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「NEOびじゅつじゅんびしつ」
ひと夏の中で、ふたつの夢に向き合うこどもたち
秋田公立美術大学が主催する「こどもアートLab」は、こどもたちの自由な発想を引き出す創造のプラットフォームとして2019年度から開催しています。「たくさんの新しい発見とあふれる発想に出会いたい」という思いから、教員や卒業生、秋田県内外で面白い活動をしている人をLabリーダーに迎え、2022年度も幅広い内容で活動しました。
こどもアートLabのひとつ「NEOびじゅつじゅんびしつ」は、夢を叶えるために仲間と一緒に挑戦するプロジェクトです。Labリーダーはアーティストの柚木恵介。神奈川県鎌倉市と長野県上田市を舞台に、これまでこどもたち自らが多様な個性と関わりながらモノやコトをつくり出す活動を展開してきました。
この「NEOびじゅつじゅんびしつ」には大人が与える課題はありません。こどもたちが挑戦する夢が、必ず達成するわけでもありません。スタッフが積極的に手を差し伸べることもありません。あくまでもこどもたち自らが考え、アイデアや工夫で困難を乗り越えていく、そのクリエイティビティを引き出すことを目的としています。
▼これまでの「こどもアートLab」の記事
▼これまでの「NEOびじゅつじゅんびしつ」の記事
2022年度の「NEOび」はたくさんの「夢」の中から
プロジェクトA
「みんなでロケットをつくって空へ飛ばしてみたい!」
プロジェクトB
「自分たちが小さくなった世界をプログラミングで作って、ミニチュアを工作したい」
この2つに決定してプロジェクトメンバーを募集しました。
果たして、それぞれのプロジェクトの夢はどのようになったのでしょうか?
まずはAチームです。
作戦会議1回目(Aチーム)
ZOOMでこんにちは!
ロケット打ち上げのための作戦会議スタート
1回目作戦会議は新型コロナウイルス感染症の影響により、残念ながらZOOMになりました。先に来た人からLabリーダーの柚木さんとおしゃべりが始まります。
集まったのは5人のこどもたち。どうやらロケットを今まで作ったことがある人も多く、JAXA能代ロケット実験場(能代市)や、にかほ市のフェライト子ども科学館などでロケット制作をしたことがある人もいました。
みんなの緊張がほぐれてきたところで、ロケットを飛ばすための意見をどんどん出し合います。「誰かに聞いてみたら?」「ぼくはアルヴェの科学館に行って聞いてみるのがいいと思う」「こういう素材を持ってくる!」。
次の作戦会議の開催日には、各自が調べて準備したものや必要なものを持ってくることになりました。
次回が楽しみです。


作戦会議2回目(Aチーム)
ロケットを飛ばすための作戦会議
本格始動!
今日はzoomの画面越しではなく、初めてみんなと会います!
秋田市文化創造館で2回目の作戦会議のスタートです。
みんなで調べてきたもの、持ち寄ったものを見せ合います。
メンバーが持ってきた簡易ロケットの実験をしようとしましたが、肝心の着火装置(ライター)がありません。
無ければ買おうと、みんなで考えて買い出しに出ます。
コンビニまで行って、どうやら無事に買えた様子。
早速簡易ロケットを飛ばしてみますが、すぐに落ちてしまいました。
目標は100m超え。まだまだ目標まで足りません。


少しだけ飛んだロケット。原理の学習は分かりましたが、目標値には程遠いようです。
「ねえ、今日これだけで終わっちゃうよ?」「分かってるよ!」。
なんだかチームがばらばらになりそうな雲行きです。楽しいことに対しては瞬発力のあるチームですが、作戦を立てて計画することが少し苦手なようです。どうなっていくのでしょうか?
他のメンバーがコンビニにお菓子を買いに行って、気が付くとメンバーが1人になっている時もありました。帰ってきても入れ違いになり、なかなか会えず途方にくれる様子も。見守り師たちもバラバラになったメンバーを追いかけます。
やっと合流!どこで飛ばす?
ようやくみんな戻ってきて、話し合いが始まりました。本番のロケットを飛ばす場所を考えているようです。自分たちでは思いつかないと、いろんな人に聞いてみることにしました。

作戦会議に使った文化創造館から出て、近くの千秋公園でロケットを飛ばすためにリサーチに向かうことになりました。千秋公園の秋田犬を見つつ、文化創造館に隣接する図書館でロケットに関する情報を探します。
図書館から飛び出て遊んでしまうメンバーもいましたが、そんな中、女の子が1人残って調べ物を進めていました。大人が代わりに検索してヒットした本を読み込みます。「ヤバい…難しそう…」。
みんなが言ってたよりロケット飛ばすって大変だ!と、要点を掴むためメモをしていきます。
一方、先に文化創造館に戻ってきた男子たちは、燃料に使う酸素ボンベや水素ボンベの値段を調べます。ロケットを制作しはじめるメンバーも出てきました。
それぞれ動いていますが、果たして情報は集約されるのでしょうか。

そろそろ2回目の作戦会議も終わりの時間が近づいてきました。
ロケット発射に使う燃料などの素材をリストアップし、ロケットの構造も決まったようです。場所は、雄物川河口近くの新屋浜で打ち上げる予定です。
無事にロケットを飛ばすことはできるのでしょうか?

