展覧会ワークショップ「Black Box」は初級編とチャレンジ編に分けて2日間開催しました。展示会場のギャラリーから飛び出して、普段私たちが生活しているフィールドで、身の回りにある機械の音や身体の音に耳を澄まし、裸耳または紙コップを使用しながら聞き取ります。感じ取った音のイメージ(内部で何が起こっているのか)を絵や線にして書き起こしていき、最後はイメージ画を見ながら全員で共有するものです。
12月14日 – 初級編
ワークショップ「Black Box」初級編は、BIYONG POINTのエントランスに参加者が集まりスタートしました。お互いに初対面の人もいたため自己紹介を行い、ワークショップに臨みます。初めに、初級編について井上さんが説明。普段は意識して聞いてみないと聞き取れない機械の内側の音を採取するために、どのようなことをするのか、参加者も緊張した面持ちで熱心に話を聞いています。まず、音の聞き取りのための音クイズからスタートしました。「これは何の音だろう?」「コーヒーを出す機械の音かな?」「何か工場のなかの機械の音?」と想像が膨らみます。
参加者は「どんな音を聞くのかな?」とそわそわしています。実際に聞いた音から、機械内部で何が起こっているのかを書き留めて最後に参加者同士で共有するため、訪れる先々でそれぞれが聞き取った音のイメージをすぐに白紙に書きとめられるよう、事前にバインダーを渡されます。また紙コップも手渡されました。これは立体的に音を拾っている私たちの耳に当てるためのもので、音を聞く行為に指向性をもたせ、一つの音に意識を集中させることが狙いです。普段、音を聞くためにここまでの装備を持ち歩くことのない参加者にとっては新鮮な体験です。最初は練習もかねて、ギャラリー内の音を聞いていきます。
井上さんと一緒にギャラリー内に入った参加者は、「どのような音があるのだろうか?」と音を聞き取るコツを掴んでいきます。配管からの音や映像の音だけではない室内で響く音に、まるで丁寧に触れるかのように聞き取っていきます。

音を聞き取ることに慣れたところで、さっそく音探しをする場所であるケーズデンキへ向かいます。井上さんと共に参加者が、1階のエントランスエリアへ到着しました。その付近で音を聞き取りできそうな対象はどれだろうと探索します。
まずはエレベーターに乗り込んだ時の機械の音を聴取。その後は、1階エントランス内で音を探します。エスカレーターの音、トイレのエアータオルの音、自動販売機の音、出入り口の自動ドアの音……。さまざまな音を聞きとり、図形と線画、絵で音をバインダーの紙に描き出していきます。思い思いの音が採取できた後は、BIYONG POINTへ一度戻ります。帰った後は、音を書き込んだ紙をエントランスの壁面に貼っていきます。描かれた音の説明、音を聞いた場所、その音を聞いて感じたこと、気になった点を話しつつ、音の線の特徴について発表しあいます。全員で紙に描かれた音の線や絵をお披露目です。
気にかけてみないと聞き取れない音を、改めて線や絵、図に描いてみることで、それぞれに異なる音の捉え方や、新たに発見した音のイメージを共有しあいました。参加者同士が可視化された音のイメージを説明し終わると、次は県立図書館へ向かいました。
県立図書館へ到着すると、参加者は慣れた様子で館内の気になる音を探しにいきます。
出入り口の駆動音、書籍を扱うエリアの消毒用の機械音、空調機の音など、ケーズデンキと異なる音を発見し、紙へ描きだします。
再度、音のイメージ図を持ち寄って意見交換を行いつつ、図書館にのみ存在する音の世界があることを参加者同士で語ります。
意識しないと聞こえない音がたくさんあるという気づきと、その音へ関心が向けられるきっかけとなる初級編ワークショップとなりました。


12月15日 – チャレンジ編
チャレンジ編は、初級編と同様に音を聞き、書き留めていくワークショップとなりました。初級編と異なり会場がBIYONG POINTギャラリーから離れた秋田駅周辺のエリアで、自由に移動しながら音を探していくというスタイルでした。散策するフィールドは前回よりも広がり、さまざまな音の発見に期待ができそうです。
当日の秋田は生憎の雪模様。足元が悪い中、秋田駅の待合所に続々と参加者が集まり、ワークショップがスタートしました。
まずは自己紹介して、「好きな音はなにか?」をお互いに言い合います。鍋で煮込む音、冬の雪の降る音、野菜を切る音などで盛り上がりました。和やかな雰囲気になったところで、音を聞くための紙コップと書き取るための用紙が配られました。参加者は「どのように使うのかな?」と興味津々な様子です。これから秋田駅の周辺でさまざまな機械音を収集していくこととなります。まずは、たくさんの生活音がある中で、「この音!」と探し出すコツを身につけていきます。

