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生活と表現が交わる広場としての展覧会 「200 年をたがやす」 未来を創造するための身体と感覚を整える場に

生活と表現が交わる広場としての展覧会「200 年をたがやす/Cultivating Successive Wisdoms」。創造の現場をひらく約 3 ヵ月の「つくる」会期を経て、その成果をかたちにする場「みせる」会期が、7 月 1 日(木)にオープン!

(撮影:草彅裕)

生活と表現が交わる広場としての展覧会

秋田市文化創造館のオープニング特別事業として開催中の生活と表現が交わる広場としての展覧会「200 年をたがやす/Cultivating Successive Wisdoms」(主催:秋田市、企画・制作:NPO 法人アーツセンターあきた)。創造の現場をひらく約 3 ヵ月の「つくる」会期を経て、その成果をかたちにする場、会期「みせる」が、7 月 1 日(木)にオープンしました。

インディペンデントキュレーターの服部浩之(秋田公立美術大学特任准教授)を全体監修に迎えるとともに、建築家の海法圭(海法圭建築設計事務所)が参画し、特徴的な建築構造をもつ会場・秋田市文化創造館の館内外をダイナミックに生かして「新たな公共性」を模索。未来に向けて新たな創造的行為を誘発するための展示空間が出現しました。

天窓から自然光が差し込むスタジオAには、アーティスト・村山留里子のカラフルでありながらも濃密なオブジェや、農民彫刻家と称し農業や社会運動と創作活動を並行して実践した皆川嘉左ヱ門による重厚な彫像等を配置。さらに、海法圭の提案による「200 年の橋」と題する空間を横断する構造物が立ち上がり、作品を鑑賞するだけでなく、休憩したり、おしゃべりをしたり、橋に設えられたブランコで遊んだりと、多様な人々の営みと表現が交錯する「広場」のような現象が展開され、鑑賞者と作品との新たな関係性を構築するためのきっかけを与えています。

9 月 26 日(日)までの会期中には、秋田の祭りや民俗芸能のリサーチを元に創作した演劇作品「soda city funk」 (作・演出:児玉絵梨奈)の上演や、秋田の家庭に伝わる食のレシピの実演、伝統的工芸品のワークショップ等の各種イベントを開催します。

各種イベントの詳細は、展覧会「200年をたがやす」の特設ウェブサイトをご確認ください。

展覧会コンセプト

「200 年」という幅で、過去に、そして未来へと、様々な旅路であきたを探る展覧会です。200 年前は江戸時代。明治維 新よりも以前に遡ります。歴史教科書などではあまり区切られることのない幅で物事を捉え、人々の営みをたどること から、私たちのこれからの生活や豊かさについて模索していきたいと思います。

「Culture(文化)」は「Cultivate(耕す)」を語源とします。無数の先人がたがやしてきた土壌に、私たちの文化は形成されているのです。本展覧会は、生活・産業、食、工芸、美術、舞台の5分野を軸に展開されます。一見バラバラな領域 ですが、どれも私たちが生きるうえで不可欠なもので、複雑に関係し合っています。 食べることは人(や多くの生物)の生命を維持するために不可欠ですが、人は食を飽くことなく探求し、それを代々継 承することで豊かな食文化を築いてきました。農業や鉱業、林業などの産業は近年その重要性が見直されています が、多様な産業は地域文化の形成に不可欠です。一方で、大量生産・消費の諸問題にやっと本格的に世界が取り組 むようになった昨今、長年受け継がれてきた工芸の知や技術への眼差しも変わりはじめています。また、現代アートと いうことばが定着する一方で、美術表現の手法や形式は加速度的に多様化・複雑化していますが、同時に既成概念 を疑い常に新たな価値を提起する運動を、美術という領域は切り拓いてきました。そして、現在まで数多く伝承される 芸能や祭祀、身体を用いた表現の豊かな系譜は、現代の舞台芸術作品に受け継がれています。

