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小さな小さな化石の世界を覗いてみませんか? めくるめく「微化石セカイ」

学生ふたりによるアートプロジェクト成果展「微化石セカイ」が秋田公立美術大学サテライトセンター(フォンテAKITA6階)で開かれています。顕微鏡でしか確かめられないほど小さな小さな化石の世界。微化石のとりこになったふたりが見つめためくるめく小さな世界を、ちょっと覗いてみませんか?

後藤理菜・大場明《浮遊性有孔虫》

地球の歴史を物語る、小さな小さな
微化石の世界へ、ようこそ!

小さな化石「微化石(びかせき)」への憧れと興味をアートプロジェクトとして展開する「微化石セカイ」が、秋田公立美術大学サテライトセンター(フォンテAKITA6階)で開かれています。
企画はアーツ&ルーツ専攻3年に所属する後藤理菜とビジュアルアーツ専攻3年の大場明。ふたりが秋田県内で採取した微化石を電子顕微鏡で撮影した写真や、それらをモチーフに制作した立体や映像作品などふたりが見つめた微化石の世界を成果展としてまとめました。ふたりの「微化石セカイ」とは、どんな世界なのでしょうか。

後藤理菜(アーツ&ルーツ専攻3年)と大場明(ビジュアルアーツ専攻3年)による「微化石」に着目したアートプロジェクト成果展

微化石は、地球の誕生や生命の始まり、
地球環境を明らかにする化石

微化石とは顕微鏡を使わないと確認できないような、微細生物の化石のこと。珪藻のような植物や花粉や胞子、放散虫や有孔虫などの原生動物などが挙げられます。微小な生物のため光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いて鑑定を行い、地層の年代を特定する手がかりや過去の地球環境を明らかにする時の指標となったり、地球のどこが海だったのかを教えてくれることもあります。

微化石とは?を説明する大場のアニメーション《微化石ってなんだ?》より

後藤はもともと海洋生物の化石が好きで、大学1年時に東北大学主催の微化石サマースクールに参加。その頃から、微化石についてただ知識を得るだけではなくアートプロジェクトとして展開したいと考えていました。
「微化石とは、顕微鏡を使わないと見えないような小さな生き物の化石です。昔の地球環境を知る上で重要な役割を果たしていて、その姿形の面白さはもちろん、化石になる前の謎の生態にも惹かれました」と後藤。活動を始める上で地層や化石の予備知識のあった大場を誘い、「微化石の研究を自分たちの表現につなげていきたい」と開始。秋田大学の附属鉱業博物館に通い詰めて続けたスケッチが本展のベースとなりました。

アートプロジェクト成果展としてまとめた本展は、地元の団体・企業や個人が秋田公立美術大学を物心両面から支援を続ける「あきびネット」が、学生の自主的な創作活動や研究活動を支援する奨学金制度「あきびネットファンド」の採択企画でもあります。

ふたりが観察を繰り返して描き続けた微化石のスケッチ
3台の顕微鏡で実際に微化石を観察できるコーナーも。これは秋田市外旭川地区で採取した底生有孔虫などのサンプル

有孔虫は謎多き生命体。
形の面白さは、生命の面白さ

ふたりが着目したのは、微化石のなかでも主に有孔虫でした。例えば浮遊性有孔虫はジュラ紀の海洋に誕生し、現在まで少しずつ姿を変えながら世界中の海で生き続ける単細胞のプランクトンのこと。どこにでも存在し、生き続ける生物ではありますが、後藤は「実は謎多き生命体で、まだ研究が始まったばかり。有孔虫のことを少しでも知ってもらえたらうれしい」と語ります。

秋田市外旭川の通称・豆腐岩と呼ばれる笹岡層砂岩では、秋田大学国際資源学部の先生の協力を得て約180万年前の試料を採取し、浮遊性有孔虫や底生有孔虫を確認。男鹿市の秋田県水産振興センターでは水深5mから汲み上げた海水を分けてもらい、そこから1匹の浮遊性有孔虫を確認しました。カイアシ類や珪藻、他にも試料が採れましたがスライドを顕微鏡にぶつけてしまい、何匹かを失う羽目に・・・。観察には、微細な生物化石を扱う難しさが常にあったといいます。

笹岡層砂岩から採取した底生有孔虫
男鹿の海水から採取した底生有孔虫(以上、撮影:後藤理菜、大場明)

顕微鏡に現れる小さな生命。
見えないけれど、面白い

後藤と大場が共にとりこになったのが、微化石そのものの形の面白さでした。あるか無いか分からないほどの粒を顕微鏡で覗けば、そこには魅力的な形をした生命体が現れます。
「身近なものなのに見えなくて、見えないけれどこんなに面白い形をしていて。それが自分たちの作品につながることで、こんなに面白い生命があるんだと知ってもらえたら嬉しい」と大場。ふたりが微化石と向き合い、微化石をモチーフに制作したガラス作品やアニメーション、日本画が本展の見どころでもあります。

大場明のガラス作品《底生有孔虫》
後藤理菜《浮遊性有孔虫》
後藤理菜が有孔虫の微化石をモチーフに半磁器土で制作した《孔》と、発泡スチロールで制作した《Spine》。微化石の姿形に向き合った作品
後藤理菜による日本画《Layer》
プランクトンをイメージしたキャラクターのアニメーション《Planktic girls》 イラスト:後藤理菜、アニメーション:大場明

本展には、ふたりで制作したガラス作品数点のほか、後藤は微化石の姿形を捉え、半磁器土で制作した立体作品や日本画を出品。一方、大場は微化石やその採取方法の説明や、浮遊性有孔虫の一生を描いたアニメーションなどを制作。後藤がプランクトンをイメージして描いたキャラクターを使ったアニメーションや、遊走子が結びついて生まれ、殻の部屋をひとつひとつつくりながら成長し、やがて遊走子を放出して海底で死にゆく浮遊性有孔虫を描いた《ふわふわと漂う》などに、研究対象を見つめる眼差しが感じられます。

アートプロジェクト成果展「微化石セカイ」は9月12日(日)まで。微化石を見つめるふたりの世界を、ぜひご覧ください。

Information

アートプロジェクト成果展「微化石セカイ」

令和2年度あきびネット奨学金採択事業
■会 期:2021年9月4日(土)〜9月12日(日)
     10:00〜18:50(最終入場18:30まで)
■会 場:秋田公立美術大学サテライトセンター
     (秋田市中通2-8-1 フォンテAKITA6階)
■入場無料
■主催・企画:秋田公立美術大学3年 後藤理菜、大場明
■協 力:秋田大学大学院国際資源学研究科附属鉱業博物館
     秋田大学大学院国際資源学研究科 山﨑誠准教授
■お問い合わせ:bikaseki.art@gmail.com
※新型コロナウイルスの感染拡大状況等により、展覧会の開催期間や内容等が変更になる可能性があります。

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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