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未来のまちの姿を描き、北高跡地の可能性を探 実証実験プロジェクトに向けて

【能代北高跡地のWSレポート4】
能代北高跡地利活用の可能性を探る2021年度の第3回目のワークショップは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況を鑑み、中止となりました。そこでプロジェクトチームのメンバーが集まって、参加者に提示していただく予定だった実証実験プロジェクト案について話し合いました。

2021年10月から始まった「能代北高跡地利活用の可能性を探るワークショップ」。1月開催予定だった第3回ワークショップは、新型コロナウイルス感染症の拡大状況を鑑み、中止となりました。第3回ワークショップでは、第2回の時に考えた「北高跡地で取り組む実験的なプロジェクト」を本格始動させるためブラッシュアップし、実施時期を想定して計画を立てる予定でした。そこで、ワークショップを企画:運営する秋田公立美術大学のプロジェクトチームが集まり、これまでの意見やプロジェクト案をもとにクロストークを開催。グラフィック・レコーディングを見て振り返りながら、実証実験プロジェクトを具体的に話し合いました。
次年度は技術的な検討を加えた複数の実証実験プロジェクトを実施し、北高跡地の可能性を探りながら未来のまちの姿を描いていきます。

北高跡地利活用アーカイブ

北高跡地利活用に関する能代市のウェブサイトはこちら

北高跡地利活用(アーツセンターあきたウェブサイト記事)

能代北高跡地利活用スタートブック「これから、ここから。」(PDF)
 (2021年10月発行)

▼能代北高跡地のワークショップニューズレター
 「これから、ここから。」Vol.1(PDF)(2021年11月発行)
 「これから、ここから。」Vol.2(PDF)(2022年1月発行)
 「これから、ここから。」Vol.3(PDF)(2022年3月発行)

実験的なプロジェクトに取り組むことは、
公共施設をつくるプロセスを見直すことでもある

田村:第3回ワークショップでは、第2回目の「北高跡地で取り組む短期・中長期プロジェクト」のアイデアをもとに、実際に次年度に取り組むプロジェクト案を提示していただく予定でした。残念ながら中止となってしまったわけですが、ワークショップは今後も続きます。そこで次年度に向けてプロジェクト案の叩き台を提示したいと考えていますが、まずは、この1年を振り返ってみたいと思います。
井上:今年度始めたワークショップは新しい取り組みなので、参加者にとっては「これからどうなっていくんだろう」という手探りのところがあったと思います。ただ、ありがたいことにたくさんの意見を聞くことができました。次年度は、これまでのアイデアをもとにしたプロジェクトを実施することで、われわれが考えている一連の流れを体験していただけると思いますし、そこで何か手応えなり、改善点が見えてくることを期待しています。残念なのは、3回目のワークショップができなかったことです。プロジェクトの具体化を検討することができず、ある種、よくあるワークショップっぽい感じで終わってしまいました。実際にプロジェクトをどう進めていくのかについては、第1回、2回と参加してくださった方々にとって不安な点かもしれません。

井上宗則

小杉:公共のプロジェクトを進める上では、お金をかけず時間もかけずにいいものができるというのが一番効率のいい進め方なわけですが、現実はそれほど単純ではありません。そのことを私たちは伝えてきたつもりです。当初から、北高跡地という場所だからこそ可能な新しいプログラムを市民の皆さんと開発したいという思いはありますが、そこからさらに立ち戻り、行政が公共施設をつくるプロセス自体を見直すことの大切さを実感しています。ワークショップで出てきたプロジェクト・アイデアを皆さんと試しにやってみることで、市民協働の雰囲気と機運を醸成していくフェーズ(期間)にしたいと考えています。