本展覧会では、「あきた」を秋田市や秋田県という行政区分に必ずしも限定していません。あきたという言葉からどこを、あるいはどれくらいの領域を思い浮かべるかは、人それぞれでしょう。その異なる個別の感覚を大切にしていきたいと考えています。 そもそも人の暮らしや文化は、越境の連続によりかたちづくられてきたもので、厳密に領域や境界を定義するのは困難です。それは、200年以上前に三河国を出て、あきたに長く逗留し、東北を歩き続けた菅江真澄の偉業を丁寧に残してきたこの地の人々にとって、受け入れやすい価値観ではないでしょうか。 また、この展覧会であきたの文化を完璧に網羅することは不可能で、穴はあってもよいと考えています。むしろ、大きくひろげた不完全な風呂敷の穴を、これから知恵や技術をもつ多くの人に繕い補完していっていただきたいと思ってい ます。穴から新たな芽が芽吹くなら、それもよいでしょう。

そしてなによりも、本展覧会は多様な参加により成立するプラットフォームとなることを目指し、会期を2 つに分けて公開します。 第一期はオープンスタジオ期間の「つくる」。アーティストや職人、研究者などの専門家を中心としつつも、 この地域に暮らす多彩な人々と一緒に、生活・産業、食、工芸、美術、舞台という5つの要素について、調査・研究と創作活動を展開しました。 そして第二期は展示期間の「みせる」。「つくる」の成果を、展覧会を軸に、公演やイベントなども交えて日々変化する動きのある場として公開します。過去のかけらをたぐり歴史の網目を垣間見、未来をつかむべく創造行為を展開することで、あきたの文化をたがやす活動を継承していきます。

(全体監修 服部浩之)

2階のスタジオA1には「200年の橋」が立ち上がる(撮影:草彅裕)
東海林太郎の歌碑との出会いから生まれた荒木優光による「一聴永楽」 (撮影:草彅裕)
舞台分野では演劇作品「soda city funk」(作・演出:児玉絵梨奈)を上演する(撮影:須賀亮平)

Information

展覧会「200年をたがやす/Cultivating Successive Wisdoms

■ 会期
①つくる 2021年3月21日(日)~6月18日(金)
②みせる 2021年7月1日(木)~9月26日(日)
※火曜を除く9時~21時
※サテライト会場は9時~19時
■ 会場
秋田市文化創造館(秋田市千秋明徳町3-16)
※サテライト会場:Newテラス広小路(秋田市千秋明徳町1-56)
■ 主催
秋田市
■ 企画・制作
NPO法人アーツセンターあきた
■ 協力
ココラボラトリー
■ 全体監修
服部浩之(インディペンデントキュレーター、秋田公立美術大学特任准教授)
■ キュレーター
のんびり合同会社(矢吹史子)、合同会社 casane tsumugu(田宮慎) 、NPO 法人アーツセンターあきた(尾花賢一、島崇、藤本悠里子)
■ 空間設計 (建築)
海法圭(建築家/株式会社海法圭建築設計事務所)
■ デザイン
[グラフィック]佐々木俊(株式会社 AYOND) 、[ウェブ]谷戸正樹(MYDO LLC)
■ プロジェクトマネジメント
鈴木一絵

入場無料、一部イベントは要予約

ウェブサイト:https://200years-akita.jp/
Facebook: @200years.akita
Instagram: @200years_akita
Twitter: @200years_akita

(撮影:草彅裕)

展覧会「200年をたがやす」は5つの要素をピックアップして展開しています。

■ 生活・産業
あきたのこれまでの200年を振り返り、これからの200年を展望する「あきた400ねんリサーチセンター」のリサーチ成果を発表するとともに、作家・内田聖良による「水山これくしょん」、「余白書店」を展開します。

Profile 作家プロフィール

キュレーター

尾花 賢一

各地を取材する中から生まれた絵画や彫刻を組み合わせ、虚構と現実が往来する空間や物語を作り出している。主な活動に『VOCA2021』(2021年、上野の森美術館)、『表現の生態系』(2019年、アーツ前橋・群馬県)、『いつかくる日』(2018年、ココラボラトリー・秋田)など。受賞歴としてTokyo Midtown Award 2015 優秀賞、LUMINE meets ART AWARD準グランプリ、VOCA賞。

■ 

個人が持つ味とその思い出を広くシェアすることで未来に食文化をつないでいくことを目指し、「あの人のレシピをつなぐ」をテーマとして収集したレシピを、さまざまな形で公開します。

Profile 作家プロフィール

キュレーター

のんびり合同会社(矢吹 史子)

秋田市出身。編集者。2012年より秋田県フリーマガジン「のんびり」、2016年より秋田県ウェブマガジン「なんも大学」の制作に携わり、秋田県内全域を巡りながら、そこに暮らす人々やその土地ならではの文化を取材、編集している。にかほ市のマルシェイベント「いちじくいち」の企画運営にも携わる。

