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ヒマティーン・トリップ2023 旅日記

秋田公立美術大学は、2023年度から11〜15才を対象にしたワークショップを開催しています。その一つが、その日出会ったメンバーと共に旅に出る「ヒマティーン・トリップ」。2023年度は3カ所を旅しました。その様子をレポートします。

ヒマティーン・トリップとは

「ヒマティーン・トリップ」は、旅をしながら、”ヒマ(日間)”な時間を過ごし、感性を育むプログラムです。こどもたちがその日出会ったメンバーと共に、考え、伝えあい、相談しながら、当日発表される秋田県内のとある場所を旅します。

チームメンバーと一緒に、おしゃべりをしたり、地域の人と交流したり、散策をしたり、いつもとは少し違うドキドキな一日を過ごします。ヒマティーン・トリップには秋田公立美術大学の学生も参加しますが、先導したり、なにかを決定したりするリーダーのような役割ではなく、一緒に旅をするメンバーの一員です。

2023年度は秋田県内の3カ所を旅しました。その様子をお届けします。

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思いつきもやっちゃおう 9月10日 Aコース

最初の旅に集まったメンバーは8人です。集合場所の秋田駅に集まったこどもたちはどこにいくのだろうと緊張した面持ちでした。
真っ青な空が広がる絶好の旅日和。いよいよ旅のはじまりです。こどもたちは行き先を告げられないまま、切符を渡されて電車に乗り込みました。初対面のメンバーに最初はみんなぎこちない様子でしたが、電車の中で自己紹介や絵しりとりをしていくうちに、徐々に緊張がほぐれてきたようです。

スタッフから「次の駅で降りますよ」と告げられ、降り立ったのは大仙市の「大曲駅」。電車内で発表された2つのチームには、周辺の地図とレンズ付きフィルム(使い捨てカメラ)が配られ、再集合の時間とスタッフが常駐している「秘密基地」の場所が伝えられました。そして、いよいよチームごとに大曲駅を出発です。

さて、スタッフが待機している秘密基地に早速1組のチームがやってきました。散策に出る前に秘密基地の場所を確認したかったとのこと。この秘密基地はかつて喫茶店で、現在はシェアキッチンとして貸し出されている場所です。3人のメンバーはカウンターの中に入ったり、カウンターに座ったりして、お店屋さんの雰囲気を楽しんでいました。

すると突然、「お昼ご飯をここで作って食べてもいい?」とこどもたち。旅先では散策で見つけた現地のお店で昼食を食べることを想定していたのですが、こどもたちのやりたいことはいとも簡単にスタッフの想定を超えてきます。

秘密基地のキッチン使用許可はもらっていたので、このチームは近くの地元の肉屋とスーパーに買い出しに行き、キッチンでカツ丼とイクラ丼を作ることに。自分達で食材を選び、試行錯誤しながらみんなで作った丼ぶりにメンバーは大満足。ご飯を食べた後は商店街のお店で購入した水鉄砲を持って散策に出掛けていきました。

もう1組のチームは、まず商店街でシャボン玉を手に入れました。その後、みんなでルートを相談しながら、川沿いや神社など周辺を散策して街並みを堪能したり、シャボン玉を吹いてみたり。大仙市は大曲の花火で有名だということで、花火伝統文化継承資料館「はなび・アム」も立ち寄ったようです。

秘密基地で一休みした後、昼食は近くのお店へ。そのお店が混雑していて料理の提供に時間がかかったため、ジュースをサービスしてもらったことや、注文したラーメンがとても大きかったことなどを、帰りの電車の中で意気揚々とこどもたちはスタッフに教えてくれました。待っていたヒマ(日間)な時間はみんなでカードゲームをして楽しんでいたそうです。

とても暑い日でしたが、途中秘密基地で涼みながら、それぞれのチームで相談し合って、充実した時間を過ごせたようです。最初に渡したレンズ付きフィルムにはたくさんの思い出が詰まっていました。

急な雨でも旅なら楽しい 10月1日 Bコース

2回目の旅に集まったのは11人。その中にはAコースで一緒に旅に出たメンバーの姿もありました。約1ヶ月ぶりの再会で「また会えたねー」と挨拶を交わし、新たに集まったメンバーと共に、今回もこどもたちは行き先を聞かされないまま電車に乗って出発です。今回は3チームに分かれて旅をします。

スタッフに降車を促され、降りた駅は由利本荘市の「羽後本荘駅」です。今回はAコースと異なり、二つの目的地があり、その一つ目が羽後本荘駅でした。
1時間後に再集合することとし、メンバーは羽後本荘駅周辺の地図とレンズ付きフィルムを持って散策に出かけます。限られた時間でしたが、各チームは地図を駆使し、相談して、由利本荘市文化交流館「カダーレ」や本荘駅前市場、近くの神社など駆け足で巡ってきたようです。

1時間後に羽後本荘駅に再集合したメンバーたちには由利高原鉄道の切符が手渡され、スタッフから今回の最終目的地は由利本荘市の山あいにある「矢島」だと告げられました。乗り込んだ由利高原鉄道の電車は秋田おばこ姿のアテンダントが乗務している「まごころ列車」。田んぼ、山、川。車窓にはのどかな風景が流れていきます。

到着した目的地の矢島駅では、ホームでかかしコンテストが開催されていて、手作りかかしがお出迎えしてくれました。
矢島駅に到着したのはお昼時。再集合の時間と秘密基地の場所が伝えられると、各チームは早速地図を片手に昼食を食べるお店を目指して出発していきました。

