秋田公立美術大学ギャラリー「BIYONG POINT(ビヨンポイント)」(秋田市八橋南)において、藤本悠里子企画による展覧会「『応答』~SUMMER STATEMENT 2018報告とその後~」の後期「秋田|Akita」が、1月14日(月)よりスタートしました。
本展覧会は、アーティストによる新しい表現が生まれる現場をどのように創造できるのか、またキュレーターやコーディネーターはいかにアーティストの創作活動に関わることが可能なのかを問う試みです。秋田公立美術大学大学院の藤本悠里子を企画者に迎え、昨年9月に藤本が、寺岡海、神馬啓佑、船川翔司、来田広大の4名のアーティストを秋田に招いて実施した、彼らの秋田滞在中の活動を記録し考察するプロジェクト「SUMMER STATEMENT 2018」を経て、「“展覧会”として見せる」ことを目的としない発表の形を模索します。
2018年12月15日(土)から71日間におよぶ会期を、前期と後期にわけて構成する本展。前期「Out of Exhibition」では、藤本の研究テーマでもある「展覧会の外にある創造活動の価値にも目を向けながらアーティストと協働する可能性」に対するこれまでの考察と、4名の招聘アーティストと共に取り組んだ「SUMMER STATEMENT 2018」の記録資料を公開しました。
1月14日(月)からスタートした後期「秋田|Akita」は、寺岡海、神馬啓佑、船川翔司、来田広大のアーティスト4名による“展覧会”です。4名は再び秋田に滞在し、夏の滞在中に得た経験や共同生活の中で起こった出来事を編集し、「SUMMER STATEMENT 2018」への応答として今回の“展覧会”において発表します。
寺岡は、「自宅の時計を中継する」を含む6作品を出品し、夏の秋田滞在で感じた「色んな場所で色んなことが起こっている」という気づきを踏まえて、自分が知らない遠く離れた土地や環境について、真剣に向き合い自分の感覚として捉えることを試みました。神馬は、制作することや展覧会に至るまでの経緯をテキストと絵画、映像で作品化し、船川は、自らのルーツである男鹿・船川地区のフィールドワークなどを映像、音などを用いてインスタレーションとして表現。来田は、9月の秋田滞在中に登った鳥海山の山頂で、澄み渡った空に会津磐梯山や男鹿半島が手にとるように見えた経験を踏まえて、鳥海山の鳥観図を秋田公立美術大学のグラウンドに描き、その様子を写真で展示しています。
企画者の藤本は、「滞在の成果を作品や展覧会にするということは意図していなかった企画。その企画意図を崩さずに展覧会として見せるということに苦慮し、アーティストとは何度も協議を重ねた」と語ります。本展は企画者藤本の修了研究の一環として開催するものです。会期は2月24日(日)まで。
Information
展覧会「『応答』~SUMMER STATEMENT 2018報告とその後~」 後期「秋田|Akita」
会期: 2019年1月14日(月)-2月24日(日) 9:00-18:00
会場: 秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT
(秋田市八橋南一丁目1-3)
企画: 藤本悠里子(秋田公立美術大学大学院 2年)
アーティスト: 寺岡海、神馬啓佑、船川翔司、来田広大
主催: 秋田公立美術大学、NPO法人アーツセンターあきた、向三軒両隣
協力: CNA 秋田ケーブルテレビ
助成: 秋田市地域づくり交付金事業
Facebook:
https://www.facebook.com/biyongpoint/
特設ウェブサイト:
https://summerstatement.mukousangenryodonari.cloud/
「SUMMER STATEMENT 2018」について
