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秋田の風土と風環境を研究した「風とまち」と、
リサーチをもとに描いた物語「風のまち」
秋田における「風の景観」を追った秋田公立美術大学と秋田洋上風力発電株式会社による共同研究成果展「風とまち」と、リサーチをもとに架空の土地を描いた物語「風のまち守米郷(かみまいごう)」。このふたつで構成されている本展は、井上宗則准教授(景観デザイン専攻)による「風の景観」を探るプロジェクトの成果展です。秋田において、風の作用によって形作られた「風の景観」とは、どのようなものなのでしょうか。
地域において風の作用が生み出す「風の景観」
「風の景観」とは、防風林や石垣、凧、風力発電といった風の作用が生み出した物的事象のことを指します。
「人間が主体となる環境の場を意味する『風土』が、風は大気、土は大地を意味する言葉であることから分かるように、大気の流れである風は我々の生活環境の構築に大きな影響を与えている。しかし、景観に関連するさまざまな研究分野において、大気を軸に景観を読み解く研究は限定的である」と井上准教授。そこで、人と風との相互作用によって成立した視覚的な「景観」に焦点をあてた研究を開始。「『風の景観』という新たな枠組みには、日常的に目にしている風景の再考を促し、これまで見過ごしてきた地域を特徴づける風景の発見につながるかもしれない」と期待する本展は、「風」「風景」「景観」と向き合い、秋田県内に存在する「風の景観」を捉えた研究の始まりでもあります。
秋田県沿岸部で風と人との応答関係によって
生み出された「風の景観」
風と人との応答関係に着目した「風とまち -秋田の風の景観」では、2021年3月から2022年4月の間に赴き、現地にて確認した「風の景観」の事例を紹介。羽州浜街道と羽州街道沿いに宿場町や漁村などさまざまな集落が形成されてきた秋田県沿岸部では、板塀で覆われた家屋や畑などが特徴的な景観を形作っています。一方、砂丘に閉ざされた沖積平野である能代平野や秋田平野では、飛砂との闘いが独自の景観を生み出しました。
江戸時代から継続的に整備され、市街地を守る能代固有の景観をつくりだした「風の松原」、砂山を豊かな緑地に変えた地道な植樹活動によって生み出された「大森山」、特徴的な防風対策が見られる由利本荘市の路村や塊村、江戸時代に築造された由利海岸波除石垣などの事例が写真と共に紹介されています。
風景をつくり、とらえる「風の景観」
風は目の前に広がる風景を直接的につくりだす主要な環境要素でもあります。風の影響によって変形した樹木「扁形樹」は風の向きや強さを感じさせ、刹那的に風をとらえる凧は、地域に吹く風の作用を生かした景観をつくりだします。
本展では、風と雲と地形がつくりだす「雲の境界」、風によって移動する大仙市大浦沼の浮島、風穴がつくりだす景観の特異性を伝える大館市の長走風穴などを紹介。
また、「秋田の今の風、未来の風」では、都市環境工学を専門とする石田泰之氏(東北大学大学院工学研究科)による塊村の風環境の解析や、秋田の2050年代の気象予測を展示。板塀や植栽によって風の強さが弱まるデータや、板塀がある場合とない場合の防風データによって、塊村は集落全体で強風に適応することができる形態であることが結論づけられています。
リサーチをもとに描いた物語「風のまち 守米郷」
ギャラリー後半に展開するのは、プロジェクトに参加した学生らがさまざまなリサーチをもとに想像し、風と共に生きる架空のまち「 守米郷(かみまいごう)」を描いた物語。複雑な風環境のなかで風をとらえ、抵抗したり、活用したり、折り合いをつけながらその土地に暮らす人々の姿と8つの様相を描き出しました。
どこかに存在し、どこかで営まれているかもしれない、架空の土地の物語。それはさまざまな風の事象をとらえ、結びつけるプロジェクトの試みのひとつとなりました。
撮影:船山哲郎
Information
秋田公立美術大学×秋田洋上風力発電株式会社共同研究成果展「風とまち」
「風のまち 守米郷」
■会 期:2022年4月29日(金・祝)〜5月8日(日)※会期中無休
■時 間:10:00〜18:50
■観覧料:無料
■会 場:秋田公立美術大学サテライトセンター(秋田市中通2-8-1 フォンテAKITA6階)
■お問い合わせ:秋田公立美術大学景観デザイン専攻 TEL.018-838-0349