5年後、10年後に向けて
「やってみる」を醸成していく

井上:今回、あえて「いつまでに何かを決める」といった工程計画を提示しなかったことも、もしかしたら次に続いていく雰囲気を醸成しているかもしれません。一方、能代松陽高校でおこなったワークショップでは、北高跡地を知らない学生が多く、驚きました。ワークショップへの参加が、家族や友達と北高跡地やまちづくりについて話すきっかけになったとしたらうれしいです。5年ぐらい経ったら彼らは社会に出ているかもしれないし、10年経てばまちづくりを中心的に担う人材になっているかもしれない。そういうタネをまきつつあるのかなと思います。
小杉:北高跡地のような可能性のある場所があることで、街は変わっていくだろうという確信みたいなのものが私たちにはあります。市民の皆さんと共にプロジェクトを盛り上げながら、少しずつ進めていくというプロセスを通して、そうした意識を共有したいです。
船山:要望ではないことが出てくることって、結構重要かなと思っていて。何が起こるか分からないけれどとにかく「やってみる」という雰囲気が、じわじわ醸成されていく過程にあるのかなと思います。なのでやはり、次年度の実証実験プロジェクトはしっかり進めたいですね。

変わっていくものと、残していくものを
実験しながら共有する

小杉:土地の文化はすごく大事なものです。それをどう育てていくのかを、いったんスピードを緩めて、じっくり確認しながらつくり上げるという考え方も必要だと思います。財政的な失敗が許されない現在、なるべくリスクを下げるためにも、実験を重ねた上で着実に成果を上げるやり方が戦略的にも良いだろうという考えです。参加者の中に核(コア)となるような人が現れることも期待しています。あと、プロジェクトのアイデアを北高跡地で試すのもいいけれど、既存の他の施設や場所で試してみることも必要かもしれません。うまく使われていない既存施設を使うことで済むこともあるでしょう。老朽化した施設を壊してやり直すばかりではなく、改修してうまく使えることはたくさんあると思います。

小杉栄次郎

井上:北高跡地って、やろうと思えばいろいろできるけど、別に北高跡地じゃなくてもやれることはある。アイデアをいろんな場所にプラグインしていく感じでしょうか。
小杉:今の街のなかにどういう施設がどんな分布であるのか、その配置をもう一度検討し直すことも近い将来必要になるのかなと。また、街は変わっていくものですが、古い建築を残して外観は変えずに街の景観を残しながらも、中身を時代に合わせて変えていくこともできます。実験的なプロジェクトを通して、多くの人に街全体への関心を持ってもらえるようなプロジェクトに育てたいです。

街を「使う」ことで、見てくるもの

船山:街を「使う」こと、「利用する」こと、「活用する」でもいいし、あるいは「愛でる」でもいいんですけれど、そういう街へのアクセスみたいなものができていくと、街の在り方に関心と興味を持っていけるような気がするんです。街のなかに空間がぽこぽこと空いていくときに、こういう使い方で活用してみたいと考える人が多くなっていくと、街に興味を持つ人が増えたということなのかなと思います。北高跡地で実験してみて、ここではうまくいかなかったけれど、あっちなら面白くできそうだと飛び火していくみたいな感じになっていったらいいですね。
井上:道路も公園も法的な制約があって、積極的に街を使いづらい状況にあります。一方、そのような制約がかからない北高跡地でいろいろな使い方を試行することは、街を使うことに対する意識を変え、結果的に北高跡地を超えたさまざまな活動に発展していくかもしれません。そういったことを念頭にプロジェクトを進めていくことが重要と考えています。

船山哲郎

能代北高跡地をフィールドに取り組む
実証実験プロジェクト案

2021年度に能代市役所でおこなった2回のワークショップと松陽高等学校でおこなった高校生ワークショップでは、北高跡地とその周辺をフィールドとして、参加者からさまざまな提案をいただきました。次年度はこれらをもとに、北高跡地で複数の実証実験プロジェクトを実施予定です。

