11月15日に開催した未来の生活を考えるスクールの第2回。山形で在来野菜に関わる人たちを記録したドキュメンタリー映画の傑作『よみがえりのレシピ』を上映し、その後に渡辺智史監督のお話を聴きました。
映画では、現代社会ではほとんど流通することがなくなってしまった在来野菜を個人で育てている人、料理人、漬物にする人、研究者などが登場します。忘れ去られていた種が少しずつ輪を広げてよみがえりつつある様子に、希望がもてる作品でした。
映画だけでも充実した時間でしたが、上映後の渡辺監督のお話により、作品だけではわからない在来野菜を支えている人たちのこと、映画の背景を知ることができました。
2008年ごろは毒入り餃子事件とか、食に関するマイナスなニュースが多かったというのもこの映画のきっかけの一つです。当時の映画も告発的な内容のものが多くて、何を食べたらいいのかわからなくなってしまいました。だから、もっと希望のもてる映画、北風と太陽の例でいえば太陽みたいな映画を作りたいな、と思って。そんなときに、もともと山形県鶴岡市の出身で、当時は東京で働いていましたけど、山形に100種類くらいの在来種があるということを知りました。でも、数年間で40種類くらい失われているというのも知って、まず現場に行ってみようと。そうすると本当に一人だけで栽培している人がたくさんいました。なんとかっていうカブを一人で栽培しているおばあちゃんとか。ただ、そこで話が噛み合わない。「一体、どんな思いで(種を)守ってきたのですか?」と訊いても「うーん、なんでだろうな?」と本人もよくわかってない。山形県出身とはいえ都会で生活していた当時の僕と、地元で同じ野菜を黙々と育ててきたおばあちゃんでは話が噛み合いません。
2011年にはもう鶴岡に戻っていて、映画の撮影もだいたい終わっていたのですが、そこで3月11日に東日本大震災に起こって、スーパーで当たり前に買っていた物が手に入らなくなって。物が手に入らないというのは昔の話だと思っていたけど、そういう体験をして、また編集素材を見ると全然違って見えたんですよね。食べ物が不足してた時代に自分たちのいのちを支えてくれた作物だから、種を守らないといけないという、おばあちゃんの感覚がよくわかったんですよ。だから震災がなかったら全然違う映画になっていたと思います。
― 渡辺智史(映画監督)
その後も、山形大学の江頭先生やアル・ケッチャーノの奥田政行シェフなど個性的な人物たちとの出会いをお話いただきました。在来野菜に関係する人たちの熱意と行動力が渡辺監督を突き動かして作品ができたのかもしれません。
私たちは食べものによって生かされています。自分だけの「いのち」というものはありません。いのちはつながっています。先人たちがどんなものを食べてきたのか。100年後の人たちがどんなものを食べているのか。私たちに何ができるのか。一人の人間には大きなことはできないかもしれませんが、明日食べるものを考えて決めることはできます。ちょっとがんばって在来野菜を育てるのもいいでしょう。
未来の生活を考えるスクールでは、自分たちの生活を創造するきっかけとなるような企画をこれからも行っていきます。
宇野澤昌樹
(NPO法人アーツセンターあきた)
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未来の生活を考えるスクール(第2回)
映画「よみがえりのレシピ」上映+トーク
■日時:2019年11月15日(金)19時~21時
■会場:ルミエール秋田 シアター2
■トーク:渡辺智史(映画監督)
※未来の生活を考えるスクール
既存の分野を超えて活動する人や新しい分野を創っている人たちをお招きし、トークや上映会などを実施。地域の歴史や今日を知り、新しい知識や視点を得ることで、みんなで今よりちょっと先の生活(=未来の生活)について考えてみましょう。