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小さな展覧会「KOMA展」とは
秋田公立美術大学サテライトセンターは2024年6月より、新たな企画「KOMA展」をスタートさせた。KOMA展は、サテライトセンターが管理する情報発信コーナーの空き期間に合わせて公募を行い、学生作品を展示する、不定期の展覧会である。企画の立ち上げに合わせて用意した1800mm×1800mmの仮設壁を、秋田公立美術大学の学生は各回1面から利用できる。
サテライトセンターのギャラリーは大学の授業成果展やアーツセンターあきたの企画展などのほか、学生が展示やワークショップの会場として利用することができる。学生が利用できる展示施設としては、学内に「KATTE」「ヒュッテ」という展示空間、新屋地域に「アラヤニノ」があるが、サテライトセンターではスタッフが常駐し管理しているという点から、展示経験の少ない学生や、もっと気軽に駅前で展示を行いたい学生を対象に機会を設けたいと思い、本企画を計画した。
KOMA展vol.1(6/24-7/13)
初回となるKOMA展vol.1は、公募ではなく、絵画、映像、漫画など平面作品を中心にジャンルの異なる作家を招待し、展示を行ってもらうデモンストレーション的な回として開催した。


齋藤操の《かけ算体操》は、サテライトセンターにて2024年5月に開催された展覧会アーツ&ルーツ専攻3年生展「おむすび展」出展作品。展覧会では暗幕で覆われたデッサンルームでの展示だったが、KOMA展では明るく開かれた空間へ移動した。


渡邊靖之は、人と自然の関係から絵画を制作している。出展作《節分》は水生昆虫のカワゲラがモチーフになっており、カワゲラが冬から春への季節の移ろいの中で雪道を懸命に進む様子を描いた。

「同人誌プロジェクト」は、コミュニケーションデザイン専攻の授業内で発足したプロジェクト。コミュニケーションデザイン専攻講師の坂本祥世先生のもと、5名の学生が漫画を制作し同人誌にまとめた。KOMA展では、同人誌に収録された漫画のコマや設定集をパネル化したものと、実際の同人誌が設置された。
秋田公立美術大学サテライトセンターのギャラリーを会場にした展示と違い、情報発信コーナーでは違った様子が見られることがある。開かれた空間に置かれることで、幅広い年代が自然に作品に近寄る姿や、ビルのスタッフが足を止めて冊子を手に取る様子が見られ、この空間で作品を展示することの可能性を改めて感じる機会となった。
KOMA展vol.2(8/3-9/10)
KOMA展vol.1の会期中にvol.2の公募情報を学生向けに公開。参加者の募集期間はかなり短かったものの、vol.2には学部2年のごしゃ未知、アーツ&ルーツ専攻4年の齋藤こまちの2名が参加した。




齋藤こまちはフィールドワークやルーツから作品を制作するアーツ&ルーツ専攻に所属しながら、織や染色の作品を制作している。「織る」という行為に人生を感じるという齋藤。新屋地域にある大学所有のギャラリースペース「アラヤニノ」にて開催した個展「甘展」より2点を展示した。


ごしゃ未知は過去に公開制作を行ったドローイングを大きく展示。合わせて小さなパネルをツリー状にしたものを仮設壁に展示した。学生の頃から一緒だというオリジナルキャラクター「ほしくん」とその仲間たちの生態をまとめたZINE「ほしくんのおなまえBOOK」も設置。
2名が発表した作品はどちらも過去にそれぞれの個展で発表、公開制作されたもの。KOMA展は小さな機会ではあるものの、こうして活動の機会をうかがっている学生について、より多くの方に紹介していきたい。
KOMA展vol.3(10/5-11/2)
KOMA展vol.3は、修士2年の劉孟琛による個展となった。劉が夏に熊本県立美術館分館にて行った個展「イメージ世界の入り口」の作品を含め、新たな什器を製作して計3組の写真作品を展示した。
劉は「認知バイアスとラベリング」をテーマに大学院複合芸術研究科で研究を行っている。《ふれられないルービックキューブ》は、新たに制作した什器と写真、キーワードが書かれたカードによって構成されている。《秋田 ジャガイモ》には、ジャガイモの要素をもつ秋田市の景観を記録した写真の他に、風景写真が転写されたジャガイモを写した写真作品も。






KOMA展vol.3からは作家のインタビュー映像を会場やSNSにて公開した。開催期間の在廊の代わりとして、そして開催後に残る記録として収録した。
KOMA展vol.4(12/7-12/27)

vol.4では学部1年の永谷瑛二朗、学部2年ふじた光、アーツ&ルーツ専攻3年のブラネン新那サイデの3名が参加した。
永谷は大学入学とともに秋田に移り住み、琴線に触れた県内の様々な風景から28版の版画を制作。稲刈り体験を行った際に黄金色に輝いて見えたという稲穂や、生活に深く関わるようになった雪との暮らしをモチーフにした。

ブラネン新那サイデは命との関わりをテーマにパフォーマンスやインスタレーションを制作している。今回はまちで出会った虫の亡骸から命について考察する《私の子供達》を出展。円形に配置された展示台の中心にある電球の明かりはキリスト教の一節から着想を得てると言う。


ふじた光は、自身が制作したイラストと、架空の秋田県人画家「青波陽生」の作品を同時に展示した。
「人」、あるいは「人外」をよくモチーフにするというふじた。いくつかの世界線を異なる画材で描いており、一つ一つの作品からいろいろな表情や味を感じてほしいと話した。


2024年度は4回開催したKOMA展。会期ごとの仮設壁の設置や開催期間が不定期になってしまう点など課題は残るものの、「なにかアクションを起こしたい」という学生と施設に訪れた来場者を繋げる小さな機会になるよう、引き続き学生とともに試行錯誤を続けていきたい。