■ 舞台

あきたの民俗芸能や昔話についてのリサーチ、あきたに関わる方々から集めた言葉をもとに演劇公演「soda city funk」(作・演出:児玉絵梨奈)を、あきたに暮らす方々を出演者に迎え、8月中旬から上演します。

Profile 作家プロフィール

キュレーター

島 崇

劇作家。2009年よりシアター・カンパニー「マレビトの会」に役者/劇作家として参加。近年の参加作品に「シアターコモンズ’19 リーディング・パフォーマンス」(2019年)、「オルガンと朗読で聴く『幻想交響曲』」(ミューザ川崎シンフォニーホール、2021年)など。2019年よりアーツセンターあきたでプログラムコーディネーターとして勤務。

■ 工芸

あきたの伝統的工芸品に焦点をあて、製造過程や素材、技術などを応募いただいたエピソードとともに紹介します。また、あきたに暮らす皆さんの家庭に眠る工芸品を募集・展示し、未来の使い手を探します。

Profile 作家プロフィール

キュレーター

合同会社casane tsumugu(田宮 慎)

大館市生まれ、秋田市育ち。大学進学を機に上京。卒業後、都内デザイン事務所に勤務。全国の駅ビルなどの商業施設や、店舗の企画・デザイン・コンサルティングに携わる。2010年に秋田に戻り、casane tsumuguとして独立。地場産業や伝統工芸を中心に、地域の作り手と協業して世代を超えて永く愛される商品づくりや、ブランディングを行う。

■ 美術

「記述し伝える運動」を主題に、アーティスト等表現の専門家に加えあきたに暮らす様々な生活者とともに築いてきた8つのプロジェクトを発表します。
出展作家・プロジェクト:「生活と表現の広場」、ココラボ アーカイブ プロジェクト「ココラブ」、村山留里子、皆川嘉左ヱ門、荒木優光、佐藤研吾、草彅裕 、「プロジェクトの研究会」

Profile 作家プロフィール

全体監修/キュレーター

服部 浩之

1978年愛知県生まれ。愛知・秋田拠点。建築を学んだのちに、アートセンターなど様々な現場でアーティストらの創作活動に携わる。アジアの同時代の表現活動を研究し、多様な表現者との協働を軸にしたプロジェクトを展開。主な企画に、第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」(2019年)

Profile 作家プロフィール

キュレーター

藤本 悠里子

1994年京都市生まれ。京都造形芸術大学、秋田公立美術大学大学院にてキュレーション、アートマネジメントを学び、現代美術展の企画を行う。2019年よりNPO法人アーツセンターあきたにてプログラム・コーディネーターとして勤務。主な企画に、ALLNIGHT HAPS 2019 前期「PORTABILITY」(京都、2019年)、アーティスト秋田滞在企画「SUMMER STATEMENT 2018」(秋田、2018年)。

建築家とデザイナーがつくりだす空間

本展の空間設計は建築家の海法圭が担当。特徴的な秋田市文化創造館の建築を大胆に使い、来館者(鑑賞者)と展覧会との新たな関わり方を提案しています。また、デザイナーの佐々木俊が展覧会のグラフィックデザインを担当。イラストレーターの丹野杏香のイラストを用いながら、文化を育む土壌をたがやすという展覧会コンセプトと「つくる」と「みせる」に分かれた二つの会期を表現するユニークなデザインを制作しました。

展覧会「200年をたがやす」のポスター

Profile 作家プロフィール

建築家

海法 圭

1982年生まれ。人間の身の回りの環境と、人知を超えた環境や現象などとの接点をデザインすることをテーマに、壮大でヴィジョナリーな構想から住宅やプロダクトの設計まで、スケールを横断した幅広い提案を行う。代表作に「上越市雪中貯蔵施設ユキノハコ」「美術家の住まい」「箱根本箱」「ANTCICADA」など。第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展特別招待出展(2021年)。

Profile 作家プロフィール

デザイナー

佐々木 俊

グラフィックデザイナー/アートディレクター 1985年宮城県仙台市生まれ。2010年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。アドブレーン、グリッツデザインを経て、2016年デザイン事務所AYOND(アヨンド)を設立。2020年JAGDA新人賞受賞。

