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考えている。現象を見ている。
渡辺楓和展「遠くの雨が聞こえる」

2019.07.05

日常にある「現象」に着目して作品を制作している作家・渡辺楓和を特集した展覧会「遠くの雨が聞こえる」が秋田駅前の秋田公立美術大学サテライトセンターで開かれています。秋田公立美大を卒業した作家の活動を紹介する卒業生シリーズ第2弾。7月28日まで。

「遠くの音がよく聞こえると雨」

日常のそこかしこにある「現象」を見つめ、作品を発表している作家・渡辺楓和を特集した展覧会「遠くの雨が聞こえる」が秋田駅前の秋田公立美術大学サテライトセンターで開かれています。秋田公立美術大学とNPO法人アーツセンターあきたの主催。

本展では、《夕焼け》《風》《虹と花火》《人工の欠片》など7点を展示。空を読み、風を集め、光を捉える渡辺の感度によって「現象」を再構築しています。
展覧会初日に行われたギャラリートークには、在学生や卒業生、一般の来場者らが参加。身近にあるさまざまな「現象」を捉え、「私のなかにある現象と感覚のサンプルをかたちにした」という渡辺が、出展作品や制作過程について解説しました。

渡辺は高校時代から絵画やデザイン制作を始め、秋田公立美術大学では素材と向き合う面白さから、ものづくりデザイン専攻(ガラス・陶芸)に在籍。吹きガラスやキルンワーク、手びねりや鋳込みなどガラスや陶芸の基礎を学びました。素材が持つ質感やその変化に魅せられ、渡辺はやがて、日常に現れる「現象」に着目するようになります。

変わっていく「現象」の速度や時間の層をとどめる

「朝焼けは雨、夕焼けは晴れ」「飛行機雲が立つと雨、すぐに消えると晴れ」「遠くの音がよく聞こえると雨」といった法則や、したたる雨のゆらめきやよどみ、錆びた屋根、コーヒーの染み。それらは高気圧や低気圧、空気中の水蒸気量、浸透圧などによって、時間と空間の内に現れては消えていく現象です。

「変わっていく速度や時間の層を、目に見えるようにとどめたい」

そう語る渡辺は、現象と人との距離感や時間の流れの異なりを見つめ、紙や石膏、セメント、蝋などの素材で現象をかたちにする行為を繰り返しています。渡辺は日々、どのように「現象」を見つめ、生活のなかで素材と関わってきたのでしょうか。

《夕焼け》(2019年)

違う時間軸にあるものとすれ違う

渡辺が素材とするのは、紙やプリントした写真、ペンや絵の具、石膏や蝋など。「特定の技法や素材にこだわらず、素材と人との関わり方によって生まれる現象が作品のもとになっている」と語ります。

《夕焼け》は渡辺がデジタルカメラで、異なる場所、異なる時間の空を撮影した写真をもとにした作品。インクジェットプリンターで出力した写真に水を垂らして生まれたインクのにじみは思いもよらない形に広がり、実在しない新たな空を描き出します。あるいは鉄錆を付けて劣化させ、日々その変化を観察した記録。違う時間軸にある空が夜へと切り変わる速度や時間の層が、夕暮れの空気感をはらんで揺らめきます。

《虹と花火》(2019年)

にじんだ色彩がしたたる《虹と花火》は、にじみをもたらす毛細管現象や、均一に混ざろうと動く浸透圧、上から下へと伝い落ちる重力といった当たり前のように生じる「現象」を捉えた作品。目には見えないがそこかしこにあるはずの「現象」を、色を使うことで可視化しています。

「空気中の水分や光。色がそれらを特別なものにする“幸せな現象”」と解説する渡辺。それは、「窓ガラスを伝う水滴の軌道、繊維に引き込まれていく水分子の行方をもう一度見たいと色で追いかけた」行為であると語ります。

色彩の“にじみ”によって、毛細管現象や浸透圧、重力といった「現象」が可視化される