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小さな子にはどんなおもちゃがいいだろう? 特別支援学校で東京オリパラ使用木材ワークショップ

【選手村ビレッジプラザ提供木材再加工プロジェクト レポート】
秋田公立美術大学と大館市は、秋田県立比内特別支援学校(大館市)で、東京オリンピック・パラリンピックに使われた木材を使い、小さな子どものためのおもちゃづくりを考えるワークショップを開きました。生徒は子どもたちがおもちゃで遊ぶ時にどんなことに気をつけなければいけないか、しっかりと確認しました。

東京オリパラで使われた木材を再利用しよう

2021年夏に開かれた東京オリンピック・パラリンピックでは、環境に配慮して競技施設などに木材が使われました。大会期間中に選手の生活を支えた「選手村ビレッジプラザ」は、大館市を含む全国自治体からの木材を使用して建設。大会後に解体された資材は全国各地でレガシー材として再活用されています。

秋田公立美術大学は昨年度、比内特別支援学校の高等部3年生に向けて、この木材の再利用方法を考えるワークショップを行いました。ことしは中学部2年生を対象に実施。その様子をレポートします。

▶︎昨年の記事「みんなで考えた木のおもちゃ 特別支援学校で木材工作ワークショップ」

大館の木を使ったおもちゃで、子どもたちを笑顔にしよう

比内特別支援学校中学部2年生は、以前から木育について勉強しており、おもちゃを作って大館市内の子育て支援施設などに贈っています。

ことし9月には、子育て広場「つどいの広場 ひよこ」(大館市上代野)から、「未就学児の小さな子どもたちが盛り上がるような木のおもちゃを作ってほしい」という依頼がありました。
材料の木材をどこから調達すればいいのか、子どもたちに楽しんで遊んでもらえるおもちゃはどんなものか。9月に開かれた1回目のワークショップでは、その解決方法を探りました。

まず、講師を務めた大館市役所林政課の千葉泰生さんが、大館市には秋田スギがたくさんあること、その木材が東京オリンピック・パラリンピックの「選手村ビレッジプラザ」の建物に使われたことなどを紹介。
東京オリンピック・パラリンピックの終了後に解体され、たくさんの木材がレガシー材として大館市に戻ってきていることから、「この木材を使って、秋田らしい大館らしいおもちゃを作ってください」と呼びかけました。

その後、生徒たちは秋田公立美術大学がレガシー材を使って制作したおもちゃの試作品を触り、手を動かして自分達でも遊んでみました。「音がでると面白いかも」「動くおもちゃもいいんじゃないかな」とさまざまな発見があったようです。

東京オリンピック・パラリンピックで使われた木材を触ってみる生徒たち
レガシー材で作ったおもちゃで遊んでみる生徒たち

小さな子と一緒に遊んで発見!

2回目のワークショップは12月に開かれました。
生徒たちはこの日までに話し合い、「つどいの広場 ひよこ」にプレゼントするものは、子どもたちが中に入って遊べる六角柱の形の「木のひみつきち」にすることに決定しました。「ひみつきち」には、レガシー材を壁面に貼り付けてレンガ調にしています。

生徒たちが作った「ひみつきち」

ワークショップには秋田公立美術大学の藤浩志教授(アーツ&ルーツ専攻)とアーティストの安村卓士さん、にしかわしょう子さん、「つどいの広場 ひよこ」の職員・奥山さんが講師として参加。さらに、この日は小さなゲストもいました。普段「つどいの広場 ひよこ」を利用している1歳の男の子と3歳の女の子、そのお母さんです。

生徒たちはひみつきちで子どもたちが実際に遊ぶ様子を見守ったり、一緒に遊んでみたりすることに。ひみつきちの中に置くおもちゃはどんなものが良さそうか、怪我を防止するためにどうすればいいか、藤先生や奥山さんからアドバイスを受けながら、発想を広げて考えてみました。

1歳の男の子は早速、レガシー材で作った木のフォークに興味津々。手で掴んで離そうとしません。「握って遊べるものがいいかもしれない」。一緒に遊んでいた生徒が口に出しました。
3歳の女の子は、ひみつきちの中におもちゃをたくさん持っていきます。女の子を見守っていた生徒は、講師の奥山さんから「中に棚を作って、お店屋さんごっこができるといいかもね」とアドバイスをもらっていました。

