環境と身体的な対話を試みる　宮本一行個展「雪面の歩行　Walk on the Snow Field」

環境との身体的な対話

自らの身体的な行為を用いて身の回りの環境との対話を試みるパフォーマンスや、環境を捉え直すことに着目したインスタレーション・アートの制作に取り組む宮本一行（秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科博士課程在籍）の個展「雪面の歩行　Walk on the Snow Field」が、9月16日（土）から、秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINTで始まります。

《接触の形跡》（2020年、秋田市）で宮本は、日本酒貯蔵庫として使用されてきたギャラリー内に潜在する音響を引き出すことを試みました。会場内を忍び足で散策し、鶯張りのように鳴り響く床板の軋んだ音を収集していく過程を通じて、サウンド・インスタレーションを制作。その場所を満たしている音や光といった非物質的な要素を捉え直すことによって、環境そのものを体験することに繋げることができると考えました。

また、《共振する躯体》（2021年、京都）では、「流れ橋」と呼ばれる木造橋を一つの大きな鍵盤打楽器と見立てることで、その音響的な特徴を引き出すことを試みています。下駄を履き、橋板を一枚ずつ一定の歩行速度で鳴らして渡った経験をインスタレーション・アートに反映しました。この木造橋が「音を発する」行為的な側面を引き出すことで、環境の音を捉える本質的な身体感覚を取り戻すことができると考えました。

これらの実践を通じて、自らの身体的な行為を用いて生み出された音は、同時に他者が発している音でもあり、そのことに意識を向けることで身の回りの環境との身体的な対話が生まれると、宮本は語ります。

個展「雪面の歩行　Walk on the Snow Field」では、北海道の雪山登山によって得られた身体的な対話の経験から、新作のインスタレーション・アートを展示します。

雪山登山によって得られた新たな対話を紡ぐ

2023年3月、宮本は北海道中央部に位置する大雪山を歩きました。その時の記録をこう記します。

2023年3月、北海道中央部に位置する大雪山のヌプントムラウシ避難小屋を目指して雪山に入る。新得町屈足の曙橋を起点として、除雪されていない雪道を延べ二日間かけて十二時間ほど歩き続けた。その道中、なるべく一定の速度で歩き続けることを試みたのだが、足を踏み出すたびに実に多彩な反作用が雪面から返ってくる。視界はブレながら、全身で雪面を踏みしめる。やがて心拍と呼吸が同調しはじめると、足音＝雪音が微細に変化していることに気づきを得た。

「雪面の歩行　Walk on the Snow Field」と題された本展覧会では、この雪面を歩き続けることによって得られた体験を再表象したサウンド・インスタレーションを展示します。

展示室に設置された床板からは、一枚一枚それぞれ異なる振動が伝わってきます。この床板の上を、歩く／留まる／寝そべるといった鑑賞者の行為によって、異なる体験が紡ぎ出されます。

足音と雪音、身体と雪山、人間と環境。本展覧会を通じて、これらの相互関係を行為者として体験してみてください。

Profile 作家プロフィール

アーティスト

宮本一行 Kazuyuki Miyamoto

1987年千葉県生まれ、札幌市在住。2012年武蔵野美術大学大学院造形研究科デザイン専攻（修士）修了。札幌大谷大学芸術学部美術学科専任講師を務める。身の回りに潜む音や光などの根源的な現象に着目したインスタレーション・アートやサウンドパフォーマンスを発表。また、身体的な行為を用いて周辺環境との対話を試みる独自の作曲技法を実践している。そのほか、建築家・美術家・音楽家との共同プロジェクトに多数取り組んでいる。
＜主な展覧会＞
2023年2月　「eleven sense」札幌市資料館（札幌）
2021年10月-11月　「オルタナティブ京都2021」松花堂庭園・美術館（京都）
2021年2月-5月　個展（ユニットとして）「Outer Edge/ 知覚の外縁」ビヨンポイント（秋田）
2020年10月-12月　個展「接触の形跡」ギャラリーブルーホール（秋田）
https://www.kazuyuki-miyamoto.com/