arts center akita

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デザイナーの協働で見えてきた道すじ

「デザイナーが同じ空間でPCを並べ、担当割りをしてデザインすることはできますがそれでは組織的なデザイン事務所の真似事で、それに慣れていない僕らは付け焼き刃にしかなりません。ワークショップ形式にしたことで、別々の画面でそれぞれが制作するのではなく、ひとつの画面を共同でつくることになりました。普段ひとりでものをつくっている傍に誰かがいること自体が面白かったですね。『これでいいのかな』と迷っていても『それ、いいじゃん』と言ってくれるだけでだいぶ救われました。観察者の存在は大事だなと思ったのと同時に、誰かと協働することの面白さがありました。それに、全員が同じ場所にいると話が早い。手を動かしながら話せるのも良かったです。制作手法や論理が異なるので、間近でそれぞれのつくり方を見ることができたのは良い経験でした。自分だけではつくれないものが、目の前ででき上がっていきました」

それぞれ個人で活動しているデザイナーがチームを組むことで、その取り組みもまた展覧会におけるひとつのプロジェクトの様相を呈していきました。チームを組んだ発端は、吉田自身が地方におけるデザインのあり方を考えていたこと、ひとりでは背負えない案件にも不安を抱えずに仕事を受ける方法を模索していたことにありました。実際にチームを組んで制作したことで、「自分自身が気づかなかったことも見えてきました」と話します。

JOURNAL 3号は、中空構造の紙面に

「グラフィックデザインは視覚言語を扱います。文字の組み方や写真への配慮など紙面に見えているものの内容とは別に、その扱い方にデザイナーの意思が介在し、表現として立ち現れます。ひとりでレイアウトする場合は、自分の意志や癖で組み上げられますが、複数人でひとつの画面をつくる際は誰かがつくったものをひとつひとつ読みながらリアクションとして続きをつくります。ここの部分が面白かったので、梅木さんが文字組みして実寸大の紙で出力したものを、僕が切り貼りしていきました。コラージュしたものをベースとして、同じ空間にいる梅木さんがさらに画面上で編集作業をしていくんです。協働することによって、デザインにコントラストが生まれていきました。ただきれいに文字を読ませるのではない、彷徨うような感覚を読み手に与えることができたのではないかと思います」

吉田は「たどっていくこと自体をビジュアル化したのがJOURNAL。複雑なものを複雑なまま表に出したのが特徴」と語ります。デザイナーの協働によって、躍動感とライブ感のある紙面デザインとなりました。

JOURNAL 1〜3号。それぞれに趣も素材感も異なる

物事の土台が崩れ、大きく揺らいだ状況を
ビジュアルにどう落とし込むのか

予期せぬことが起こったのはこの頃です。秋田県議会への補正予算要求から本展の企画が見送られたことを受けて、展覧会は一旦、白紙の状態に。その後、時期を変えての開催が決定したもののグラフィックデザインにこの状況をどう落とし込んでいくのか、「JOURNALをつくる際の要件がひとつ増えて、複雑になった」と吉田は振り返ります。

「物事の土台が崩れ、展覧会のこと(内側のプロセス)だけを伝えればよい状態ではなくなった時、真澄が記録した男鹿のなまはげという来訪神の存在を思い出しました。子どもの頃はコミュニティの外側から来る恐ろしい存在ですが、ある年齢になり、なまはげを自ら演ずるようになります。それまで訳が分からず恐ろしかったものが実は身近な人が演じ、自分の世界の一部であったことを知ります。世界を見ている価値観が転倒するわけですが、そのようなイニシエーションとして、この時、展覧会に起こったものと同じような構造だと思いました。そこでJOURNAL 2号は、なまはげの仮面をモチーフにメインビジュアルをつくろうと決めました。ちょうどその頃、京都から卒業制作を終えたばかりの川邊さんがインターンに来ていました。先の分からない展覧会の状況と同じように、彼女自身も卒制を終えた後のインターンという状況で先が分からない時期でした。良いタイミングだと思ったので、彼女にJOURNAL 2号のロゴタイプの部分をお願いしたんです」

霊(タマ)の依代となる松などをフロッタージュして仮面の素材に

JOURNAL 2号(2020年2月発行)

中空構造の中央から、
全方位的に動いていく

JOURNAL 3号は、新型コロナウイルス感染症が各地で広がり始めていた時期の制作となりました。スケジュールがタイトな年度末、さらに「家にいること」が求められる状況下でメインビジュアルとして展開したのが鹿島流しでした。