本企画に参加しているアーティストの寺岡海、神馬啓佑、船川翔司の3名はこれまで彼らを中心に集まったアーティストたちと共に、毎年継続して広島の尾道で自主的な短期滞在を行なっていました。その際、滞在の目的や過ごし方は個々の判断に任されており、作品制作だけでなくリサーチや観光、交流などアーティスト個々の興味や必要に応じて活動を展開しています。企画者である藤本は、彼らの活動を「アーティストの夏休み」であると解釈し、これを秋田で行うことを提案しました。アーティストが一時的に環境を変えて「生活をしている」とも「制作活動をしている」とも言える状態に立ち会うことで、創造活動の始まりや過程を観察・調査することができるのではないかという意図から始まった企画です。
そして、2018年9月4日から9月16日まで、寺岡海、神馬啓佑、船川翔司、そして来田広大の4名を秋田に招き、「SUMMER STATEMENT 2018」と題したアーティスト秋田滞在企画を実施しました。この滞在では、秋田公立美術大学でのトークイベントの開催や、滞在中のアーティストの様子を日々公開する特設サイトの設置、学生や教職員、企画者による滞在への参加という要素が含まれ、活動を発信し、記録として蓄積することにも努めました。
本来、本企画はアーティストたちに成果を発表することを求めないという前提で行なったものでしたが、作品制作を目的としない滞在を経てアーティストたちが何を持ち帰り、藤本が滞在に対してどのような考察を残すのか、滞在のその後を見てみたいという思いから、本展覧会を開催する流れとなりました。
前期「Out of Exhibition」 企画趣旨
これまで若手アーティストの支援や展覧会の企画に携わってきた中で、アーティストの創造活動を展覧会という形式で発表することに疑いはありませんでした。しかし、「展覧会では見えていないところ」、つまり「展覧会の外」にもアーティストたちの活動は存在しており、作品としてのかたちを得たものの周りには、作品には現れていないたくさんの思考や出来事、言葉が溢れています。私はこれらの要素に目を向けて、企画を立てることはできないだろうかと考えました。
この度行った「SUMMER STATEMENT 2018」の中ではアーティストの「生活」と「制作活動」の両方の要素が存在していました。そこに、学生や教職員、土地に暮らす人たちが立ち会い、関わりを持つことで、様々な言葉や考えが交換され、日々状態が変化する動きのある企画となりました。
前期「Out of Exhibition」では「SUMMER STATEMENT 2018」を通して集めた記録をもとに、実際にどのような状況が創出されていたのか、また、アーティストや滞在に関わった人たちにどのような影響をもたらしたのかのかを考察し、報告します。
これらの考察を経て、アーティストによる新しい表現が生まれる現場をどのように創造できるのか、またキュレーターやコーディネーターはいかにアーティストの創作活動に関わることが可能なのかを明らかにする研究へと繋げたいと考えています。
(藤本悠里子)
後期「秋田|Akita」 企画趣旨
2018年9月3日から14日まで、関西からきた4名のアーティストが秋田に滞在した。その滞在は少し変わっていて、作品制作を目的としなくてもよいという名目のもとであり、同じ家で共同生活をしながら、それぞれがその滞在の時間に見合った使い方をした。後日、それを展覧会という形式で秋田で発表することになった。
あの制作を目的としなくてもよい滞在をどのように展覧会に接続すればよいのだろう。そう考えた末、展覧会のタイトルを「秋田」と名付けることにした。なぜならあの滞在は私達にとって「秋田」という言葉以外で説明することが難しかったからである。滞在の中では制作を目的としていなかったため、制作行為からこぼれ落ちる、いわばその外側の出来事がたくさんあり、それを作品制作と同様に構造的に回収しなければおかしいと考えたからである。それは滞在期間に起こったことを制作という軸で編集し直し、展覧会として成り立たせることではなく、秋田での滞在をその時間に関わったアーティストの記録として括り成立させることである。
それは秋田での滞在の時間をアーティストが「秋田」で何かを「した」ということによって、名詞を動詞化することでもある。「2018年9月、秋田でアーティストがした。」この展覧会は秋田での2週間ほどの滞在の時間を経て、アーティストそれぞれが秋田を動詞化することの記録であり、秋田への滞在の応答となる。
(寺岡海、神馬啓佑、船川翔司、来田広大)