤坂凜 葛西陽奈乃 山田汐音 石前詞美 岡本真実 後藤那月 加藤璃子 堀江侑加 風晴瑛水 岡村菜々子 圷陽菜 ミマチアカリ 岡崎未樹 中村邦生[秋田公立美術大学学生・卒業生]
*監修 村山修二郎[秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻教員]

撮影:草彅 裕

Information

2020年度「大森山アートプロジェクト」今後の予定

■新築サル舎にアート作品を設置
2021年3月オープン予定の新しいサル舎の内壁に、サルをテーマとしたアート作品を設置します。

■ペンギン展示場の壁を彩る作品制作 
秋田公立美術大学生と附属高等学院生が一緒に取り組み、ペンギン展示場の壁を彩るアート作品を生み出します。

■街なかモニュメント作品の設置
新屋から大森山動物園へといざなうモニュメントを制作・設置します。2018年より継続している活動です。

■「彫刻の森」の彫刻作品保全活動
1976年にオープンした「彫刻の森」の作品を学生たちが掃除し、保護のための処理を学びながら取り組みます。2018年より継続している活動です。

■映像作品の制作と公開
「粘菌」と「彫刻の森」に焦点を当てた映像作品を制作します。CNA秋田ケーブルテレビやYouTubeで公開予定です。

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた チーフ

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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