能代北高跡地をフィールドに取り組むプロジェクトのアイデア
・防災意識を高める場&イベント広場
・子どもや女性が集まる場として、若い人にイベント企画をしてもらう
・スタートアップ支援に着手できる仮設の拠点
 (起業・ものづくり・研究・コールセンター)
・文化財を保存・展示する文教施設構想
・文化財施設を仮設建築から始め、小さな展示会を開催
・木育と遊びの場
・木で組み立てたコンテナを仮設して実験的なイベントを企画
・雨風をしのげる屋根を設けた屋台村で季節を味わう
・能代の食が味わえる春夏秋冬のイベント
・自然と眺望を活かしたキャンプ&イベント
・べらぼう凧やこども七夕、天空の不夜城など能代の文化を伝えるイベント
・自然を活かしたグランピングで星空や映画を楽しむ
・白神山地や洋上風力発電が見渡せる展望台を仮設
・多世代交流イベントによる歴史伝承の場づくり、木工体験イベント
・小規模のスポーツ体験を複数用意して健康的な遊び空間づくりをする
・北高跡地をスタートしてガイドと共にめぐるウォーキングツアー
・天体観測やJAXAとコラボした宇宙イベント
・広い土地を活用してギネスチャレンジ
・みんなで芝生はりや植樹をするイベント
・お年寄りと若者が交流できる場
・バーベキューやキャンプをして広い土地を楽しむ
・広くて高い場所を利用してカフェに
・ウォーキングコースやドッグランに

※「能代北高跡地利活用の可能性を探るワークショップ」での提案より

クロストーク後半では、2021年度に開催したワークショップにて参加者から提案していただいたこれらプロジェクトのアイデアを整理。全てを網羅する企画となるように、5つのプロジェクトにまとめました。

実証実験プロジェクト案
■プロジェクト01|北高跡地に宿泊する
[実施時期]8〜9月(小中高生も対象にする場合は夏休みに)
[概  要]防災キャンプと天体観測
・災害によってライフラインが断たれた状況を想定して実施
・能代市で実際に起こった災害(火災、洪水、飛砂等)について学習
・夜は屋外で映画上映会を開催
・映画鑑賞後、天体観測を実施(JAXAとのコラボレーションは可能か?)

■プロジェクト02|北高跡地でスタートアップ
[実施時期]学生対象の場合は夏休み期間
[概  要]研究やリサーチのフロントオフィス
・学術研究等のフロントオフィス
JAXAや木材高度加工研究所のサテライトオフィス
・フィールドリサーチの拠点や、夏休み1週間ぐらいのゼミやラボの拠点に

プロジェクト03|北高跡地で展示する
[実施時期]10〜11月(能代市民俗芸能発表会等のイベントと連携)
[概  要]文化財を楽しもう
・「将来の文化財」をテーマにした展示会などを開催
・木工の家具や凧など現在も制作されているものを中心とした展示物
・他のイベントにおいても使用可能で移動可能な展示空間を制作(木造コンテナ等)
・能代の文化財をリスト化していく

プロジェクト04|北高跡地でつくる
[実施時期]8〜9月
[概  要]職人や企業とコラボしたワークショップ
・地元の職人や企業と連携し、屋外でも使用可能な木工家具をつくるワークショップを開催(木材高度加工研究所との連携も検討)
・完成した家具を持ち寄った食事会を開催
・木都能代の歴史を学ぶ機会としても活用

プロジェクト05|北高跡地で展望する
[実施時期]5〜6月、12月
[概  要]ランドマークはつくれるか?
・まちを一望できる展望台を検討する
・クレーン車等で高さを確認(5〜6月)後、仮設の解体可能な展望台を計画・設置(12月)

北高跡地で街の新しい体験を

井上:プロジェクト01の北高跡地でキャンプをしてみるというのは、結構シンプルで、でもちょっと街の捉え方が変わるきっかけにもなりそうなプロジェクトだなと思います。防災キャンプとしてまずは学びながら遊んで、料理を作って食べて。夜は映画を見たり天体観測したり。
小杉:北高跡地で街の新しい見方とか、新しい体験をするって重要だと思います。今までと違う風景を見るのって、可能性がありますよね。ここで公共の場の可能性を模索してみたいですね。
船山:キャンプにはいろいろな要素を含めることができますよね。能代近海で捕れる魚を中高生とかみんなで捌いて焼いてみるとかもできそう。
田村:街なかの原っぱで寝てみるみたいなのって面白いですね。とりあえず2〜3個、仮設の木造のコンテナを組んでみるのもいいかもしれません。何かが始まる予感がします。

