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誰もが馴染みのある駅に 秋田内陸線松葉駅をリニューアル!

秋田内陸線の松葉駅(秋田県仙北市)の魅力度アップにつなげようと、秋田公立美術大学の学生らが駅舎の改装を手掛けました。内装は木材を用いた温かみのある空間となり、外壁には旧国鉄時代の看板文字を再現。周囲の景観に溶け込んだ松葉駅ならではの特徴をいかした、人々に親しまれる駅舎になることを目指しました。

観光の要所 魅力度アップへ

田沢湖に近い松葉駅は、外国人観光客など多くの人々が立ち寄る観光の要所です。駅舎の改修プロジェクトは、駅利用者の満足度を高めようと仙北市からの依頼を受け、秋田公立美術大学の社会連携事業として2021年末よりスタート。秋田内陸線を運行する秋田内陸縦貫鉄道株式会社と北秋田市内陸線再生支援室の協力のもと、実施されました。

改修前の松葉駅内装
改修前の松葉駅外観

改修デザインを提案したのは、秋田公立美術大学2年の石戸凜さん、真鍋萌さん、景観デザイン専攻3年の根本夏実さん、赤坂凜さんの4人。ものづくりデザイン専攻・今中隆介教授と、景観デザイン専攻・井上宗則准教授がアドバイザーとして関わりました。

「無人駅のある風景」から「松葉駅のある風景」を目指して

2月に現地を訪れて地域の中にある松葉駅を調査した際、メンバーは感じました。
「この景観を残したい」
白い外壁と緑の屋根、山々に囲まれてぽつんと駅舎がある風景は、「小さな無人駅のあるランドスケープ」という魅力的な景観だったのです。
この景観を残しつつ、手を加えるべきところはどこか。学生たちが着目したのは、松葉駅ならではのデザインを加えることでした。

デザインコンセプトは「馴染みある場」です。

2022年2月に行われた現地調査

旧国鉄時代の1970年代、松葉駅は終着駅でした。その風景を知っている人々に懐かしんでもらえるように、改修デザインとして駅舎の西側の外壁に旧国鉄時代の看板文字をペイントで再現することを提案しました。終点だったため、次の駅名が入るところは空白となり、松葉駅ならではの特徴を表せます。

電車の乗客から窓越しに見える内装の壁やベンチの背もたれは、温かみのある木材で覆うのはどうかとアイデアを出しました。棚も設置し、使いやすく居心地のよい空間を作り出すという狙いです。

デザインコンセプトはzoomを使って提案された(2022年5月)

松葉駅はこれまでも地域住民の方々が管理し、訪れた多くの観光客が写真に残すなど、さまざまな人々の関わりがありました。改修によって、周囲の景観に溶け込んだ外観をいかしたまま、地域により慣れ親しんだ雰囲気を持つ駅舎にしたいと考えた結果の提案です。

提案は採用され、学生たち自身の手で改修を手がけることになります。

懐かしの看板再現、温かみある内装に

夏の青空が広がる7月上旬、学生たちは松葉駅に訪れて改修作業に取り掛かりました。

旧国鉄時代の看板デザインを外壁に転写する学生

電車が停車する側の白い外壁には、旧国鉄時代の看板文字を一から描き込みます。まずは手書き風のフォントをカーボン紙で壁に転写する作業から。ずれないように真剣な様子で描き込みます。
転写が終わったら、黒いペンキで下書きの文字通りに塗ります。少しでもずれてしまうとバランスが崩れてしまい、「違和感あるね」とつぶやく学生たち。
近づいたり、遠くから見たりして、丁寧に線の太さや文字の丸みの角度を調整していました。

看板文字を描く学生

一方内装は、萩原製作所(秋田市)などのご協力のもと、壁やベンチの背もたれの上に、8種類の県産木材を使用したフローリング材を設置していきます。

ベンチの背もたれを改修する学生

カナヅチやカンナ、ノコギリなどの道具を手際よく扱い、木材の壁を作る学生たち。「技術的には全然まだまだ」と向上心を見せていました。壁の完成後は、木目や木の色が作り出す多様な色合いを感じてもらえるよう、8種類それぞれの木材に樹種名を焼き入れました。

内装に使った材木には樹種名を焼き入れた

愛着と深み 時間とともに増してほしい

1日がかりで改修は終了。

仕上がりを見て3年生の根本さんは「これからの時間経過を、劣化ではなく愛着と深みが増していくように感じてほしい」と願います。同じく3年生の赤坂さんは「内装の木の温もりや手触りを感じ、外観からは旧国鉄時代の歴史を知ることができる。駅舎に訪れた人にとって新しい発見のある駅舎になってほしい」と語りました。

改修後の内装
改修後の外観

7月下旬には、地域の方々へのお披露目会を開催。関係者や地域住民を前に、学生たちが改装のコンセプトを発表したほか、施工の様子を写真にまとめた「7月9日の松葉駅の風景」展が駅舎内で開かれ、多くの人でにぎわいました。

地域住民の前でコンセプトを発表する学生
お披露目会に合わせ施工の様子を写した写真展を開催

地域に溶け込んだどこにでもある駅舎の風景は、松葉駅だからこそ生まれる親しみある風景に生まれ変わりました。これからより一層、利用する誰もにとって馴染みのある駅となっていくことでしょう。

「第3回ウッドファーストあきた木造・木質化建築賞」特別賞を受賞!

2022年7月に行った「秋田内陸線松葉駅 魅力度アップ事業」が、第3回ウッドファーストあきた木造・木質化建築賞の特別賞を受賞しました。

同賞は秋田県が開催し、県内の木造・木質化のモデルとなる優れた建築物を県民や建築関係者に広く紹介するため、木材利用により付加価値が創出された木造・木質化のモデルとなる優れた建築物を選出・表彰するものです。

2022年12月7日に秋田県JAビルで表彰式が開催され、担当教員であるものづくりデザイン専攻今中隆介教授と学生が参加しました。

秋田公立美術大学Webページ

Information

秋田内陸線松葉駅 魅力度アップ事業

■デザイン
秋田公立美術大学
石戸 凜 (2年)
真鍋 萌 (2年)
根本 夏美(景観デザイン専攻3年)
赤坂 凜 (景観デザイン専攻3年)
■監 修
今中 隆介(ものづくりデザイン専攻教授)
井上 宗則(景観デザイン専攻准教授)
■改修日:2022年7月9日(土)
■場 所:秋田内陸縦貫鉄道秋田内陸線松葉駅(秋田県仙北市西木町桧木内)
■依頼者:仙北市
■取 材:アーツセンターあきた

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

伊藤あさみ

新潟県生まれ。元新聞記者。地域の話題から医療・政治・司法関連まで幅広く執筆。2022年より、アーツセンターあきたにて主に秋田公立美術大学の地域連携事業を担当。離島暮らしや豪雪地帯を経験した中で、伝統が残る祭事や風土などに触れ、どんな所でもその土地ならではの良さがあふれているなと感じています。好きなゲームはDQ11。

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