遊ぶ姿を見守って気づいたこと

生徒たちによって子どもたちと一緒に遊び、見守って気づいたことがどんどん電子黒板に書き込まれます。
子どもが好きそうなもとして、「カラフルなもの」「大きくて手に持ちやすいもの」「内側に穴を開けてのぞけるようにする」「音がなるもの・ひかるもの」などが挙げられると発表されました。

気づいたことを発表する生徒

次に藤先生や安村さん、にしかわさんからもアドバイスがありました。「ひみつきちの入口の段差は、小さな子がはいはいをすると引っかかってしまうので、何か工夫が必要」「触っても指が引っかからないように丁寧にヤスリをかける」「倒れないように滑り止めで安全に」など、小さな子どもが遊ぶ上で気をつけてほしいことを生徒たちに伝えました。

アドバイスをする秋田公立美術大学の藤浩志教授(左端)ら
アドバイスのメモをとる生徒たち

ひみつきちやおもちゃは2月にプレゼント

「つどいの広場ひよこ」の奥山さんは「良いものを作ってくださって楽しみ。なによりも安全第一で、子どもが工夫しながら自由に遊べるようにしてほしい」と心待ちにしている様子です。ワークショップでのアドバイスを受け、これから生徒たちは「木のひみつきち」を仕上げていき、2月には、「つどいの広場ひよこ」に贈呈される予定です。

小さな子どもたちに安全に楽しく遊んでもらい、東京オリンピック・パラリンピックのレガシー材の取り組みを次世代に知ってもらうきっかけになっていくことでしょう。

ひみつきち完成!こどもたちも大喜び

2月15日、「つどいの広場ひよこ」でひみつきちの贈呈式が開かれました。

はじめに、比内特別支援学校中学部2年生の生徒たちがこれまでの制作の流れを発表しました。「小さな子どもが怪我をしないように、しっかりとヤスリをかけた」などと工夫した点を述べ、待っている子どもたちに向けて「きょうはぜひ私たちの作ったおもちゃで楽しんでください」と呼びかけました。

そしていよいよ、ひみつきちのお披露目です。
隠していた布を上げると、そこには「ひよこのひみつきち」の姿が!子どもたちは歓声を上げて、早速遊び始めました。
ひみつきちは六角柱の形で、中には触ったら面白そうなおもちゃがたくさん取り付けられています。子どもたちは出たり入ったり。大館らしい秋田犬や秋田杉などをかたどったおもちゃなどを興味津々で触っていました。

12月に藤先生や安村さん、にしかわさんからアドバイスを受けたこともしっかりと反映しています。
入口の段差や側面、角は触っても指が引っかからないように丁寧にヤスリをかけられています。子どもの興味を引くようなカラフルなおもちゃは、口に入れても大丈夫なように食品由来の塗料を使用しました。東京オリンピック・パラリンピックの「選手村ビレッジプラザ」で使われた木材だとわかるように、焼き印もところどころに入っています。
このほか、子どもたちが安全に、自由に、楽しく遊べるような工夫が至るところにありました。

生徒たちは「楽しそうに遊んでくれてよかった!みんなでつくったかいがあった」と笑顔を浮かべていました。

Information

選手村ビレッジプラザ提供木材再加工プロジェクト(ワークショップ事業)

■プロジェクトメンバー
大館市
藤浩志(秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻教授)
安村卓士
にしかわ しょう子

■コーディネーター
小野真利江(NPO法人アーツセンターあきた)
伊藤あさみ(同)

■お問い合わせ
NPO法人アーツセンターあきた TEL.018-888-8137
※本事業は、大館市から秋田公立美術大学が「選手村ビレッジプラザ提供木材再加工及びワークショップ開催業務」として委託を受け実施しています。

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

伊藤あさみ

新潟県生まれ。元新聞記者。地域の話題から医療・政治・司法関連まで幅広く執筆。2022年より、アーツセンターあきたにて主に秋田公立美術大学の地域連携事業を担当。離島暮らしや豪雪地帯を経験した中で、伝統が残る祭事や風土などに触れ、どんな所でもその土地ならではの良さがあふれているなと感じています。好きなゲームはDQ11。

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