2015年度の仮設足場作品をきっかけに
ビヨンスケープではこれまで、CNAの様々なイメージの発信を社屋および外構デザインを通して行ってきました。
2014年、CNAは、官庁や文化施設の並ぶ通りにあった秋田県小児療育センター跡の建物に移転したことを新たなスタートとし、工事現場の“いまここで、何かが動き出そうとしている”といったメッセージを発信すべく、実際には使用しない足場を組んでいたそうです。その意図をより強く示すため、足場にカラーリングを施したモニュメントからビヨンスケープは始まりました。
それは、人々が集い、コミュニティとなっていく様子を想起させる公園イメージとしてのすべり台モニュメント(2017年度)、壁画(2018年度)へと繋がり、2020年度には展示スペースのある遊歩道・ポケットパークが、敷地内の雑木林を活かして造成されました。これらは日々、日常と非日常が同じ場所で入れ替わり体験されるように、くらしやエンターテインメントを発信するCNAのイメージとの親和性も考慮されて計画されてきました。
2022年度は、秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻の今中隆介教授と景観デザイン専攻の井上宗則准教授による検討を経て、外観へのやわらかな印象の導入を進めると共に、イベント開催時等の非日常的なイメージをより強く遠くへと発信するインスタレーションを展開することとなりました。
屋外でのやわらかなイメージを持ったインスタレーションという課題から、秋田県上小阿仁村でのアートプロジェクト(KAMIKOANIプロジェクト、かみこあにプロジェクト)でも屋外展示作品として染色作品を出展していた、染色家で、ものづくりデザイン専攻の森香織准教授が作品制作を担当することとなり、新たな挑戦がスタートしました。
これまでにない作品をこれまでにない方法で
今中先生のディレクションには、これまでにない作品を世の中に見せるための新しい展示方法や、その展示を実現させる装置の開発が含まれています。
作品は、社屋の東側に元々設置されていた10mのフラッグポール3本を活かし、円柱形の布状のものを掲揚する形式で計画されました。そこで、秋田公立美術大学前身の秋田市立美術工芸専門学校の卒業生でもある「SIGN & FILM サインワークス」代表の高橋真一さんが作品掲揚の仕組み設計や装置制作を、大学から近い西部工業団地(秋田市新屋鳥木町)に本社がありフルオーダー商品の製作をモットーとする「スズキテント有限会社」代表取締役の鈴木雅人さんが作品加工を担うチームが結成されました。
森先生による光の柱をイメージした作品は、絹や布のような軽さとやわらかさを持ちながらも、屋外に長期間展示できる強さが必要でした。この課題を達成するため、素材選定には鈴木さんの知見が、深い青色から光の黄色に変化していくグラデーションの彩色にはスズキテントの技術が発揮されました。工事現場の粉塵等の飛散防止用メッシュシートが、色彩を施した作品に用いられる希有な例にもなりました。
そしてもう一つの大きな課題は、作品の付け替えを前提としていることです。設置と撤去ではなく季節や用途に応じた色違いの作品への付け替えをプログラムに入れていること、また屋外設置であることから荒天時の対処のためにも、容易な作品の掲揚/降納と取り替えが必須条件でした。高橋さんと今中先生は、フラッグポールの掲揚装置を活かしながら、円筒の作品形状を保つための器具を開発。設置作業の試行時には、作品設置と交換作業の方法と手順をいくつか試し、作品の見え方を考慮しながらも容易な作業手順を見出していきました。
やわらかくそびえる
晴天に恵まれた作品設置日。曇天の多い冬から明るい春へと、季節の変容を最も感じるこの時期の青い空に、形を変えながら揺らめく、透明感のあるやわらかな「光の柱」がそびえることとなりました。
新しいことに挑戦することによって、関わってくださる方々にも新しい挑戦が生まれる。多くのノウハウが込められた、知的好奇心へのトキメキが伝染する事業となりました。
※今回の作品設置は、5月末までを予定しております。秋用の別バージョンもお楽しみにお待ちください。
Information
2022年度ビヨンスケープ
■プロジェクトメンバー
今中 隆介(秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻教授)
森 香織(秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻准教授)
井上 宗則(秋田公立美術大学景観デザイン専攻准教授)
高橋 真一(SIGN & FILM サインワークス)
鈴木 雅人(スズキテント有限会社)
■委託者
株式会社秋田ケーブルテレビ(秋田県秋田市八橋南1丁目1−3)
■コーディネーター
田村 剛(NPO法人アーツセンターあきた)
■お問い合わせ
NPO法人アーツセンターあきた TEL.018-888-8137