散策しやすい曇り空の9月26日(土)、「ダイアリーシアター〜千秋公園編〜」が開催されました。
「ダイアリーシアター」は、2021年3月に開館する「秋田市文化創造館」で実現してみたいアイデアを話し合う「みんなで乾杯の練習」から生まれた企画。秋田のさまざまな場所を訪れ、そこでの経験をもとに戯曲(演劇の台本)を書くワークショップです。
第1回目となったこの日は、4グループに分かれ、演出家であるナビゲーターとともに千秋公園内を散策。参加者のほとんどは演劇未経験者でしたが、散策中に見た風景や思い出した記憶をもとに、4本の戯曲が完成しました!
日常に寄り添う演劇
朝10時、集合場所となったのは千秋公園内の「鯉茶屋」。まずは「バースデーチェーン」で緊張をほぐします。
「バースデーチェーン」は参加者が誕生日を教え合いながら、生まれ順に並んでいくアイスブレイク。今回はジェスチャーのみで誕生日を伝え合い、全員で輪をつくりました。その後、名前と誕生日、今の気持ちを一言ずつ発して自己紹介。「ウキウキしています」「昔ここでお花見をしたことが懐かしいです」などのほか、「こんなに秋田県内に演劇に関心がある人がいて、コロナ禍でも集まっていることに感激しています」という声も聞かれました。
アイスブレイクの後、今回の発案者でナビゲーターの島崇(劇作家・演出家)より、企画の説明が行われました。
「今日は戯曲を書いてみるということを目標にしたいと思っています。そうは言っても、難しいなと思う人が多いと思うんです。セリフを書いてみるって、ほとんどの人はやったことがないと思うんですね。でも、誰でもできるんじゃないかと思うんです。
普段の生活を戯曲にすることで、新しい発見ができるんじゃないかと思っています。
僕自身は京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)出身で、大学で演劇を始めました。それまでは演劇ってミュージカルのように歌って踊るハードルが高い表現という印象があったんですが、そこで出会った演劇は、日常に寄り添うような我々誰でもできるような演劇だったんです。その表現形態に出会ったときに、自分でも表現していいんだと思えて、救いや喜びになりました。自分たちでも表現できるんだ、ということに、今日は少しでも触れていただければと思っています」。
聞いたり、感じたことを、そのまま再現する
まずは参加者14名が、4つのグループに分かれて約40分間千秋公園を散策します。
島から提案されたのは、散策中に見たり、聞いたり、感じたこと、交わした会話そのままを、セリフやト書き(場所・登場人物など動作や設定を表す文章)として再現するという手法。
「散策した人が、登場人物・本人として話す・動くことを基本に書いてみてください。ですが散策中は、会話や風景、そして感じることに集中してください。よく聞いて、よく見て、思い出して、妄想を膨らませてください。例えば散策中に昔の記憶をモヤモヤモヤと思い出したり、何かふと頭によぎったら、それを大事にしてください。良いことも、悪いことも。それを散策から戻ってきたら思い出して、声に出して、戯曲として書き出してみてください」。
参加者へは千秋公園の地図が渡され、チームごとに散策の中心となるスポットが案内されました。
グループ①は二の丸広場、グループ②は胡月池、グループ③は御隅櫓、グループ④は本丸跡へ。
中心となる散策スポットへそれぞれ移動しますが、寄り道は自由。各グループで二の丸広場にある新聞で紹介された「ハートの刈り込み」や、御隅櫓から望む景色、本丸跡エリアにある神社でひいたおみくじに、七五三参りへ来た家族を見て思い出した千歳飴のエピソードなどなど……、散策の途中で気がついたこと、気になったこと、思い出したことを写真に撮ったりメモしていきました。
秋田の日常が浮かび上がる4本の戯曲が完成
散策場所から鯉茶屋へと戻ると約70分をかけてグループごとにセリフやト書きを書き起こし、その後実際に演じてみるまでが一連のプログラム。
演劇未経験者が多かったため、当初は戯曲自体を時間内に書き上げられるかと心配されていましたが、どのグループもそのグループにしかできない個性的な物語が書き上げられ、時間内にセリフの練習や動作の演出も入るなど想像以上の仕上がりに。
上演方法はリーディング形式と呼ばれる、立って戯曲をその場で読み上げるという手法が選ばれました。
秋田の日常が浮かび上がる各グループの上演、ぜひ戯曲を読んで、風景を想像してみてください。