実行日1回目(Aチーム)
ロケットを飛ばすまでに必要なこと
実験×勇気×ライセンス?
いよいよ作戦実行日1日目!
チームリーダーが準備したモデルロケットのキットが到着していました。届いたロケットを開けて、組み立てていくようです。
しかし、開けてびっくり、説明書は英語です。みんなで見ながらなんとか組み立ていきます。完成したら、実験しに屋外へ出ていきました。
おやおや、どうやら日本語の商品説明の紙を読むと「ライセンス」の文字が…。
気にせずそのままロケットを打ち上げて、現実逃避してしまいます。

調べてみると、やはりライセンスが必要な様子です。どうしようか悩むこどもたち。
どうやら秋田大学にロケットに詳しい人がいるようで連絡してみることになりました。
女の子が1人で公衆電話を探しに出かけます!
千秋公園の中を歩き回ります。それでも見つかりません。奥の神社で神頼みしても、見つかりません。見守り師たちも汗だくになった頃、ようやく公衆電話が見つかりました。
さて、あとは戻ってみんなに知らせて「電話をかける」だけ。
しかし、誰もこの電話をかける勇気が出ません。どんどんとネガティブになり、曇っていくメンバーの表情。誰がかけるかと揉めてしまいました。見守り師たちは、やってみようよ!という応援の言葉をかけてじっと見守ります。


メンバーの1人が勇気を振り絞って電話に挑戦しました!
電話の相手は、秋田大学の平山寛先生です。宇宙工学の研究をされており、みんなにとって心強い助っ人の登場です。モデルロケットを飛ばすためにライセンスを持っている人がいないので、困っていると相談したところ、明日(実行日2日目)の10時に来ていただけることになりました。
お昼を食べた後、ロケットを飛ばす予定地の新屋浜へバスで下見に行くことになりましたが…。
目の前のバスが乗るバスなのに、みんなでトボトボと当て所なく歩きはじめてしまいました。
いろいろな案は出てきますが、誰も決められない状態になってしまいます。
その後、見守り師の柚木さんから教育的指導が入りました。
みんなで気を取り直して明日のバスの時刻をメモし、文化創造館へ戻ります。


気落ちしていたメンバーの目の前に、なんと救世主が登場しました。
なんと秋田大学の平山先生が、どんな感じで進んでいるのか、電話をもらった後、心配になり来てくれていたのです。組み立てたロケットのチェックをしてもらったり、着火の練習をしたり、明日の予定を確認していく内に、段々とみんなは元気になっていきました。明日に向けた話し合いを終えて実行日1日目が終了です。
実行日2回目(Aチーム)
いよいよロケットを打ち上げ
バス×海×発射!?
今日が泣いても笑ってもみんなで集まる最後の日。そして、ロケットを飛ばす決行日です。
文化創造館から出て、ふらふらと危なっかしく寄り道をしつつもバス停へ到着しました。見守り師も、そっと後ろから付いていきます。何かが起こったとしても、自分の責任で失敗するのも、NEOび流の勉強。昨日は勇気が出なかった新屋浜行きのバスに無事乗り込みました。


バスを降りる時に危うい事件が!
ロケットをバスに置き忘れそうになりましたが、間一髪気付きました。
安心したのもつかの間、メンバーの1人が乗り物酔いになってしまいました。
みんなで心配しつつ、一緒にゆっくりと新屋浜まで向かいます。思いやりの気持ちは大事です。
この後もメンバーの1人がはぐれるなどのアクシデントも乗り越えて、海に到着しました。
ロケットの機材をセットして、夢発案者がいよいよ発射!
うまく行ったのでしょうか?結果は後ほど紹介します。
全力を尽くしたメンバーですが、実は帰りのバスの時間をメモしていませんでした。
何時くらいにバスが来るのか曖昧で、疲れも出たのか「暑い!」「どうせ間に合わない」と言いながらもバス停に到着。
なんとかあと5分で来るバスに乗れました。

実は帰りのバスを1本乗り遅れてしまったAチーム。ぶっつけで報告会へ挑みます。
同じく「NEOび」の別プロジェクトを進めていたBチームの後に、自分たちの活動を振り返ります。
報告会では、全員が点火したロケットの飛ぶ映像が映し出されました。
やったー!ロケットは飛びました!


粘り強く、諦めずにがんばりました。
急きょロケット打ち上げに協力をしてくださった平山先生にも感謝の気持ちを伝えます。
目標100mには及ばずでしたが、それでも50mにまで到達。Aチームの夢が叶いました。

見守り師より
「最終日まで見守り師たちをハラハラとさせたAチームは、みんなで夢実現へ向けて動いていくためにどうやって協力し、決断し、進んでいくのかという課題を最後まで持ったチームでした。
どうしてもうまくできないことに苛立ったり、気持ちが落ち込んでしまったり、大人でも悩んでしまうようなことが起こっていました。
柚木さんから教育的指導が入ることもありましたが、チーム全員で、相手を気遣いながらロケット発射場所まで向かうメンバーたちの様子が見られました。
さまざまな出来事を通して、仲間と協力してロケット打ち上げた後に全員で達成感を味わえたのも諦めずにやるぞと粘り強い気持ちを持っていたからでしょう。この先、たとえメンバーが変わったとしても、仲間と協力して何かに取り組んでいくチャンスがあるのならば、Aチームメンバーと共に過ごした4日間が勇気へと繋がっていけばいいなと願っています」
