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そこに庭を見出す 曽田萌個展「深山僻地美術館通信『みどりの手』」開催

秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINTで10月4日(金)から、秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科修士課程2年の曽田萌による個展「深山僻地美術館通信『みどりの手』」を開催します。山形県の白鷹町、深山(みやま)地区に滞在して制作した、人と植物の関係性を問う作品を展示します。

人と植物の間にある非対称で相互的な関係性についての考察から絵画作品を制作する曽田萌による個展「深山僻地美術館通信『みどりの手』」が10月4日(金)から、秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINTで始まります。

この記事では曽田がこれまでに発表した作品を記録写真で振り返りながら、今回出展される山形県白鷹町深山(みやま)地区での滞在制作までの流れを紹介します。

人と植物 – 非対称で相互的な関係性

曽田は大学院複合芸術研究科修士課程に在籍。学部卒業後に東京の花屋で仕事をしたことをきっかけに植物と人の関係性に興味を抱いたといいます。彼女は両者の関係性に「庭」という仮想的な空間を見出し、現在まで制作を続けてきました。

《浮遊する庭》:キャンバスにオイル、土、植物、蜜蝋、顔料(撮影:黄敏 Huang Ming)
《腹のまなこ》:ミクストメディア (撮影:津島岳央 Tsushima Takahiro)

《腹のまなこ》はヒヤシンスの球根の観察と、名前の由来とされるヒュアキントスの神話をもとに「隠れた母親像」を描いた作品。植物の球根に見出される命の連鎖と、神話の青年にも存在するであろう母の存在を重ねあわせて制作しました。

曽田は、観用植物の葉や花が重力や光といった外的環境に反応して動くことがあるように、人間もまた植物という環境によって動かされていると考え、「切り花が動くように、人も草木によって動かされている」と語ります。植物は感情や言葉を持ちませんが、人が何かを始めたり、考えたりする小さなきっかけを生むことがあるからです。

草木塔を起点とした調査の中で

2023年、曽田は山形県米沢市で草木塔についての調査を行いました。
草木塔とは山形県置賜地域に多く見られる石造物で、その建立理由ははっきりとは分かっていないと言います。

草木塔類似塔とされる材木供養塔(左)と財木供養塔

当時の人にとって、この石造物がどんな意味を持っていたのか、正確なところは明らかではありませんが、近年では「草木に感謝を捧げ供養するためのもの」としてエコロジー的な観点から注目を集めており、特に昭和から平成にかけてはそうした文脈で建立された「草木塔」が多くあります。草木塔に関する視点は様々で、より学術的な視点で草木塔を見ようと試みる人もいれば、観光資源として活用しようとする人々もいるのでした。曽田は草木塔について調査する中で多くの人に出会い、時に相反する多様な議論を見聞したといいます。

《とととアレンジメント》
《とととアレンジメント》

子供たちが深山和紙に描いた自由な絵

曽田はリサーチの過程で出会った複数の人々を架空の植物に見立てて描いた絵画作品、《とととアレンジメント》を制作。実在する人々が存在しない植物の姿で描かれた小作品が壁面に並び、その背面には子供たちが描いた自由な絵が貼られています。その制作の背景には、草木塔を巡る人々の異なった見解に触れ続けているうちに生じた、人疲れのような感覚があると言います。

草木塔の調査の過程で生じたモヤモヤとした感情も、植物にみたてて人物を描くことで、少し距離を置いて向き合うことができるようになったと曽田は語ります。

深山より

やがて、曽田は草木塔を調査する中で出会った人物の導きをうけ、山形県西置賜郡白鷹町の深山(みやま)地区に草木塔の調査へ赴きます。

10/4(金)から始まる秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINTで始まる本展、深山僻地美術館通信「みどりの手」では、この深山地区での滞在を通じて制作された作品を発表します。深山和紙という伝統的な手漉き和紙で知られるこの地で、曽田は集落の空き家に滞在しながらリサーチと制作を行いました。

植物の楮(こうぞ)を原料に漉く深山和紙は、一人の職人の手によって受け継がれている
深山地区で育てられる天蚕(てんさん)は、養蚕と異なり緑の繭を作る

曽田は滞在を通じて、これまでのリサーチとはまた異なった人と人との関係の中に身を置き、人と植物の関係についてを住人の姿から受け取り、作品を制作していきました。そこで得られた答えとはなんだったのでしょうか。

人と植物の間に生じる、目には見えない関係の気配を絵巻物や絵画を通じて表現します。

深山和紙を用いた絵巻の制作に取り組む曽田

2025年度ビヨンセレクション採択企画

本展は2025年度ビヨンセレクション採択企画です。
ビヨンセレクションとは、2021年よりスタートした秋田公立美術大学の学内公募事業です。個展・グループ展などのBIYONG POINTでの展覧会を通じて、意欲的な学生による日頃の研究・創作の成果を発表します。展示期間中にレビューを受ける機会を設け、作品の撮影記録とともに評論を公開し、学生らの将来の作家活動を視野に入れた支援を行っています。

Profile 作家プロフィール

秋田公立美術大学大学院 複合芸術研究科 2年

曽田萌 Akari Soda

広島生まれ。秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科在籍。2021年多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業後、美学校「現代アートの勝手口」を受講。秋田公立美術大学大学院 複合芸術研究科 修士課程 在籍。学部卒業後、都内の花屋で働いたことをきっかけに植物と人の関係性を「庭」として捉えて、制作を続けている。

Information

曽田萌 個展 深山僻地美術館通信「みどりの手」

青山 由佳個展「秋田と眠る。」DM(PDF)
深山僻地美術館通信「みどりの手」
■会期:2025年10月4日(金)~11月3日(月・祝)
    入場無料、会期中無休
■在廊日:
■会場:秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT
   (秋田市八橋南1-1-3 CNA秋田ケーブルテレビ社屋内)
■時間:9:00〜17:30
■主催:秋田公立美術大学
■協力:CNA秋田ケーブルテレビ
■企画・制作:NPO法人アーツセンターあきた
■お問い合わせ:NPO法人アーツセンターあきた
TEL.018-888-8137  E-mail bp@artscenter-akita.jp

※2025年度秋田公立美術大学「ビヨンセレクション」採択企画

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