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菅江真澄をたどるプロジェクト
真澄が秋田で愛される所以

2020.08.06

「旅」「移動」「記録」「表現」などをテーマとする展覧会「ARTS & ROUTES -あわいをたどる旅-」に向けた公開プロジェクトとして始まった「菅江真澄をたどる勉強会」。真澄は、秋田の人の目にどのように映っているのでしょうか。郷土史家 小松和彦氏にご寄稿いただきました。

「旅」「移動」「記録」「表現」などをテーマとする展覧会「ARTS & ROUTES -あわいをたどる旅-」(11月28日開幕)に向けた公開プロジェクトとして始まった「菅江真澄をたどる勉強会」。第3回目は郷土史家 小松和彦氏に「菅江真澄と秋田」と題して、本展の軌跡をたどる媒体「JOURNAL」紙面に寄稿していただきました。秋田の人の目に真澄は、どのように映っているのでしょうか。
▼「ARTS & ROUTES -あわいをたどる旅-」ウェブサイトはこちら(https://www.artscenter-akita.jp/artsroutes/
▼「JOURNAL」郵送受付フォームはこちら
https://forms.gle/eGfMMRvuuFrpheWR9

秋田を愛し、愛された「よそ者」

30歳で故郷の三河国(愛知県)を出て、76歳で角館(秋田県仙北市)にて病没した菅江真澄(1754~1829)。彼の47年間の旅の中で現在の秋田県に滞在した期間は約29年におよぶ。

真澄は「遊覧記」と総称される日記、随筆、地誌の中で、さまざまな名所、自然、風習などを絵と文に記録した。最も早い時期になまはげや鹿島様といった秋田の民間行事を記録したのも真澄である。

現在、菅江真澄の名前は秋田県に縁のある方であれば大抵ご存知であろう。それは彼が書き残した文献によってではなく、全県各地に立てられた「菅江真澄の道」という標柱によるところが大きい。

この標柱は真澄が訪れた地に地域の研究会などによって立てられたもので、県内400カ所以上におよぶ。海辺から人里離れた山奥まであらゆる場所に分布し、車や鉄道が無かった時代、どうやってこんなところにまで来たのかと首を傾げた人も少なくないはずだ。

秋田をくまなく歩いた真澄は藩主から武士、宗教者、学者、農民、商人など身分、職業を超えてたくさんの人々と交流した。上級武士の屋敷に滞留することもあれば、貧しい農家に宿を借りることもあった。知的好奇心の赴くままに取材を重ねた真澄は「すべてに批判らしいことばをまったく避けて、あるがままの対象描写に終始した執筆態度」(内田武志『菅江真澄という人』、1965年)で「遊覧記」を書いた。こうした真澄の謙虚な姿勢は「よそ者」として他国に寄宿する身であるがゆえの心遣いだったのかもしれないが、200年経った今でも秋田で愛されている要因でもある。

真澄と同時代に秋田を旅した学者、芸人、商人による日記や随筆も存在する。中でも有名なのが、幕府の巡見使に随行して1788年に秋田に入った備中国(岡山県)の学者・古川古松軒(1726~1807)の『東遊雑記』だ。古松軒は真澄とは対照的に上方文化人の視点から秋田の風俗を鋭く批評した。「言語解し難し、人物賤し」「街道筋の家いえ、甚だ賤しく哀れなる体なり」「古も今もかわりしことはあるまじと思う夷人なり」といった記述からは、真澄があまり描かなかった秋田の農村の惨状を誰憚らず記録したとも評価できるが、文化的優位に立った「よそ者」の傲慢ともとれる表現が随所に見られる。

『東遊雑記』を読んだ真澄は、古松軒が秋田を悪く書いていることについて「何か心にかなはぬ事ありしにや。さりけど、ふみは千歳に残るもの也。心にかなはぬとて、いかりのまにまに筆にしたがふものかは。(何か納得のいかないことでもあったのだろうか。しかし書物は未来に残るものだから感情的に書いてよいのだろうか)」(『久保田の落穂』、1822年)と珍しく批判的な筆致でこれを評している。当時、秋田藩の地誌編纂の事業に携わっていた真澄にとって、古松軒の記述の中に「御領主の政事正しからず」といった藩政に対する批判があることが看過できなかったとも思われるが、何よりも自らが旅の先々で心を通わせてきた秋田の人々が「生まれながらにして鈍才愚物の百姓」というように蔑まれて書かれたのが我慢ならなかったのではないか。

真澄は自分と同じ「よそ者」である古松軒が秋田のことを悪く書いたことを嫌った。それは真澄にとって秋田は故郷といってもよいほど、大切な土地であったからに他ならない。

真澄は三河人として生まれ、秋田人として世を去った。

真澄ゆかりの地に建てられた標柱「菅江真澄の道」(横手市大森)

Profile

小松 和彦
1976年、秋田市生まれ。青山学院大学史学科卒業(考古学)。秋田市で工芸ギャラリー・小松クラフトスペースを運営するかたわら、秋田県内の郷土史研究を行う。著書に『秋田県の遊郭跡を歩く』(カストリ出版)、『村を守る不思議な神様』(宮原葉月との共著)など。

Information

展覧会「ARTS & ROUTES -あわいをたどる旅- 」

■プロジェクト:2019年5月始動(現在進行中)
■展覧会:2020年11月28日(土)~2021年3月7日(日)
(※休館日:12月29〜31日、1月13〜22日)
■展覧会会場:秋田県立近代美術館(秋田県横手市赤坂富ケ沢62-46)
http://www.pref.akita.jp/gakusyu/public_html/
■ウェブサイトwww.artscenter-akita.jp/artsroutes
■JOURNAL郵送受付フォーム:https://forms.gle/eGfMMRvuuFrpheWR9
※プロジェクトの経過をたどる「JOURNAL」を定期的に発行しています。郵送をご希望の方は上記よりお申し込みください。

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