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鳥への探究心が導く森 一瞬の出会いを写しとる 菅原果歩個展「分け入る森」

秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINTで9月24日(土)から、アーツ&ルーツ専攻に在籍する菅原果歩の個展「分け入る森」を開催します。野鳥を対象に長期に渡ってフィールドワークや撮影を行っている菅原の制作の変遷を辿る展覧会。
ビヨンセレクション採択企画。

野鳥を介して、日常から自然へと入り込む
菅原果歩が写しとるものとは

秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT(CNA秋田ケーブルテレビ社屋内)で9月24日(土)から、野鳥を対象にフィールドワークと撮影を続ける作家・菅原果歩の個展「分け入る森」が始まります。

菅原果歩は秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻4年に在籍。中学生の頃に鳥に興味を持ち始め、大学入学後は主に雄物川周辺や大潟村で撮影を続けてきました。渡り鳥の中継地として知られる飛島(山形県)で撮影したことをきっかけに抱いたのが、「私はなぜ鳥が好きなのか。何のために写真を撮っているのか」という問いでした。その後も鳥との関わりのなかで自分のルーツについて探求し、本展において、ひとつの答えを提示します。

「人々の身近に隣り合う自然から、日々の暮らしとは関わり合うことのない遥かな遠い自然へと足を踏み入れる。撮影をする際、自分の足でその自然の境界を分入っていく感覚が常にあった。その先の景色に1羽の鳥が現れただけで、私にとって目の前が一時停止した物語のように見えてくる。
時にそれは本当に一瞬の出来事で、その一瞬のユートピアを自分の中にお土産としてずっと持っておくためにシャッターを切る。これまでの鳥との出会いが私の些細な日常を強く支えているように思う」

自らの五感で鳥を探すこと。一瞬の出会いをシャッターにおさめること。そこから生まれた作品には、菅原が見つけたユートピアがあるといいます。そして写真一枚一枚に合わせ、菅原は自身にとってのユートピアが紙に浮き出るようにさまざまなプリント方法を実験してきました。

「ほとんどの写真はデジタル一眼レフで撮影しているが、デジタル写真をあえて古典技法を用いて焼き付けることで視覚を物質化し、原初的なイメージを得ようと試みる。粒子の並びと紙の質感から浮き出る自然と鳥の像は現実世界を写しとる写真からもうひとつの別の世界を剥き出しにさせる気がしている。画面の中に楽園のような世界を作り出すために、さまざまななプリント方法を実験してきた。一枚一枚に納得できるプロセスと支持体を選び、作品を作り出したい」

本展では、身近な自然の象徴としてカラスを撮影した「青い鳥シリーズ」をはじめ、撮影するまでの道中の様子を細かに記した冊子なども展示。鳥への探究心から分け入る森へ、誘います。

羽根記録 2017.4.19〜
雄物川野鳥記
雄物川野鳥記

「無窮の地で」 菅原果歩

一万羽を超えるウミネコ達のコロニーを見ようと高い岩を登りふと下を見た。
そこには、オレンジ色の藻がゆらめく不思議な色の海が広がっている。
日々の暮らしの中でかかわることのない遠い自然を訪れた気がした。

一羽の鳥が目の前に現れるだけでその景色が一時停止された物語のように見えてくる。
いつからか野鳥とそれを取り巻く植物たちや森、風、川の声や色に耳を傾けたいと思うようになった。
自然の中に溶け込み、自然の懐に入ることができた時。
じっと待っているだけで、遥かな自然が存在していることを教えてくれる。
私たちが何者で今どこにいるのかを教えてくれている気がする。

私が些細な日常に振り回されている間に渡り鳥は一年前と同じ場所にやって来ていた。
彼らが過ごした一年と自分が過ごしたこの一年が重なる。
当たり前のことなのに初めて気づいた気がした。
すべてのものに平等に同じ時が流れている。

私は今まで生まれ育ったこの土地にしか目を向けられていないのではないかと思うときがあった。
他の地やそこに生まれた人々を羨むこともあった。
しかし、日常から少し離れ、森の中に自分の足で踏み入れば私が望んでいた豊かさをいくつも見つけることができた。
この地でまだ何度でも見つけることができるだろう。
きっと、どれだけ長い時間を一つの土地で過ごそうとすべてを見ることなどできないのだろう。

Profile

菅原果歩 Sugawara Kaho

2000年秋田県生まれ。秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻4年在籍。2021年アーツ&ルーツ専攻展「夜明け前」、2022年アーツ&ルーツ専攻展「ONE」「獣道」出展。野鳥を対象に撮影、制作、フィールドワークを行い、主にオルタナティブプロセスを用いて写真をプリントしている。デジタル写真をあえて古典技法を用いて焼き付けることで視覚を物質化し、原初的なイメージを得ようと試みる。

Information

菅原果歩個展「分け入る森」

菅原果歩個展「分け入る森」DM(PDF)
■会期:2022年9月24日(土)〜10月30日(日)
    会期中無休、入場無料
■会場:秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT
   (秋田市八橋南1-1-3 CNA秋田ケーブルテレビ社屋内)
■時間:9:00〜17:30
■主催:秋田公立美術大学
■協力:CNA秋田ケーブルテレビ
■企画・制作:NPO法人アーツセンターあきた

■お問い合わせ:NPO法人アーツセンターあきた
TEL.018-888-8137  E-mail bp@artscenter-akita.jp
新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況により、展覧会の開催期間や内容が変更になる可能性もあります。

※2022年度秋田公立美術大学「ビヨンセレクション」採択企画

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アーツセンターあきた

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