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不確かな現代を描くメディアアート 井上菜々実個展「シミュレリジョン/simulation×religion」開催

秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINTで7月10日(金)から、秋田公立美術大学ビジュアルアーツ専攻4年の井上菜々実による個展「シミュレリジョン/simulation×religion」を開催します。メディアアートの技術領域の拡張に取り組む井上が、「シミュレーション」をキーワードに作品を発表します。

3DCGおよびゲームエンジンを用いた映像・インタラクティブアート制作や実験を通じて技術領域を拡張してきた井上菜々実による個展「シミュレリジョン/simulation×religion」が7月10日(金)から、秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINTで始まります。

3DCGとの出会い

現在は主に映像作品を制作する井上ですが、大学に入学した当時には情報を伝えるための視覚表現に関心を持ち、グラフィックデザインの制作を行っていたといいます。ですが、デザイン表現の延長で3DCGに触れたことがきっかけで、3DCGを用いた映像表現を中心とした制作スタイルへ移行していきます。2025年度からビジュアルアーツ専攻に所属した井上は、3DCGによるアニメーションやインタラクティブアートに取り組み、自身にとって新たな分野であるメディアアートの技術を吸収していきます。

《Breath》は私たちが自然の中で生得的に体感する美しさや恐怖を表現したインタラクティブな映像作品です。一人称視点で自然の景色の中を進み、ボタン操作によって景色に変化が生じます。

《Breath》2025

3年次に作成した映像作品《Crop》は、状態を保つために行われる「管理」をテーマとしています。モニターに規則正しく並んだ花や家畜を監視する人物が、集合の中に紛れ込んだ異物をマウスカーソルによって淡々と削除する様子が映ります。一連の作業を終えた人物が顔をあげると、眼の前の空間に熊が出現。その直後、熊と対峙した人物にカーソルがあわさり、人物は削除されます。

間接的かつ容易に実行され、すぐに立場が入れ替わる可能性を孕んでいる「管理」。熊をメタファーとして用い、その構造を表現することを試みました。

《Crop》2025

多様なメディアの展開

「3年生はできることを増やそうとしていた時期。4年生になって、自分の表現したい世界を作る技術が身についてきた」と話す井上。3Dモデリングソフトで現実のオブジェクトを再現したり、物理演算を行って歯車機構を再現するなど、仮想空間で現実をシミュレーションすることに没頭していったといいます。

それまで作品を映像という形式で発表することが多かった井上ですが、今回の展覧会では歯車で構成したインスタレーション作品を展示します。実験が多くの素材を生み出し、それらが作品の技術的な土台となり、立体作品として井上の表現に新しい展開をもたらします。

物理演算を用いたソフトウェア上での歯車のシミュレーション

シミュレーションと現実の交差点で

シミュレーションというキーワードを掘り下げていく中で、ジャン・ボードリヤールの『シミュラークルとシミュレーション』(訳 竹原あき子 2008年 法政大学出版会 / 原著 1981年)に触れます。ボードリヤールは同書の中で、メディアや広告、情報があふれる現代社会は、もはや「オリジナルが最初から存在しないコピー(シミュラークル)」で埋め尽くされていると鋭く分析し、イメージが現実を侵食していった過程を4つの段階に分けて説明しました。

  1. 画像は奥深い現実の反映である。画像は良い外観で、表象は秘跡に属する。
  2. 画像は奥深い現実を隠し変質させる。画像は悪い外観で、表象は呪いに属する。
  3. 画像は奥深い現実の不在を隠す。画像は外観になろうとし、妖術に属する。
  4. 画像は断じて、いかなる現実とも無関係。画像は外観に属しはせず、シミュレーションに属する。

ボードリヤールが喝破した現代の価値に対するシミュラークルの氾濫のプロセスは、映画『マトリックス』が描くような「全てがシミュレーションされた仮想現実」ではなく、現実の私たちの行動や価値判断に影響を及ぼすシミュレーションのかたちを想起させたといいます。

本展展覧会「シミュレリジョン/simulation×religion」はシミュレーションと現実が交差する現代社会で、データとして変換された実体のないものに惑わされる人々の姿を問い直す試みです。

2026年度ビヨンセレクション採択企画

本展は2026年度ビヨンセレクション採択企画です。
ビヨンセレクションとは、2021年よりスタートした秋田公立美術大学の学内公募事業です。個展・グループ展などのBIYONG POINTでの展覧会を通じて、意欲的な学生による日頃の研究・創作の成果を発表します。展示期間中にレビューを受ける機会を設け、作品の撮影記録とともに評論を公開し、学生らの将来の作家活動を視野に入れた支援を行っています。

Profile 作家プロフィール

秋田公立美術大学ビジュアルアーツ専攻4年

井上菜々実 Nanami Inoue

2004年生まれ。秋田公立美術大学ビジュアルアーツ専攻に在籍。グラフィックデザインを中心に視覚表現の基礎を広く学ぶ。デザイン表現の延長として3DCGに触れたことがきっかけで、3DCGおよびゲームエンジンを用いた映像・インタラクティブアート制作へ移行し、技術領域を拡張。4年次からはこれまでの制作を通じて自身の思想・世界観を形にする作品の制作に取り組んでいる。

Information

井上菜々実 個展「シミュレリジョン/simulation×religion」

シミュレリジョン/simulation×religion
■会期:2026年7月10日(金)~8月6日(木)
    入場無料、会期中無休
■会場:秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT
   (秋田市八橋南1-1-3 CNA秋田ケーブルテレビ社屋内)
■時間:9:00〜17:30
■主催:秋田公立美術大学
■協力:CNA秋田ケーブルテレビ
■企画・制作:NPO法人アーツセンターあきた
■お問い合わせ:NPO法人アーツセンターあきた
TEL.018-888-8137 E-mail bp@artscenter-akita.jp

※2026年度秋田公立美術大学「ビヨンセレクション」採択企画

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