音を見つけるコツを習得するための第1ステップで、井上さんから音のクイズを出題されました。聞き慣れない機械の駆動音に、「さぁ何の音なのだろうか?」と参加者が一様に考え込みます。全員でこんな音と言い合いますが、なかなか正解できません。参加者それぞれから聞き取る音の感じ方の違い、機械から聞こえる音のイメージがそれぞれ違うことが分かり、音を書き出した時にどのような形になるのだろうかと、楽しみながらのイメージトレーニングになったようです。
さあ、バインダーと耳に当てる紙コップを持ち、いざ秋田駅構内を探索です。広いフィールドになるため、第2ステップでは、改札口前にある巨大秋田犬バルーンの送風機の音の聞き取りからはじめます。参加者が思い思いに、色ペンで線や図を描いていきます。音の収集方法のコツを掴んだところで、秋田犬のバルーンから離れ、一行は秋田駅の西口側にあるエスカレーターへ向かいます。降りるときの音を注意深く聞きとり、降りた先ではエスカレーターの側面に耳を当てて駆動音を聞き取りました。
音を聞き取り、それを描き起こしていくにつれ、だんだんと白紙が埋まっていきます。



最後は、秋田駅周辺エリアを自由に探索することにしました。送風機とエスカレーターの音を聞いて、書きとる練習をしたおかげか、参加者はそれぞれ商業施設や秋田駅の改札口付近、コンビニ、エレベーター付近やさまざまなエリアに散らばって音を探していきました。
やがて集合時間になり、再びみんなが集まりました。書いた音を発表することになり、「長いエスカレーターの音」「ここは中央改札口の音で、音が組み合わさっており、描くことができた」「トイレの音もあまり聞くことがなくて…」「コンビニの中の冷蔵庫の低音」「開閉する自動ドアの音」など普段は聞かない音が次々に出てきました。それぞれの場所で聞き取った音を共有し、書かれた軌跡の面白さや新たな発見を語り合いました。
初回編とチャレンジ編の2回に分けて行われたワークショップは、最後に参加者同士でそれぞれが書き出した線やイメージ図を見せあい、語り合うことでお互いに見つけられなかった音の気づきに触れ合いました。
また、発見した音の線を辿るようにして丁寧に説明し、音の様子や採取した場所を伝え合うことで、書かれた線や絵が音と結びつき、知覚的なコミュニケーションツールとなり得る印象的なワークショップとなり、参加者も音に対して新たな視点を発見できたようです。
1つの音を通して誰しもが自由に音のイメージを膨らませながら捉え、楽しみ、伝え合えるワークショップ「BlackBox」。音は私たちの身近に存在していますが、その音を私たちが意識し認識すれば、近くに存在していると捉えることができます。気になる音があなたの周りにも存在しているかもしれません。
一緒に、「これはどんな音?」「どこから聞こえてくる音だろうか?」と音を探して聞き入ってみませんか?
そして、その音を誰かと共有してみませんか?
私たちのすぐ傍には、見えてはいないけれど確かに音が存在しています。



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Information
井上愛萌個展「インサイド -地図帳より-」

【展覧会は終了しました】
■会期:2024年12月14日(土)〜2025年1月13日(月・祝)
※年末年始休業期間(2024年12月28日〜2025年1月3日)
■入場無料
■会場:秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT
(秋田市八橋南1-1-3 CNA秋田ケーブルテレビ社屋内)
■時間:9:00〜17:30
■主催:秋田公立美術大学
■協力:CNA秋田ケーブルテレビ
■企画・制作:NPO法人アーツセンターあきた
■お問い合わせ:NPO法人アーツセンターあきた
TEL.018-888-8137 E-mail bp@artscenter-akita.jp
※2024年度秋田公立美術大学「ビヨンセレクション」採択企画