各戯曲のタイトルと、上演を体験した後の、ナビゲーターや参加者の言葉をここで紹介します。
●タイトル:「二の丸跡にて」
散策スポット:二の丸広場
登場人物:サイトー、ヨシナリ、ビルカワ
島から参加者へどういうところを意識して戯曲を書き上げたかを尋ねると
「千秋公園を散策していると自分の思い出がよみがえってきたんです。それを話したらアレンジがどんどん進みました。手つなぎ鬼も池に落ちたことも実話です(笑)。
日常ってすごく大事だし、自分の過ごしてきた時間って忘れているようで自分の中にあるんだと改めて思いました」
このチームは演劇経験者がいるチームでした。上演では戯曲にないアドリブが飛び出すなど軽妙なやりとりが生まれました。発表順が一番手だったこともあり、次からのチームの後押しになりました。
●タイトル:「女子旅」
散策スポット:胡月池周辺
登場人物:県外女1、県外女2、県外女3、県内女1
同行したナビゲーターの加賀屋淳(秋田中央街区演劇研究室/劇作家・演出家)「それぞれのキャラクターが立っていたのもおもしろいし、最初から4人が登場するのではなく、県外女3人がヤキモキして待っているところに県内女ひとりが呑気にやってくるという落差を表現しているところも演劇の手法としておもしろい」
島「秋田について詳しい県内女から、県外女3人がガイドしてもらいながら移動していくことが表現されていて、変わっていく風景をこちらも想像することができました」
●タイトル:「御隅櫓にて」
散策スポット:御隅櫓
登場人物:男1、男2、女1、女2
島「冒頭、エレベーターの中で4人がギュッとしているシーンで時間をたっぷりと使っているのが良かった。ちょっと気まずい感じも伝わってきました。舞台の後ろの空間も使ってぐるっと回る様子を見せるなど、セリフだけじゃなくて体によって御隅櫓の風景を我々に想像させてくれた」
加賀屋「ぎゅーっと詰め込まれた状態から最上階に着いて全員が散らばった時の開放感が見ている方にも感じられた」
●タイトル:「はじめての千秋公園」
散策スポット:本丸跡周辺
登場人物:ひな、さな、ちな
同行したナビゲーターの児玉絵梨奈(演出家)「誰が主導でもなく、3人それぞれの演出的なアイデアやセリフが折り重なってつくられていく様子を見て、ものってこういう風につくるんだなと教えられました」
加賀屋「うまく見せようとかこれを折り込もうという魂胆みたいなのがないのがいい」
島「我々がアドバイスすることもなく、演劇部でもないけれど淡々と書いて稽古していました。3人の生きているリアルな日常をそのまま描いてくれていたのですごく伝わるし、最後の『また会いたいね』という言葉で刹那的にシーンを切り取っていて、うるっときましたし、もう二度と来ない時間や瞬間をしっかり目撃することができました」
秋田のまちを上演する
戯曲やナビゲーターのコメントから、千秋公園の風景が浮かび上がってきましたか?
ワークショップ当日、上演を見ていると、演じられているのは「鯉茶屋」の座敷の上で、そこに舞台美術はないけれど、公園内の景色が目に浮かぶようでした。
島「それぞれのグループにもち味があって、その人にしか書けない戯曲であり、演劇でした。それってすごく豊かなことだと思います。それぞれが『リアルな自分として舞台にちゃんと立っている』ということで、見る側に説得力が生まれました」
加賀屋「演劇とくくると、特別なような気がしてしまうけれど、日常生きているそのままをベースにつくられているのが演劇なので、誰もが普通にできるはずなんですね。それを今日再認識できました」
「ダイアリーシアター」は場所を変え、文化創造館開館後も開催される予定です。
駅や商店街など、秋田のまちのどこかへ赴き、その場での体験をもとに戯曲を書くことで、何気なく過ごしている日常を見つめ直す試み。さまざまな場所で戯曲を束ねることを繰り返し重ねていくことで、秋田のまちの戯曲を創造し、上演したいと考えています。
次回はどこが舞台となるのか。開催が決まりましたらウェブサイトなどでお知らせします。今後の「ダイアリーシアター」もお楽しみに!
※「ダイアリーシアター~千秋公園編~」は秋田市文化創造館プレ事業“乾杯ノ練習”の一環です(秋田市委託事業)。詳しくは#乾杯ノ練習
(撮影:草彅 裕)
Information
ダイアリーシアター~千秋公園編~[終了]
開催日:9月26日(土)10:00~13:00
集合場所:鯉茶屋(秋田市千秋公園1ー6)
書き留められた戯曲は、製本を行い、参加者へお届けしました。
ご参加いただいたみなさん、ありがとうございました。