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東京オリパラ使用材が遊具に 子どもの遊びの輪広がるデザイン

【選手村ビレッジプラザ提供木材再加工プロジェクト レポート】
そこは、子どもたちのための小さなオリンピックスタジアム。
秋田公立美術大学が大館市から委託を受け、東京オリンピック・パラリンピック選手村施設で使用した木材で制作した遊具が、ニプロハチ公ドームパークセンター(大館市)の「子どもの遊び場」に設置されました。段差やスロープで空間全体がつながり、年齢の垣根なく子どもたちの遊びの輪が広がります。12月下旬、早速、子どもたちが思い切り遊ぶ姿がありました。

響く歓声と笑い声

一目散に駆け出す子どもたち。その目指す先にあるのは、真新しい木製の遊具です。すべり台を友だちと競うようにすべり、隙間をのぞいて、登って、座って、寝転んで。トンネルの穴を探検したり、かくれんぼが始まったり。笑い声と歓声が弾けます。

歓声を上げながらトンネルを探検
座ってじっくり遊ぶ子どもたち

2021年夏に開かれた東京オリンピック・パラリンピックでは、環境に配慮して競技施設などに木材が使われました。大会期間中に選手の生活を支えた「選手村ビレッジプラザ」は、大館市を含む全国自治体からの木材を使用して建設。大会後に解体された資材は全国各地でレガシーとして再活用されています。
この遊具は、その「選手村ビレッジプラザ」の建設に使用した大館市産の木材で制作されました。

さまざまなところに刻まれた東京オリパラのロゴの焼印
焼印で東京オリパラで使われたことがわかる

プロジェクトは秋田公立美術大学の今中隆介教授(ものづくりデザイン専攻)が中心となり、設計や制作に、有限会社萩原製作所(秋田市)、株式会社県北パネル(能代市) 、藤島木材工業株式会社(北秋田市)、HOLTO(北秋田市)、fuuukei(由利本荘市)など、「ORAeアキタファニチャー」メンバーである秋田県内の木工事業者のご協力をいただきました。

制作した遊具は、トンネルやすべり台を併設した「トンネルの広場」、高低差のあるブロックを組み合わせたスペース「テーブルとベンチの丘」、枝が伸びた木々の囲いのような「木もれびの部屋」と、座って遊べる「あそびの机」、おもちゃを入れて運べる「木の車」、子どもたちが遊ぶ姿を保護者の方々が見守ることができる「見守りのベンチ」です。

手前から「木の車」、すべり台のある「トンネルの広場」、囲いのような「木もれびの部屋」と「あそびの机」

子どもがわくわくする仕掛けを

コンセプトは「小さな小さなオリンピックスタジアム」。
子どもたちは遊具を行き来して空間全体を動き回って遊びます。保育所の年長の子が、未満児の小さな子の手を引いて一緒にいる姿もありました。今中教授は「段差やさりげないスロープで空間全体がつながり、子どもが自然に全身を使って体を鍛えることができ、知らない子同士でも年の差を越えて一緒に遊べるものを生み出したかった」と語ります。

先に何があるのだろうと興味を引くトンネル、階段下の薄暗い空間など、子どもたちがわくわくするような仕掛けもたくさん。「自分が子どもだったらどんなものが楽しいか。想像力を働かせた」。一方で、かくれんぼを始めてブロックの段差に隠れたり、すべり台を背中からすべってみたり、子どもたちの遊び方はその想像を上回ります。「いろいろな遊び方ができる余地を残した設計だが、全然予想してない遊びが生まれていた」と今中教授は笑います。

かくれんぼを始める子どもたち。階段裏にも隠れ場所が

段差、強度…安全に十分配慮

安全にも十分に配慮されています。
段差があるスペース「テーブルとベンチの丘」では、子どもたちは腰掛けて遊んだり、ジャンプしながら歩き回っていました。この段差の高低差は未満児の足でも届くような高さで、転んでも大きな怪我につながらないように調整されています。
「トンネルの広場」のすべり台の手すりは小さな子どもがすべる時に掴みやすい高さに。「木もれびの部屋」の囲いなどは、万が一大人がぶら下がっても十分な強度があります。
安全すぎても子どもがわくわくするものではなくなるとした上で、設計では子どもたちが楽しく安全に遊べるよう、先行事例を調査し、段差やトンネルの高さ、すべり台の角度などを割り出したといいます。

