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身体感覚に意識を傾け、描き出した音風景 宮本一行+船山哲郎「Outer Edge / 知覚の外縁」

視覚・聴覚・触覚からなる3つの感覚によって知覚の外縁に触れる展覧会、宮本一行+船山哲郎「Outer Edge / 知覚の外縁」が2021年2月〜5月、秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINTで開かれました。この度、展覧会をアーカイブする冊子が完成。ふたりの言葉と写真で展覧会を振り返る内容となっています。

自然環境にある音風景を再構築した
宮本一行+船山哲郎「Outer Edge / 知覚の外縁」

音響表現を専門とする現代音楽家・宮本一行と建築設計を主軸とする美術家・船山哲郎による展覧会「Outer Edge / 知覚の外縁」が2021年2月〜5月、秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT(CNA秋田ケーブルテレビ内)で開かれました。この度、展覧会をアーカイブする冊子が完成。視覚・聴覚・触覚からなる3つの感覚によって「知覚の外縁」に触れる展覧会を、ふたりの言葉と写真で振り返る内容となっています。

展覧会をアーカイブする冊子「Outer Edge / 知覚の外縁」を、ご希望のかたに郵送中です。詳しくはInformationをご覧ください

本展は2019年度「BIYONG POINT企画公募」採択企画。サウンドスケープの思想を軸とした表現活動を行っている宮本一行と、周辺環境に対して新たな体験を創出する屋外インスタレーション作品を制作する船山哲郎によるコラボレーション企画です。ふたりはこれまで、周辺環境に内包される音風景を顕在化するための実践《Performance on Installation》を共同で取り組んできました。

タイトルでもある「Outer Edge」とは、ある範囲の外側に沿う部分、外縁のこと。視覚・聴覚・触覚の3つの感覚を組み合わせることによって「知覚の外縁」に触れることを試みた展覧会は、ホワイトキューブの無機質な空間に、ある特定の場所の音の風景を繊細に描き出しました。鑑賞者はそこに身を置き、空間を行き来しながら、自身の身体感覚に意識を傾けます。宮本と船山による音環境のインストールによって呼び起こされ、意識することになった「知覚の外縁」とは何だったのでしょうか。

奇岩「ネコバリ岩」とその周辺の
音環境を読み解く

基点となったのは、秋田県五城目町の馬場目川上流にあるデロ杉流域にたたずむ巨大な奇岩「ネコバリ(根古波離)岩」でした。森の奥、川の流れのあいだに存在する高さ6mを超える巨岩には何本もの樹木が根を張り、岩面を伝って大地とつながり、威容な空気感を漂わせています。

特定の自然環境を再構築することでさまざまな感覚の関係性を読み解こうとするふたりは、デロ杉流域の森の中にある、明らかに異なるひとつの生体=環境に着目。ネコバリ岩の周辺環境をフィールドワークの対象とし、自然環境における自身の身体感覚を確かめながらそれぞれの視点で読み解いていきました。

五城目町の奥深く、馬場目川上流のデロ杉流域と呼ばれる渓流の縁にたたずむネコバリ岩と、フィールドワークして描いた船山によるドローイング

圧倒的な体積と質量を感じさせる巨岩を境界とした上流と下流、川面の輝き、流れの変化。岩を迂回するように折れ曲がった地形。その中で、想像もつかない質量の巨岩が浮いているかのような錯覚を起こさせ、「まるでネコバリ岩と対峙するために設えられたような、独特の空間がそこにあると感じた」と船山。

観察を続けるうちに気づいたのが、川縁にこの巨岩があることで水の流れや音の流れといった周辺環境に大きな変化が現れていること。そして、視覚では捉えることのできない空間の境界線があることでした。自身の身体感覚を用いたフィールドワークでは裸足になり、足元の音に意識を集中させることで不確かな音の領域の境界線を確認。

宮本「空間を変容させる音の境界線は、ネコバリ岩の正面にそり上がるように立ち上がっていた。ネコバリ岩の丸い形状が、本来であれば上空へと抜ける高音をその場にとどめ、足元から聞こえてくる低音を誇張するかのように水の音を反響させていた」