秋田県内外の作家が参加

本展には、秋田県内外の作家が出展。会期中も、ワークショップやアーカイブプロジェクト等を開催し、一部作品は更新をつづけます。

Profile

内田 聖良

作家のほかサーキット・ベンダー(回路を曲げる人)と名乗る。公に流通されにくい影の部分、「余白」の部分に着目し、誰もが利用するサービスや道具を用いながらそれらを開示し再流通させる作品制作やプロジェクト運営を行う。 また、拠点とする東北に根付く人間と文化の深い結びつきをリサーチし、その芸術や文化が果たしていた機能を新しい生活の場となるバーチャル空間やゲーム空間に還元する試みも行っている。 (撮影:植松頌太)

Profile

児玉 絵梨奈

演出家。2010年よりシアター・カンパニー「マレビトの会」に役者として参加。主な参加作品に「HIROSHIMA-HAPCHEON:二つの都市をめぐる展覧会」(F/T10 他、2010年)など。2013年より島崇ソロダンス公演「私の振り付け」などの演出を務める。近年の演出作品に「オルガンと朗読で聴く『幻想交響曲』」(ミューザ川崎シンフォニーホール、2021年)など

Profile

ココラボラトリー

2005年に秋田市大町の川反中央ビル1階に設立されたアートスペース。展覧会、芝居や音楽ライブ、パフォーマンスやトークイベント等、ジャンルを越えた表現活動を日常的に楽しめる場であり、地域を充実させる実験場として様々な人が利用する。スペース提供と企画事業の双方を実施することで、多様な活動が蓄積されている。

Profile

村山 留里子

1968年秋田市生まれ、同地拠点。10代の頃から染色を学び、化学染料で自ら染めた布を細かく切ってミシンで縫い合わせる作品や、ビーズなどのアクセサリー小物を濃密に重ねるオブジェなどで知られる。主な個展に「果てしなく近い楽園」(秋田県立美術館県民ギャラリー、2013年)、グループ展に「LOVE展:アートにみる愛のかたち」(森美術館、2013年)など。

Profile

皆川 嘉左ヱ門

1942年秋田県十文字町生まれ、2018年同地に没す。高校卒業後農業をはじめ、その傍らで木彫の制作をはじめる。農民彫刻家と称し、《休耕田に佇む》や《百姓老人》など農業に従事する人々を彫る。減反政策に反対し、減反田を用いて野外彫刻美術館「減反画廊」を設立。「希望の原理」(国東半島芸術祭、2014年)、「青森EARTH2016 根と路」(青森県立美術館、2016年)などに出展。

Profile

草彅 裕

1982年秋田県仙北市生まれ、秋田市拠点。しんしんと降り積もる雪の夜を写した《SNOW》、上流で強酸性水が噴出する玉川の水を高速シャッターで捉えた《ACID WATER -流転の水系-》など、秋田の風土や自然を対象に写真作品を制作する。個展に「流転の水系」(仙北市立角館平福記念美術館、2019年)、グループ展に「写真新世紀 東京展 2010」(東京都写真美術館、2010年)など。

Profile

佐藤 研吾

1989年神奈川県生まれ。建築家として、インド、福島、東京という複数の拠点を行き来しながら創作活動に取り組む。一般社団法人コロガロウ/ 佐藤研吾建築設計事務所主宰。インド・日本で開催する短期デザイン学校In-Field Studio/ 荒れ地のなかスタジオ代表。福島県大玉村で藍畑を世話する歓藍社に所属。

Profile

藤 浩志

美術家・秋田市文化創造館館長。 鹿児島生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科修了、パプアニューギニア国立芸術学校講師、都市計画事務所勤務を経てジャンルにこだわらないプロジェクト型の美術表現を実践。2012年より東北に拠点を移し十和田市現代美術館館長を経てNPO法人アーツセンターあきたを立ち上げ、新しい表現の拠点を模索中。

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた 事務局長

三富章恵

静岡県生まれ。名古屋大学大学院国際開発研究科修了。2006年より、独立行政法人国際交流基金に勤務し、東京およびマニラ(フィリピン)において青少年交流や芸術文化交流、日本語教育の普及事業等に従事。
東日本大震災で被災経験をもつ青少年や児童養護施設に暮らす高校生のリーダーシップ研修や奨学事業を行う一般財団法人教育支援グローバル基金での勤務を経て、2018年4月より現職。

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