個展「L’heure bleue ルールブルー」では、松下が探り続けた釉薬、金属、陶磁の3つの素材の存在を映し出す繊細な作品を、研究の軌跡とともに展示しました。
3月18日、松下の制作に込めた思いや陶芸の製法について、ゲストに陶芸家の松永泰樹氏と、進行役に秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻准教授の安藤郁子氏を迎え、デモンストレーションを交えた座談会が行われました。
松永氏は、愛知県立瀬戸工科高等学校(瀬戸市)の非常勤講師であり、松下が秋田公立美術大学を卒業してから2年間同校の専攻科に通っていた時の恩師でもあります。その座談会の様子をレポートします。
自分の好きな表現を形に
松下:秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻彫金研究生ということで、1年間金属と陶器を使った新しい表現技法を研究し、その成果を展示しています。もともと、金属の発色に魅力を感じていて、金属そのものを(焼き物の表面に)置いて、色を発色させることに着目して研究してきました。
研究では、金属板を溶かさずにそのまま貼り付けたり、ガラスに埋めて金属の酸化を止めたりするなどの実験を繰り返していました。そうしたなかで、銀と銅を混ぜて融点を下げることで、直線の金属紐を巻いたり金属板を置いたりしたところが(今回の展示にある)粒のような表現ができました。そのような実験を繰り返して、一番自分が好きだったものを形にしました。
タイトルの「L’heure bleue ルールブルー」は、日の入り前、日の入り後の直前の空の色のこと。窯のなかでちょうど金属が溶けるか溶けないか、青が出るか出ないかという瞬間を狙って、このテーマで制作しました。
安藤:松下くんが秋美で陶芸を始め、瀬戸で松永先生の元で勉強して、また秋美に戻ってきて、研究生としていろいろな実験をして。この度、集大成として展示ができて、感無量です。
松永先生は技術が柔軟で、自由に土も型も試して面白い表情を作られています。
今回は松永先生の作家性を伺い、松下くんの作品についてなどを通して、いま、陶芸をすることの可能性を感じられるような座談会にしていきたいと考えています。
独自の技法、見つけるのは難しい
安藤:松永先生は、技法に対する柔軟な姿勢と感性がバランス良く混じった作品を制作されています。技術について感じていることを教えていただけませんか。
松永:技法はほとんど出尽くしてしまっているのではと思っており、独自の技法を見つけるのは難しい現状です。
そんななかで松下くんの技法。銀線が巻かれ、融点を調整することで焼くと水滴のような銀の球がポツポツと浮かび上がる。作品を見た時に、すごい発見をしたなと思いました。
失敗を面白いと思って、独自の発見につなげるという作家はいます。日常の制作作業の時に失敗を通して生まれた偶然に注意していると新しい発見ができるのではと考えています。
安藤:松永先生は技法を根詰めてやりたいという思いがあると伺いました。松下くん、松永先生は感覚が近いところがあるのではないでしょうか。きっちりと時間をかけて技術をかけて作り込むところと、偶然を引き込んで作品にするというバランスは松永先生の特徴かと思いますが、いかがでしょうか。
松永:僕の時代は、弟子入りからスタートする陶芸家がいました。僕自身は学校で技術を身につけましたが、当時は学校で学んだ人は言葉が先行して技術がついていけてない頭デッカチな作家が多いという言われかたをされる事がありました。
そう言われるのが悔しくて。僕自身はそれで技術を磨きました。
松下くんも瀬戸にいる時と比べると技術は上がっているが、まだ伸び代があります。もっと技術を磨くと、今回の展示のような大人しくまとまった形だけでなくバリエーションが出てくるのではないでしょうか。技術の制約がなくなればもっと自由な形が出てくる気がします。
安藤:松永先生には自分が作りたいものを素直に作ればいいという、作りたいワクワク感というものが技術を超えて広くあると感じます。
表現だけでない、実用性の大切さもある
安藤:瀬戸市に松永先生がいることは、若い陶芸家にとっては重要ではないでしょうか。教える先生がいること自体、若い陶芸家に影響があると思いますが、どのように考えていますか。
松永:僕が学校に関わっている比重は実はそこまで多くありません。先生と言われますが、やっぱり自分は作家であると思っています。いい先生だねと言われるよりいい作家だねと言われたいです。その方が嬉しい。
ものづくりを教えている教師はものを作りたいという思いを絶えず持っている人が多いですが、現実には難しい。そんな中、作家である僕が非常勤として教師をしているのは価値があると思います。その上で、僕の授業を聞いて面白いなと思ってくれる人がいたらうれしいです。
松下:自分は松永先生のものづくりに対する誠意に憧れています。表現と、技術や実用性の割合を自分で根を詰めて考えて作り上げたい。急須1つ作るにも、水の注ぎ口の形、茶漉しにバリがある方が茶葉が引っかかって湯を切りやすいなど、表現だけではない実用性の大切さなども先生から教わりました。
会場からも質問が上がりました。
ー作りたいものがあって技法につなげるとおっしゃっていましたが、その作りたいものという源泉はどこから来ているのですか?