展示空間に高低、境界、動き、振動などをもたらした船山の手による桟橋。空調機の音や振動に意識を向ける道すじともなった
中央奥にそり立つ抽象的な白い立体。宮本がネコバリ岩周辺の音の曲率を抽出したものをもとに、音が下から上に向かって立ち上がり、抜けていくイメージを船山が造形した
Spectrogram,October15 2020 in Nekobari

「水の流れと川底の感触に意識を集中させる一方で、自分の発する音と周囲が発する音との違いを聴き分けることができなくなった。こうして聴覚と触覚の関係が崩れた時に、音と音との距離が測れなくなり、ひとつの大きな音の集合体の内部にいるような体験を得ることができた」

宮本がそう語るように、ネコバリ岩をめぐる環境を体験し、身体感覚から得た「知覚の外縁」ともいえる感覚をインスタレーション作品として表現したのが「Outer Edge / 知覚の外縁」でした。

馬場目川の水環境を模した映像を投影。ネコバリ岩の周囲で録音した環境音の情報から抽出した律動や揺らぎは見る角度によって変化をもたらす
船山が「僕のマインドマップに近いもの」という最奥に造作した崖・階段。ネコバリ岩を登り切って得た感覚を再現

「鑑賞者が身体感覚を敏感にさせるにはどうすれば良いか」を軸に考えていったという船山は、見えない音の境界線を桟橋で表現。無機質で平面的なホワイトキューブが高低差のある空間となったことで音響のアイデアを広げた宮本は、鑑賞者が桟橋の上をどう動くかを想定しながら、音と映像によって風景を構築していきました。

この空間に身を置き、桟橋をめぐり、軋む音を耳にしながら、「知覚の外縁」に立ち現れるものとはーー。ふたりがインストールした音風景は、鑑賞者が視覚・聴覚・触覚を繊細に働かせることによって成り立つ空間となりました。

Profile

アーティスト

宮本一行 Kazuyuki Miyamoto

1987年千葉県生まれ。2012年武蔵野美術大学大学院造形研究科デザイン専攻(修士)修了。
身の回りに潜む音や光などの根源的な現象に着目したインスタレーション・アートやサウンドパフォーマンスを発表。また、身体的な行為を用いて周辺環境との対話を試みる独自の作曲技法を実践している。そのほか、建築家・美術家・音楽家との共同プロジェクトに多数取り組んでいる。

https://www.kazuyuki-miyamoto.com/

Profile

八戸学院大学短期大学部 専任講師

船山哲郎 Tetsuro Funayama

1992年秋田県生まれ。札幌市立大学デザイン研究科博士後期課程空間デザイン分野修了。建築の分野に軸足を置きながら、インスタレーションやパフォーマンス、写真、映像など、広く「空間」に関わる制作・研究活動を行う。また、地域の景観や、それに関わる文化のリサーチを常に行いながら、人間の知覚と環境の関係性に着目した実験的な空間表現の試行を続けている。

https://www.tets-funayama.com/

Information

宮本一行+船山哲郎「Outer Edge / 知覚の外縁」

展覧会は閉幕いたしました。

【展覧会記録冊子を希望者に郵送します】
宮本一行+船山哲郎「Outer Edge / 知覚の外縁」記録冊子を、ご希望のかたに郵送します。
※ご記入いただいた情報は、本事業の目的にのみ利用させていただきます。
▼BIYONG POINT展覧会記録冊子郵送フォーム[〆切:6月30日(水)24:00]
https://forms.gle/GZVwUaTVfFTGAYSG9

【展覧会記念冊子「Outer Edge / 知覚の外縁」】
2021年4月14日発行
発行:宮本一行・船山哲郎
制作:“Outer Edge” Book Design Team
編集:宇治田エリ
写真:宮本一行・船山哲郎
翻訳:瀧谷夏実
デザイン:野口勝央
印刷・製本:株式会社アトミ

【展覧会概要】
■会 期:2021年2月13日(土)〜5月9日(日)
      9:00〜18:00 会期中無休
■会 場:秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT(ビヨンポイント)
     (秋田市八橋南1-1-3 CNA秋田ケーブルテレビ社屋内)
■入場無料
■主 催:秋田公立美術大学、NPO法人アーツセンターあきた
■協 力:CNA秋田ケーブルテレビ
■グラフィックデザイン:野口勝央(野口デザイン事務所)

プレスリリース
チラシダウンロード
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Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた チーフ

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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