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精密さと美しさは、木との一度きりの出会いから 山岡惇木工展「木でつくる そのかたち」

箱、家具、玩具など主に指物技法で制作する山岡惇の研究成果を紹介する展覧会「木でつくる そのかたち」が秋田市大町の赤れんが郷土館で開かれています。秋田公立美術大学と赤れんが郷土館の連携企画「秋田アーツ&クラフツ」の一環。11月17日(日)まで。

山岡惇 木工展「木でつくる そのかたち」

木工作家・山岡惇によるスツールやチェアなどの家具や玩具、箱など、主に指物技法で制作された作品を紹介する展覧会「木でつくる そのかたち」が秋田市大町の赤れんが郷土館で開かれています。秋田公立美術大学と赤れんが郷土館の連携企画「秋田アーツ&クラフツ」の一環。前期(2019年10月26日〜11月17日)は山岡の木工展、後期(2020年3月1日〜4月19日)は同専攻に所属する木工・漆工・彫金・染色・陶磁・ガラス・プロダクトデザインを専門とする教員・助手によるグループ展「湧水地点」を開催予定です。

秋田市立赤れんが郷土館 2階企画展示室

11月2日に行われたギャラリーツアーには、ものづくりデザイン専攻の学生や教員、一般の来場者らが参加。秋田市で研究成果を一堂に並べるのは初めてという山岡が、「並べることで、改めて気づくことも多かった」という作品の数々を解説しました。

研究対象である木と向き合い、精密さのなかに温かみのある「木でつくる そのかたち」を探究する山岡。ひとつとして同じ色、木目のものはない木材との「一度きりの出会い」を大切に、「素材の持つ特質を活かすことではじめて、木でしか見えない『かたち』が見えてくる」と山岡は話します。本展には、自身のターニングポイントともなったスツールやチェア、シェルフといった家具や箱、玩具など19点を展示。ギャラリーツアーでは、作品へと導いた日常的な発想についてやこだわり、精密な作業の先に見えてきたかたちなどについて語りました。

女性がメイクする姿を思い浮かべたBeing Lady Stool

山岡にとって転機となったのが、《Being Lady Stool》のシリーズ。男性にとってあまり目にすることのない女性がメイクする姿を思い浮かべ、イメージをかたちに反映させました。「女性がメイクをするのは、出かける時、これから何かを始めようとする時。背筋をピンと伸ばしてお化粧をする雰囲気が出るようにした」と山岡は語ります。

《Being Lady Stool 02》

山岡は普段、何をつくるのか、どんなかたちにするのか、どんな木でつくるかの3つを同時進行で考えながらつくっていくといいます。《Being Lady Stool》の座面を傾斜させる発想は、座っていて気が付きました。

「イスの座面を前傾させることで、背筋をピンとさせる女性の姿は美しいだろうと思った」

イスの脚は頂点を結んだ3点の内側は安定しますが、3点からはみ出た部分は不安定。3点を結んだ対角の面を限りなく薄くすればいいと発想したことで、脚をシャープに削っていったといいます。脚の上部は四角ですが、下にいくにしたがって対角の面が削られ、引き締まったシャープなイメージとなるよう追求しました。

「歪みを直して削って、また歪みを直して削ってを繰り返して、かなりの時間をかけた作品。反らずに、安定感が保てるかたちを見定めていった」

《Being Gentleman Shelf》

男性のこだわりの小物置きシェルフ《Being Gentleman Shelf》

一方、男性がこだわりの小物を置くシェルフとしてつくったのが《Being Gentleman Shelf》。小物は、オンとオフを切り替えるアイテム。山岡は「緊張感を持ちながら、身につけることで1日を後押しするような雰囲気に」と解説します。2つシェルフの位置関係で印象は異なり、家に帰って休む時、次の日の朝を迎える時の空間がこのシェルフによってシャープに演出されます。こだわったのは、かたちだけではなく、その素材。

「反らない、壊れない木を見定めました。木でつくるには、まずはその特質を活かすこと。『やりすぎだよ』と言われることもあるが、そうして挑戦することで突き抜けてみたいなという思いもある。このかたちには自分自身が投影されているのかもしれない」

