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2つの土地を“うた”でつなぐ磯崎未菜「singing forever 高砂」を開催

秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINTで6月8日から、磯崎未菜の個展「singing forever 高砂」が始まります。 能の演目「高砂」に着想を得て、宮城県と兵庫県の「高砂」をつなぐ“うた”をテーマとした映像作品を展開します。

2つの高砂を“うた”でつなぐ「singing forever 高砂」

秋田公立美術大学は、大学ギャラリー「BIYONG POINT」(秋田市八橋南)において、磯崎未菜の個展「singing forever 高砂」を開催します。

磯崎未菜は、出向いた土地の人びとと彼らの生活・風景を研究しながら、その土地の現在に沿った新しい“うた”をつくっています。能の演目「高砂」に着想を得た本展では、磯崎が制作した宮城県と兵庫県の「高砂」をつなぐ“うた”をテーマに、映像作品計4点を本ギャラリーと高砂堂(秋田市保戸野)に展示します。

磯崎未菜「singing forever 高砂」

■会 期: 2019年6月8日(土)〜8月18日(日)9:00〜18:00 ※会期中無休
■入場料:無料
■会 場:
秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT
(秋田市八橋南 1-1-3 CNA秋田ケーブルテレビ社屋内)
高砂堂(秋田市保戸野通町2-24)※日曜、毎月15日定休
■主 催:秋田公立美術大学、NPO法人アーツセンターあきた
■協 力:CNA秋田ケーブルテレビ、株式会社高砂堂
■デザイン:根本 匠

Profile

磯崎 未菜 Isozaki Mina

アーティスト。1992年東京都生まれ。東京芸術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。本来聞き手を持たない私的なものでありながら、社会の中で共有されているわらべ歌や労働歌への興味から、歌を用いて制作を行う。2017年より、ある土地に出向きその場所に添う新しい”うた”を映像作品として制作するプロジェクトを継続している。

ラジオ配信+関連イベント

全てのラジオ配信と関連イベントの音声をウェブサイトで生配信、アーカイブします。
配信サイト http://singingforever.me/

■ラジオ配信
「ダムタイプと、声と痛みとユーモアと」
※会場非公開
日 時:2019年6月9日(日)21:00~23:00
ゲスト:高嶺格(美術家)
ゲストプロフィール:
1968年鹿児島生まれ。90年代、ダムタイプにパフォーマーとして参加。その後、身体を通して表現する数々のパフォーマンス、または観客と作品の双方向性を志向するインスタレーションや、映像・音響メディアを多用した作品を発表。2000年代以降には、音楽家やダンサーとのコラボレーション、舞台演出などジャンルを越境する幅広い表現活動に携わる。近年の個展に2012年「高嶺格のクールジャパン」(水戸芸術館)、2016年「Brothers」(TKG、台北)など。秋田公立美術大学ビジュアルアーツ専攻教授。

■ラジオ配信+イベント
「震災以降のぼくらについて」
※公開、入場無料
日 時:2019年7月12日(金)19:00~21:00
会 場:アラヤイチノ(秋田市新屋表町8-11)
ゲスト:小林太陽(美術家)
ゲストプロフィール:
1995年東京都生まれ。2016年、国際基督教大学在学中に、ゲンロン カオス*ラウンジ新芸術校第2期に参加、現代美術に初めて触れる。キャラクターなどの第3者を媒介に、作家自身と他者との関係性をテーマにした映像作品を制作。また、作家活動と並行して東京・西荻窪にあるスペース「画廊跡地」(旧・中央本線画廊)の企画運営を行っている。主な参加展に2019年「お前からはいつだって予感がする」(画廊跡地)、2018年「破滅*アフター」(六本木ヒルズA/Dギャラリー)、「カオス*ラウンジX ポタティックドリーム 実質ヴァーチャルの冬」(中央本線画廊)。

■ラジオ配信+イベント
<レクチャー>「大衆歌とプロパガンダ」
※公開、入場無料
日 時:2019年7月13日(土)16:00~18:00
会 場:秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT
ゲスト:辻田真佐憲(作家・近現代史研究者)
ゲストプロフィール:
1984年、大阪府生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院文学研究科中退。政治と文化芸術の関係を主なテーマに、著述、調査、評論、レビュー、インタビューなどを幅広く手がけている。著書に『天皇のお言葉』『大本営発表』『ふしぎな君が代』『日本の軍歌』(以上、幻冬舎新書)、『空気の検閲』(光文社新書)、『文部省の研究』(文春新書)、『たのしいプロパガンダ』(イースト新書Q)などがある。監修に『満洲帝国ビジュアル大全』(洋泉社)など多数。

2つの「高砂」をつなぐ“うた”が、場所や時間を超えていく

■企画趣旨
磯崎未菜は、出向いた土地の人々とかれらの生活・かれらの居る風景を研究しながら、その土地の現在に沿った新しい“うた”を作っています。その“うた”は土地の伝統を守り育てるためのものでもなく、誰に届くのか・その時には意味があるかどうかもよく分からない、一見すると非生産的な活動に見えるかもしれません。
正攻法では立ち向かえないような、やりきれない状況に置かれた時、そこから抜け出すにはどのような方法があるのでしょうか。磯崎は、労働歌や子守唄など、厳しい現実から逃れていくための“うた”の研究を出発点としながら制作を続けています。ここで“うた”は、日常生活とは別のルールにのっとることで少しの間だけ逃げ場やゆとりをつくりだす「遊び」の一つとして機能するでしょう。特定の「あなた」のためにも、まだ顔も名前も知らない「誰か」のためにもなりうる“うた”が、場所も時間も越えて届く可能性を、本展覧会で探ります。

■作家ステートメント
昨年私は、宮城県の仙台駅から東方約10キロに位置する、海岸沿いの土地の”うた”を作りました。
その土地の名前は「高砂」といいます。高砂地区のなかでも沿岸部に位置する蒲生北部地域は、東日本大震災で大きな被害を受け、なお津波の危険性が高いと想定されることから、仙台市によって災害危険区域に指定されました。ここに人が住居を構えることはできなくなりました。土地の名前も失くなってしまうかもしれないそうです。
現在も区画整備工事が進んでいる七北田川左岸の、真っ白な防潮堤と新しい道路の狭間には、2体のお地蔵さんが建っています。その風景を初めて見たとき、私の身体はちょっと圧倒されてしまいました。なにかがどうしても不思議な風景なのです。
「高砂」という名前の由来は、兵庫県にある地名「高砂」にあるそうです。地形や、川の流れが似ていて、土地の名前が転写されたようです。東北の「高砂」が失われそうになっているいま、私は、ふたつの「高砂」の行き来を可能にする橋を架けるような表現はできないだろうかと思いました。こちら側からあちら側へ呼びかけ、その声に応答するような”うた”はできないだろうか。
そんな興味を抱きながら、今度は兵庫県の「高砂」にやって来ました。
なんとも立派な神社があります。ここには能舞台もあります。世阿弥が作ったと名高い謡曲《高砂》の土地として、ご存知の方も多いかもしれません。
二つの場所をつなぐために、この《高砂》というお話にヒントをもらいながら、誰か、もしくは私、を呼ぶ小さな声について、考えてみたいと思います。(磯崎未菜)

(2019.6.3プレスリリース)

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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