松永:統一感のある作品を並べているのではありません。やりたいものがどんどん変わってきてしまって、ちょっと飽き性なのかも。
家族が全員陶芸家で、家族が集まるとたいてい陶芸の話になり、絶えず焼き物のことを考えている状態。そこから好きな形、心地よいと思う形が見つかり、そこから使う土、釉薬を考えていくなどアイデアが生まれています。
安藤:最後に松下くんから一言。
松下:自分も高校からものづくりをしてきて、金属や陶芸、デザインいろいろと学びがありました。実験の中で失敗があって、ろくろでもたくさん作ってきました。今回の展示に向けても倍以上の数の作品を作りましたが、割れたものもあります。やっとまとまってきたというか、自分がやりたかったことに近づいてこれたという感じです。
これから技術の習得にも時間がかかりますし、現象の面白さや表現、使用性を考えた焼き物としての課題があります。
この1年間の研究は秋美だからこそできたと思う一方で、これからもやることはたくさんあると考えています。
座談会の前には、松永氏による作品の成形までのデモンストレーションが行われました。
松永氏は作品についてスライドを交えて紹介。「機能性の反対側に作家としての表現性があるとすると、表現に比重がかかるほど、機能性は失われがち。だが機能性に寄っていくと、モノとして面白くなくなる」と語ります。
機能性を重視したものとして業務用のものや100円均一で売られているものなどを挙げます。使えるが、ただなにか物足りない。
「作家としては表現に寄せ過ぎて使えないものにならないよう最近はやはり使ってもらいたいという思いから個性を込めながらも機能性に寄ってきている」。自身の作品についてこう語ります。
デモンストレーションでは持参した瀬戸市の磁器土の泥(泥漿=流動性のある滑らかな泥の状態)を用いて石膏型による成形(泥漿鋳込み)の実演をしました。
今回松永氏が用意した型は5種類。板状の石膏を組み合わせた花入れのような長方体の入れ物や果実のような丸い型、急須の型もあります。
それぞれ、石膏同士をきちんと両端から挟んで、ゴムで止めて隙間がなくなるように合わせます。型によく攪拌した泥を注ぎ、8〜10分くらい放置した後余分な泥を出す(排泥)ことで形ができるといいます。
吸水性がある石膏の特徴を利用しており、放置すればするほど、石膏が水分を吸って肉厚になるとのこと。そのほかにもお客さんに型を傾けるのを手伝ってもらったり、型の中に紐状の硬めの泥を盛りその上から泥を流し込んだりするなど、完成がどうなるのか気になる型も。
さぁ、どんなものができるのでしょうか。
座談会終了後、いよいよ型が取り外されます。
石膏をゆっくり外すと…。しっかりと土が型の形になっており、「おぉー」と歓声が上がります。
「型物はバリができることが欠点だが、それが面白いという見方もできる」と語る松永氏。
少し泥が固まっていなくへこんでしまったり、入れる泥が多くて模様が埋まってしまうなどのアクシデントもありましたが、「うまくいったもの、今ひとつのものもあった。偶然性を期待しながら作るものはたくさん数を作って、いいなと思うものができるのは1つ2つ。それも面白いところ」と笑顔で語りました。
撮影:草彅裕
Profile プロフィール
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Information
松下直史 個展「L’heure bleue ルールブルー」
■会期:2023年3月1日(水)〜2023年3月21日(火・祝)、入場無料
■座談会+デモンストレーション
[概要]作家・松下直史とゲストの陶芸家・松永泰樹が技術面の説明+デモンストレーションを行いながら展覧会場にて対談します。
[日時]3月18日(土)13:30〜15:00
[ゲスト]松永泰樹(陶芸家)
[司会・進行]安藤郁子(秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻准教授)
■会場:秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT
(秋田市八橋南1-1-3 CNA秋田ケーブルテレビ社屋内)
■時間:9:00〜17:30
■主催:秋田公立美術大学
■協力:CNA秋田ケーブルテレビ
■企画・制作:NPO法人アーツセンターあきた
■お問い合わせ:NPO法人アーツセンターあきた
TEL.018-888-8137 E-mail bp@artscenter-akita.jp
※2022年度秋田公立美術大学「ビヨンセレクション」採択企画