試行錯誤を続けた果ての基本形として

《Being Lady Stool》のシリーズの中でもハイスツールなのが《Being Lady Stool 09》。山岡は「試行錯誤を続けた後、基本形とは何かを確かめようとできるだけシンプルにした作品」と振り返ります。座面の角度はこれまで4度が基本でしたが、もう少し傾斜させて5.5度に。スツールとしての姿も、座り心地、見える景色も少し違うスツールになりました。

「これまではホゾ組でつくっているが、これは貼り合わせたものに座面をのせた。後ろ側の足の張り出し具合が邪魔になるかなと思ったが、かたちを追求していくと張り出していた方が美しい。座った時の背筋もきれいになる。どう使いたいかをより意識した作品」

《Being Lady Stool 09》は脚を張り出した姿が美しい
《White・Black・Chair》は軽やかさを目指したチェア。脚の形状は菱形のようなかたちとして、美しいたたずまいを追求した。「斜め後ろ45度から見た姿が美しいのがいいイス」と山岡
《Being Lady Stool 03》。「座面と脚をどう組み合わせていくか考えるのが大事」と山岡は語る
キラキラとした木目が特徴のトチを使った《Snow table》。すべて六角形になるようこだわった作品

木の風合いと見立てを楽しむ玩具

制作に3カ月を要したという《とんぼのいる帰り道》は、叩くと音がなる木琴。材料のブナとローズウッドそのものの色や木目を大切にした作品です。その他、《チョウの舞う園》《きせかえフィッシュ》など木の色や木目を生かし、風合いを大切にしながら楽しむ遊びの感覚が生きます。

《とんぼのいる帰り道》
セン、チーク、ブラックウォルナット、ローズウッドなどの色や木目を生かした《きせかえフィッシュ》

木そのものを活かす指物技法

最後に解説したのが、《記憶の小箱》をはじめとした箱について。専門とする指物技法とは、板材を組み合わせてつくる技法。本展で紹介するスツール、チェア、シェルフなどの家具、玩具、箱はすべて指物です。

「ここに並べた作品にはさまざまな木材を使っていて、いろいろな色がありますが、これらは一切着色していない、最初からの木の色。いろいろな表情を見せてくる木を、どう活かすかを私はいつも悩んでしまう。木の性質をいかに大切にできるかをこれからも考えていきたい」

作品の美しさを支えるのは、丁寧で緻密な作業の積み重ねと、木との出会いを大切にする姿勢。生み出された“木のかたち”が、会場で端正なたたずまいを見せてくれます。

Profile

山岡 惇 YAMAOKA Atsushi

秋田県秋田市生まれ。山形大学教育学部卒業。上越教育大学大学院修了。秋田公立美術工芸短期大学工芸美術学科助手、講師、准教授を経て、現在秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻准教授。 これまでの活動:第9回全国ウッドクラフト公募展 ウッドクラフト最優秀賞(1996年)/世界木のクラフト展 大阪府知事賞(1999年)/工芸都市高岡2002クラフトコンペティション奨励賞(2002年)/第3回全国「木のクラフトコンペ」特別賞(2004年)/第1回北の動物大賞展 奨励賞(2009年)/第1回スギ・ヒノキの創作玩具公募展 佳作(2014年)/第8回雪のデザイン賞 奨励賞(2015年)/2017津別ウッドクラフト展 審査員特別賞(2017年)/地域ブランド「新箱館家具」デザインコンペ(2018)佳作(2018年)

Information

山岡惇 木工展「木でつくる そのかたち」

会 期: 2019年10月26日(土)~11月17日(日)
(開館時間 9時~16時、会期中無休)
会 場: 秋田市立赤れんが郷土館 企画展示室
(秋田市大町3丁目3-21)
主 催: 秋田公立美術大学、秋田市赤れんが郷土館
協 力: NPO法人アーツセンターあきた
観覧料: 一般210円(160円)
※高校生以下は無料
※身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料
※民俗芸能伝承館との共通観覧料 一般260円(210円)
※()内は20名以上の団体料金
※赤れんが郷土館年間パスポート520円

チラシダウンロード(PDF)

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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