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僕でもあなたでもない肖像画 飯島小雪個展「僕らじゃない」

秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINTで3月8日(金)から、大学院複合芸術研究科修士1年の飯島小雪による個展「僕らじゃない」を開催します。私でも、あなたでも、全く別人でもない誰かを肖像画でなぞらえます。 ビヨンセレクション採択企画。

交換日記の中にいる誰か

飯島はこれまでに、交換日記に綴られるリアルな「ことば」のやりとりから感じ取った相手の姿を肖像画として描いてきました。

3月8日(金)から開催される本展「僕らじゃない」というタイトルには、

”漠然とした不特定多数の「僕ら」ではなく、あくまでも私とあなたは交換日記を綴りあっただけの関係であり、他者であることは変わらない。そして、作品を鑑賞した鑑賞者も他者である”

という意味が込められています。

飯島は「他者との境界を引いている冷たさではなく、お互いがお互いを人として付き合っていくための制作である」と語ります。だからこそ、物理的な距離があることで自分のペースを崩さず、相手の筆跡やかけた時間を感じながら、相手に時間をかけることができる交換日記を選んでいるといいます。

そんな交換日記を手掛かりに、相手の像をなぞっていく。
だが、完璧にはなぞれない。
そのずれが、人間関係のリアルであり、本物ではないけれど、偽物ではない状況になっていく。

本展「僕らじゃない」では、その状況を表現した絵画やドローイングなどの平面作品を展示します。

あなたを完璧になぞることはできないけれど、
なぞられたものはあなた以外の何者でもない。
でも、それは、あなたと私にしかわからない。
他の人にとってはあなたではない、誰かかもしれない。
そんな誰かを描いた絵画の展示です。

「人」はどう生きているのかを表現

飯島は油彩画に取り組みながら、過去の展示では場所に合わせたさまざまな作品を制作してきました。

ただ、作品のモチーフが「人」であることは変わりません。
「人」がどう生きたのか、どう生きているのか。
「人」は何を大事に持っているのか。
飯島の視点から描き、表現してきました。

祖父の遺影を基に制作したコラージュ作品「追想」(2022年、910 × 727mm)とコラージュ作品を元に描き起こした油彩作品「素朴実在論」(2022年、910 × 727mm)。左のコラージュ作品は飯島から見えていた祖父の印象を残すために描き、右の油彩作品は姿形を色で物質的に表現しました。

「継ぎ、接ぐ」(2023年、1167 × 910mm)は一枚の家族写真を元に絵画へ展開させた2枚で1点とする作品です。
どんな家族でも何かしらの問題を抱え、歪さを持ちながら「家族」という形を保っているということを表現しています。

広島県の元旅館の大広間をリノベーションした施設で行った展示「gu- Small Art Festival」(松翠園大広間/ 広島)で制作した作品「あれから元気にしていますか。」(2022年、2280 × 2280mm)。広間部分で座って見ることができる天井画作品を構想しました。
幼少期の頃のままだった父との関係性が親子の時間を進めるきっかけの作品と考え、幼い頃に戻った感覚で落書きのような天井画に仕上げました。

尾道市立大学芸術文化学部美術学科在学中に大学近くの空き家で行った二人展「茫々模糊–BAUBAUMOKO–」(2021年、30000 × 30000mm)。
展示場所の持ち主の大工と祖父を重ね、亡くなった祖父の作業場を再現したインスタレーション作品を制作。取り壊しが決定している空き家の追悼を込めた二人展での共通テーマに祖父の追悼を重ねました。

今回の展示「僕らじゃない」は、飯島がこれまで経験してきた展示場所とは異なるホワイトキューブです。油彩画を含む平面作品を中心に、これまでの制作と地続きになった「交換日記」を通した肖像画制作の活動を展示します。

交換日記や文通。交わしてためた「ことば」たち

「言葉」が「ことば」として相手に届くまで、どのくらい手間暇がかかっているのでしょうか。

SNSが普及した現在、瞬く間に「言葉」が届きます。
飯島は「どれだけ考えられたメールでも、つぶやきでも、『言葉』が記号化されたただの文字に見えてしまうときがある」と語ります。

相手が見えなくても相手が見える、声が聞こえる「ことば」に触れたかったのかもしれない。
相手が表現した「ことば」が見たかったのかもしれない。
そんな思いを飯島は抱えます。

そうして、飯島が2022年から始めたのが交換日記や文通です。
直筆で、郵送で、見知らぬ誰かに運んでもらい、これまでためてきた「ことば」を作品として展示します。

本展では、タイトルとは別に「public」「semi–public」「private」という部屋ごとのテーマを用意しています。

展示室の入り口では、活動に至るまでや活動途中に出てきた企画書などの「public」な作品たちを。
最初の展示室では、作品として見知らぬ人に見せる前提の作品や、一度見知らぬ人を介した「semi–public」な作品たちを。
一番奥の部屋には、私と交換日記の相手や文通の相手しか触れてきていない「private」な作品たちを。

奥に行けば行くほど、書いた・描いた人が見える展示になっています。
きっと、リアルな「ことば」に触れられるはずです。

3月10日(日)イベント開催!
展示作品を多方面から考察する

本展作品を中心に、建築など他領域から肖像画はどのように捉えられるのかということを、作家の飯島と秋田公立美術大学の井上宗則准教授(景観デザイン専攻)が議論します。

■開催概要
日 時:3月10日(日)13:00〜14:00
会 場:秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT
(秋田市八橋南1-1-3 CNA秋田ケーブルテレビ社屋内)
ゲスト講師:井上宗則准教授(秋田公立美術大学景観デザイン専攻)
参加費:無料
定員:15人

参加希望の方は、当日直接会場までお越しください。
駐車場が混み合うため、公共交通機関をご利用ください。
多くの皆様のご来場をお待ちしております。

Profile 作家プロフィール

飯島小雪 Iijima Koyuki

2000年広島生まれ。秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科修士課程在籍。尾道市立大学芸術文化学部美術学科在学中に油彩でのポートレート制作を開始。現在は他者のポートレートの取材ツールとして交換日記を使用した制作をしている。
<主な展覧会>
2024年1月 秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科修士課程1年研究経過展(秋田公立美術大学サテライトセンター/秋田)
2023年11月 「ー覗くー」(秋田公立美術大学サテライトセンター/秋田) 
2023年2月 「尾道市立大学卒業作品展」(尾道市立美術館/ 広島)
2022年9月 「ACT アート大賞展 優秀賞グループ展 後半」(The Art complex Center of Tokyo/ 東京) 
2022年8月 「gu- Small Art Festival」(松翠園大広間/ 広島/ ディレクション、キュレーション、作家)

https://lit.link/lightsnow30

Information

飯島小雪個展「僕らじゃない」

飯島小雪 個展「僕らじゃない」DM(PDF)
■会期:2024年3月8日(金)〜2024年3月31日(日)
    入場無料、会期中無休
■会場:秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT
   (秋田市八橋南1-1-3 CNA秋田ケーブルテレビ社屋内)
■時間:9:00〜17:30
■作家在廊日:3月21日(木)11:00-15:00、 3月27日(水)13:00-16:00
■主催:秋田公立美術大学
■協力:CNA秋田ケーブルテレビ
■企画・制作:NPO法人アーツセンターあきた

■お問い合わせ:NPO法人アーツセンターあきた
TEL.018-888-8137  E-mail bp@artscenter-akita.jp

※2023年度秋田公立美術大学「ビヨンセレクション」採択企画

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