「社会情勢が変化したことで、表現することについてしっかり正面から向き合ったほうがいいと思った時期でもありました。川に流すことによって邪を祓う鹿島流しは、疫病を祓うと同時にひとつの区切りでもあります。『(これまでのビジュアルや方法論も)一度、流しとくか』みたいにも思って。一方、JOURNALは中空の構造としました。これまでは中心に最も重要な情報を入れてレイアウトをしていましたが、3号ではそれも止めて、中を空洞にして外側を埋めていきました。展覧会のこれまでの動きを見ていると、キュレーターや運営事務局が権限を持っているわけでなく、ビジュアルに関してはデザイナーに権限があり、アーティストは作品に権限があって、組織的な運営ではない。ひとつの方向へバラバラに走っていくような運営の仕方だなと思って見ていました。それが実際のコンテンツにも反映されているのではないか、と。そこで中央は空洞だけれど全方位的にバラバラに動いていくレイアウトにしました」

JOURNAL 3号(2020年4月発行)

「北村洸さんとのウェブの作業も刺激的でした。段階を踏んでつくっていく途中で、ウェブにどう落とし込むか悩み続けていました。つくったけれど1、2号では使わなかったビジュアルもウェブでは使うことにして、ブラウザが窓となり、JOURNALを見られるし読むこともできるものとなりました。プロジェクトの進度というか進行中に問題が起きて揺さぶられるたびに『タイムラインがあった方がいい』『欲しい人へJOURNALを届けられるようにしたい』などの要望があって、回答を重ねたようなウェブサイトです。最初の仕様にはなかったものがほとんど。おそらく展覧会までつくり続けることになるでしょう」

時間、空間、出来事が複雑に絡み合う構造を空間に

複数のプロジェクトと、複数の旅。時間と空間、出来事が複雑に絡み合い、入れ子細工のような構造となった本展の状況を吉田は「そのありさまが面白い」と語ります。

「僕はこの展覧会(プロジェクト)の運営方法はもちろん、時間の経過とともに社会情勢など他の要素によって変化してきたプロジェクトの姿やその存在自体が面白いと感じています。今、平面だけでなく展示空間を考え始めました。展示物が主役でグラフィックが引き立て役のような構造ではなく、等価な状態で空間的なアプローチをしたらどうなるだろうと考えています。複雑なものを複雑なままに伝えてしまうと背景が分からない人にはスッと読み取れず、暴力的なものになりかねません。一方、複雑なものを多くの人が読み取れるように文節を多くして伝えると情報量が多く、読み取るのに苦労するでしょう。平面には文字だけでなく写真や図形や雰囲気といった視覚言語のボキャブラリーがあるので、それをうまい言い換えで伝え、立体的に考えられたらと思います」

江戸時代後期の紀行家・菅江真澄が歩き、記録した身体的な行為をトレースする手法によって制作されてきた本展のグラフィック。空間への展開は、これから始まります。

「この展覧会が持っている性質を捉え、それを疑い、また設計し直しながらビジュアルから空間へとリンクさせていきたいですね。真澄が見つめ、見つけたものをたどる展覧会となるように」

 

(撮影:吉田勝信)

Profile

吉田勝信(グラフィックデザイナー)
1987年東京都生まれ。幼少期は奄美大島で育つ。2006年東北芸術工科大学美術史・文化財保存修復学科に入学、在学中より市場ではじかれる野菜を流通させる八百屋を企画運営。その延長で飲食店を開店し、中退。現在は山形県を拠点にグラフィックデザイナーとして活動しながら、家業である染織工房をはじめ、様々な領域でコンセプトメイキングとそのビジュアライズを行う。装飾品の制作販売、日用品やテキスタイルの制作、シェアオフィスの運営も行う。

Information

展覧会「ARTS & ROUTES -あわいをたどる旅-」

■プロジェクト:2019年5月始動(現在進行中)
■展覧会:2020年11月28日(土)~2021年3月7日(日)
■展覧会会場:秋田県立近代美術館(秋田県横手市赤坂富ケ沢62-46)
■ウェブサイトwww.artscenter-akita.jp/artsroutes
■JOURNAL郵送受付フォーム:https://forms.gle/eGfMMRvuuFrpheWR9
※JOURNAL郵送をご希望の方は上記よりお申し込みください

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