小杉:プロジェクト02についてですが、最初から北高跡地のみを拠点として考えるのではなく、街なかの空き家を使いながら、県内複数の大学の学生たちを集めて能代の街を一緒にリサーチしたい。それを通して、北高跡地のリサーチ拠点としての可能性を探る実証実験をするのはどうでしょうか。伝統と先端技術が入り混じった能代という土地自体が、他大学の学生間を結び付けるハブとなり得るのではないか。学生自身も、他大学他分野の学生と能代の土地で出会い、協働して街のリサーチをおこなうことで、新しい発見や可能性が見えるのではないかと思います。「木都」というキーワードにしても、全く専門性の違う人たちに興味を持ってもらい、研究対象としてもらうことで、これまでとは違う新しい可能性が生まれるかもしれません。
井上:短期間だけれど、若い人が街に溢れる時期があるのっていいですね。スポーツの合宿だったり、研究やリサーチなど活動の拠点だったり、シンポジウムをする場所だったり。ここを拠点にすることで、街なかに若い人が広がっていったらいい。
船山:何か新しい教育プログラムが生まれるかもしれませんね。
小杉:どのプロジェクトも実際にやってみたら楽しそうで、わくわくしますね!

■2021年度のワークショップを振り返って

「人のつながり」が、北高跡地の「これから」の力に

平元美沙緒「 参加者の意見やワークショップの様子、多様なアイデアをグラフィック・レコーディングに描くことに毎回ワクワクしました! ワークショップ後に参加者同士がグラフィック・レコーディングの周りで話をする姿が心に残っています。ワークショップで素敵なアイデアが生まれただけでなく、お互いをよく知り合うきっかけになったこと。この『人のつながり』こそが、きっと『これから』の北高跡地の力になると思います。今後のプロジェクトを楽しみにしています!」

Profile

平元美沙緒

徳島県徳島市生まれ。高知・奈良で文化財建造物や伝統的町並みを通したまちづくりを学んだ後、結婚を機に秋田に移住。2015年からまちづくりファシリテーターとして、ワークショップのファシリテーターやグラフィック・レコーダーとして活動中。

実験には失敗もあり!
面白いことを一緒に楽しもう

田村剛「北高跡地という大きな更地を前にして、ぼくは少し呆然とし、空っぽすぎて不安に思っていました。北高跡地を取り巻く界隈の、場所や物が見えていなかったんですね。ワークショップで出てくるアイデアや、皆さんが語る思い出話を聞いてそのことに気づきました。これから能代の皆さんと北高跡地でいろんなあそび——ものごとを動かす——をし、そしてまたいろいろ考えていくと思うと、ニヤニヤが止まりません。ところで、「実験」という言葉には「失敗」が含まれているように感じています。このあそびは「実験」だというのですから、自由に面白いことを考え、ものは試しだと一緒にやっていきましょう!ぼくも負けませんよ」

Profile

田村剛

プロフィール/兵庫県神戸市生まれ。海外に1年半、京都に11年の生活経験あり。秋田に来て丸9年。現在、NPO法人アーツセンターあきた所属。動いていない場所や物を動かす仕組みを考えていたいです。社会学修士(立命館大学)。元は機械系。

撮影:伊藤靖史(クリエイティブ・ペグ・ワークス)、草彅裕、船山哲郎

Information

能代北高跡地利活用の可能性を探るワークショップ

■2021年度スケジュール
第1回ワークショップ:2021年10月17日(日)13:00〜16:00 終了しました
第2回ワークショップ:2021年11月28日(日)13:00〜16:00 終了しました
高校生ワークショップ:2021年12月9日(木)13:00〜15:00 終了しました
第3回ワークショップ:2022年1月16日(日)13:00〜16:00
※第3回ワークショップは、新型コロナウイルス感染症の拡大状況を鑑み、中止となりました

■場所
能代市役所 会議室9・10ほか

■プロジェクトメンバー
小杉栄次郎(秋田公立美術大学景観デザイン専攻)
井上宗則(秋田公立美術大学景観デザイン専攻)
船山哲郎(秋田公立美術大学景観デザイン専攻)
田村剛(NPO法人アーツセンターあきた)

■お問い合わせ
NPO法人アーツセンターあきた TEL.018-888-8137
#北高跡地利活用

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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