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日々の不安や不確かさ。不穏な気配と希望
アニメーションが映し出す「現在」と「未来」

2021.08.02

アニメーションや実写映像を制作の軸とする学生9組10人による秋田公立美術大学アニメーション作品展「Now Playing」。日々の不安や不確かさ、あるいはささやかな現象をもとに「日常」を切り取った9作品を公開します。

日々の不安や不確かさをもとに「現在」を描く
アニメーション作品展「Now Playing」

学生の目に現在の「日常」の景色はどのように映っているのでしょうか。学生9組10人によるアニメーション作品展「Now Playing」が7月3日から25日まで、秋田公立美術大学サテライトセンターで開催されました。
短編アニメーション作品のほか絵コンテや背景画の原画、アニメーション企画の等身大POPなどバリエーション豊かな表現の数々が学生の「現在」と「未来」を映しました。「Now Playing」出展の全9作品をアーカイブします。

秋田公立美術大学サテライトセンター(フォンテAKITA6F)で開催したアニメーション作品展「Now Playing」(2021年7月3日〜25日)

未だ続くコロナ禍にあって、日々の不安や不確かさ、曖昧さ、心に抱くもどかしさや切なさは学生生活にどう影響しているのでしょうか。学生たちはそれぞれ何を思い、何を考えながら制作を続けているのでしょうか。

「Now Playing」はいまこの時、再生中の学生の「現在」を問う展覧会。コロナ禍によって曖昧になった「日常」をあらためて見つめ直そうとする試みです。
本展にて取り上げたのは、秋田公立美術大学でアニメーションや実写映像を制作の軸とする学生9組10人。曖昧になった「日常」において、不確かな日々の戸惑いやささやかな現象に潜む不穏。一方で、それらを笑って吹き飛ばす明るさや確かに存在する希望。そうした「日常」をもとに、専攻の異なる10人が制作した9作品を投影しました。

Now Playingメインビジュアル:山田有花、CM撮影・編集:山田汐音

この瞬間の揺さぶられるような
感情をすくい上げたい

アニメーションを中心にさまざまな映像制作をおこなう菊地美咲(コミュニケーションデザイン専攻3年)が出展したのは《灯り(あかり)》。コロナ禍によって会うことをあっけなく阻まれてしまった人への切ない想いを描いた短編ストーリー。切なさ、もどかしさ、この刹那に揺さぶられるような感情が主人公の動きやナレーションによって一気に込み上げてきます。

「まだまだ身動きのとれないその抜け穴を縫うようにして、刹那の感情をすくい上げたい」と菊地。ふとした瞬間に抱いた「会いたい」という思いが、身体を縛るベルトを振り解いて夜空から舞い降りる力強さとともに込み上げ、そしてまた、現実の世界へと揺り戻されます。
会場には《灯り》へといたるアイデアスケッチやナレーションの指示書も展示。舞い降りるさまを描く試みと、言葉のひとつひとつにこだわった過程が垣間見られます。

菊地美咲《灯り》

菊地による《灯り》のアイデアスケッチ

自分自身のかたちを探し、
社会へと泳ぎ出す心模様を描く

《fish》は徳川美稲と佐々木萌(景観デザイン専攻4年)によるアニメーション。これから社会へと泳ぎ出していく主人公の心模様を、佐々木の水彩による背景画と徳川のアニメーションによって描きました。

学生生活4年目を迎え、学生から社会人になる人生の岐路に立つ現在。
「これまで以上により現実的に、そして客観的に、社会のなかでの自分の立ち位置が見えてきた。社会という大きな流れのなかでは、自分のかたちは周りと比べてまだあやふやで、うまく泳ぐこともできない」と徳川。自分という存在の輪郭が曖昧になり、まるで泡のように、魚のように姿を変化させていく様子に「現在の自分自身を投影した」と語ります。不安を抱きながらも自分のかたちを探す主人公の心模様を、佐々木の水彩画が淡く、静かに印象付けました。


Tokugawa Mina YouTubeチャンネル

本作の絵コンテや背景画の原画なども展示

病んだ心と身体のギャップを描く

佐藤泉紀(コミュニケーションデザイン専攻4年)のアニメーション《ぐるぐると飲む》は、ストレスから紙や土など食べ物ではない異物を食べてしまう「異食」がテーマ。仕事帰りに立ち寄ったコンビニで買った飲み物とともに異物を飲み込んだあと、人の心と体はどうなるのでしょうか。
「異食症の人が自分で写した動画を見ていて、その人のギャップが面白かった」と話す佐藤は、「ストレスを感じてしまう現実と、異物を飲み込んだ時の危険を感じて興奮する体内との対比を意識して制作した」と語ります。異物がめぐる迷路のような体内は、美しくも激しく興奮して、ストレスに対抗するかのように彼女自身を揺さぶります。

佐藤が苦心したというキャラクターは、象の姿がモチーフ。異物でありながらかわいいキャラクターと、モノトーンで描く「現実」。カラフルで楽しげながら、激しく揺さぶる体内とのギャップ。ストレスで病んだ身体のなかで起こっているかもしれない事象を描いたファンタジーです。


佐藤泉紀《ぐるぐると飲む》

ギャラリー中央のモニターで、鮮やかな色彩とモノトーンの激しい対比を見せた

ツイていない1日をポジティブに
歌って吹き飛ばせ!

絵や漫画を中心に制作する堀江侑加(ビジュアルアーツ専攻3年)が作詞・作曲・編曲・うた・アニメーションのすべてを手がけたのが、ハイテンポな曲に乗って男子学生の1日を描いたアニメーション《牛乳イッポン良候!》。ツイていない1日を愉快な仲間と一緒にポジティブに歌い上げ、勢いよく吹き飛ばします。

堀江が目指すのは、どんな時も楽しい気分になれる作品。「表現することについては、大道芸人のようなイメージが自分のなかにある。落ち込んでいる人が見て面白いなと思ってくれたり、元気になったり、気軽に楽しめるものを作りたいと思って制作している」と話します。本作は、堀江自身が高校の軽音楽部在籍時に作詞作曲して文化祭等でも演奏していた楽曲をベースにアニメーションを制作した堀江版みんなのうた。耳に残るメロディーと船乗りの掛け声「良候(ヨーソロー)」に乗って、男子学生と仲間たちが3分40秒を駆け回ります。

ほりえってぃYouTubeチャンネル

「良候」(ヨーソロー)とは船乗りの「直進せよ」の掛け声

現代の社会問題をベースに
平安時代と近現代の世界観をミックス

菊池翠(コミュニケーションデザイン専攻4年)はアニメーション企画《クリーピングクリーパー》を出展。インターネットの普及やコロナ禍によって浮き彫りになった現代の社会問題をベースに、平安時代の妖怪退治伝説と近現代の世界観をミックス。毒々しく、忍び寄ってくるような物語の設定やキャクター設定、キャラクターの等身大POPなどがギャラリーを彩りました。

時は仁平X年、西暦XX51年に、突如として出現した妖怪の目的は、平安製薬の子息を悪夢に陥れること。警備員兼妖怪ハンターの馬場頼政が、ブラック企業に勤めて冴えない生活を送りながらも妖怪たちと夜な夜な攻防戦を繰り広げるーー。

そんな現代とリンクする物語の設定と、平安時代の姿を未来に置き換えた鮮やかで個性豊かなキャラクターたち。現代社会への風刺を効かせながら、仮想と現実が入り混じる人間と妖怪の共生世界を描きました。

馬場頼政、鵺、土蜘蛛、付喪神TV子、近衞らが攻防を繰り広げる菊池翠のアニメーション企画《クリーピングクリーパー》