段差の高低差が小さい「テーブルとベンチの丘」
掴みやすい高さの手すりを設置した「トンネルの広場」

設置作業で最後の調整

「子どもの遊び場」オープンの数日前には、遊具の設置作業が行われました。設計・制作に関わった木工事業者とともに、秋田公立美術大学からは今中教授、ものづくりデザイン専攻2、3年の学生5名が参加し、ブロック状に分かれた遊具を設置場所へ運んで固定しました。

現場に配置して初めて調整が必要な箇所が出てくることもあります。工具を取り出して補強し、すべり台は角度を何度も微調整。数ミリのずれが全体のずれにつながり、安全性に関わってきますので、金具一つでも慎重に取り付けます。
学生たちもプロの技を間近で見ながら、真剣な様子で作業に取り組みました。
午前10時にスタートした作業は午後6時過ぎに完了。あとは遊んでくれる子どもたちを待つだけです。

ブロックの状態から遊具へ組み立てていく
すべり台の角度を調整する

いよいよオープン

12月下旬、いよいよ「子どもの遊び場」がオープンの日を迎えます。地元の保育所の子どもたちが待つ前で、大館市の福原淳嗣市長が「子どもたちの笑顔、声、そして子育て世帯とそれを支える皆さんの大きな人の輪ができていく場所になることを心から祈念したい」と挨拶。子どもたちは歓声を上げながら遊んでいました。

かつては世界中の選手たちを支えた木材。遊具に生まれ変わり、これからは子どもたちの成長を見届けてくれます。飽きることなく遊ぶ子どもたちの姿を見て、今中教授の顔にも笑みが浮かびます。「作り手として喜んでもらえるのが最高のこと。子どもたちがすごく遊んでくれて、本当にうれしい」。

「第4回ウッドファーストあきた木造・木質化建築賞」リノベーション部門最優秀賞を受賞!

「大館市 子どもの遊び場」が、第4回ウッドファーストあきた木造・木質化建築賞のリノベーション部門最優秀賞を受賞しました。

同賞は秋田県が開催し、県内の木造・木質化のモデルとなる優れた建築物を県民や建築関係者に広く紹介するため、木材利用により付加価値が創出された木造・木質化のモデルとなる優れた建築物を選出・表彰するものです。

2023年12月26日に秋田県JAビルで表彰式が開催され、担当教員であるものづくりデザイン専攻今中隆介教授が参加しました。「大館市 子どもの遊び場」は、木の良さである柔らかさやぬくもりを感じる木育スペースであることや、産学官が一体となった取り組みであることを評価され、施主(建築主)である大館市の小棚木信晴・林政課長が表彰状を受け取りました。

「第4回ウッドファーストあきた木造・木質化建築賞」で表彰状を受け取る大館市の小棚木信晴・林政課長(2023年12月)

大館市 子どもの遊び場

■場所:ニプロハチ公ドームパークセンター
(秋田県大館市上代野字稲荷台1-1)※ドーム隣
■開館時間:火~日曜日(祝日含む) 9時~16時
■休館日:月曜日(祝日含む)、年末年始(12月29日~1月3日)

Information

選手村ビレッジプラザ提供木材再加工プロジェクト

■プロジェクトメンバー
大館市
今中 隆介(秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻)
有限会社萩原製作所
株式会社県北パネル
藤島木材工業株式会社
HOLTO
fuuukei

■コーディネーター
小野 真利江(NPO法人アーツセンターあきた)
伊藤 あさみ(NPO法人アーツセンターあきた)

■写真
今中 隆介
萩原 博則(有限会社萩原製作所)
NPO法人アーツセンターあきた

■お問い合わせ
NPO法人アーツセンターあきた TEL.018-888-8137
※本事業は、大館市から秋田公立美術大学が「選手村ビレッジプラザ提供木材再加工及び木育空間整備業務」として委託を受け実施しています。

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

伊藤あさみ

新潟県生まれ。元新聞記者。地域の話題から医療・政治・司法関連まで幅広く執筆。2022年より、アーツセンターあきたにて主に秋田公立美術大学の地域連携事業を担当。離島暮らしや豪雪地帯を経験した中で、伝統が残る祭事や風土などに触れ、どんな所でもその土地ならではの良さがあふれているなと感じています。好きなゲームはDQ11。

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