ところが、羽後本荘駅を散策していた時にはあんなに晴れていた空が、段々と雲行きが怪しくなってきます。それぞれ違うお店で昼食をとり、散策をしていた各チームですが、秘密基地へ集まってきました。今回の秘密基地はおばあちゃん家のような古民家です。全チームが到着したタイミングで激しい雨が降り出しました。

雨宿りをしながら、メンバーは畳の部屋でカードゲームやオセロ、カルタなどをしたり、おやつを食べたりして残りの時間をゆっくりと過ごしました。
帰りの電車の時間が迫ってきた頃には雨が止み、またチームに分かれてそれぞれ駅へ向かうことに。途中、駄菓子屋さんに寄り道をしたり、駅舎でアイスクリームを食べたりしながら、電車の時間ギリギリまで楽しんでいるようでした。

電車に乗り込むと「帰りたくないなぁ。今度は泊まりででかけたいなぁ」という旅の終わりを惜しむ声が上がります。帰りたくないと思えるくらい良い時間が過ごせたようです。今回もレンズ付きフィルムにはたくさんの思い出が刻まれました。

やりたい人がやりたいことを 11月12日 Cコース

3回目の旅に出たのは14人です。A、Bコースに参加し、Cコースにも参加した顔見知りのメンバーたちが「また会えたね!」と挨拶し合っている姿を見て、集合時には初参加のメンバーが少し不安そうにしていました。しかし、集合場所から数分歩き、改札に着く頃には小さなグループがいくつもできあがっていました。

今回も電車で移動します。降りたのは、潟上市にある無人駅の「出戸浜駅」。切符は回収BOXに入れました。Cコースは今までの2回とは異なり、秘密基地が最終目的地です。駅を降りて2つのチームに分かれ、秘密基地までのヒントが書かれた文字だけの暗号地図とレンズ付きフィルムを手に目的地に向かいました。

暗号をメンバーと悩みながら解いていき、迷いながらも無事に2組とも秘密基地に到着。この秘密基地には、キッチンに加え、屋根付きのBBQ設備、隣には多目的ホールもあります。今回はそこで自分たちでお昼ご飯を作って食べます。

メニューは豚汁、焼き芋、味噌たんぽ、おにぎり、フランクフルト、焼きマシュマロ。まずは炭の火おこしから。やりたい人がやりたいことをやり、協力しながらメニューを完成させていきます。みんなで作ったご飯は美味しく、こどもたちはおかわりしてたくさん食べていました。

昼食後はそのまま炭火の周りでおしゃべりしたり、卓球をしたり、周辺散策に出かけたりと自然発生した小さなグループでのんびりと時間を過ごしました。

この日、スタッフはA、Bコースでレンズ付きフィルムで撮った写真を、現像して持っていきました。写真を見ながら、こどもたちは次はどこに行きたいか、何をしたいかなど話して盛り上がっていました。

あの日の思い出を閉じ込めて 番外編

3回の旅でメンバーがレンズ付きフィルムに納めた思い出を元に、スタッフはZINE(個人やグループが自由な手法、テーマで制作する冊子)を制作しました。そのZINEのメンバーに向けたお披露目会を、3月10日(日)に秋田市文化創造館で行いました。

ヒマティーン・トリップに参加したこどもたちは、携帯やデジタルカメラで撮った写真をその場ですぐに見られる時代に生まれたため、レンズ付きフィルムで写真を撮ることや自分が撮った写真を現像して後日見ることは、ほとんどのメンバーにとって初めての経験でした。

集まったメンバーたちは、現像された写真がプリントされたZINEを見て、あの日の思い出がよみがえってきた様子です。写真はちょっとピントがボケているもの、フラッシュをたかず真っ黒なもの、間違ってシャッターを押したのか変な角度で撮影されているものも。こどもたちはレンズ付きフィルムならではの雰囲気を味わい、思い出を語り合いながら、シールやペンでデコレーションしたり、写真をコラージュさせたりして、自分オリジナルのZINEを完成させていました。

ZINE制作協力:秋田市地域おこし協力隊で秋田公立美術大学卒業生 平石かなたさん

担当教員よりメッセージ

信頼できる大人といかに出会うのか

日常の中で出会う大人、親、兄弟、親戚、保護者、先生、そして地域の人。
10代に入り、子どもたちは自分で動くようになり、自分の興味・関心・好奇心でこれまでの関係を広げ、新しい外部の大人と出会うことになります。その時に、信頼できる大人と出会ってほしいのです。 与えられたプログラムを無難にこなし、ほめられる。それではなく、怒られるかもしれないけれど、自分の感情の違和感に向き合い、自分を疑いながらも認め、自ら行動しようとすること。それを許し、共に楽しみ、共感を得ようとする大人との出会いが大切だと考えます。

ある瞬間、「これ、やってもいいんだ!」という気づきに出会った時、人は変わり始めるのだと思います。 新しいこと、未経験なこと、無理なこと、無茶なこと、予想できないこと、それに取り組もうとする態度そのものが大切だと考えます。これからの時代を生き抜くために必要な力は、様々な出会いと体験を重ね、幾重もの感覚や感情を動かすことによって育まれてゆくものです。

その機会をいかに形にすることができるか。それが問われています。
このプログラムはまだまだ未完成で、むしろ未完成がゆえの可能性を秘めていますが、参加者のあらゆる行動、活動を受け入れる寛容性、柔軟性、そしてイメージする力、動く力、そんなことに出会うプログラムであってほしいと願っています。
(担当教員:藤浩志)

Profile プロフィール

美術作家・秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻教授

藤浩志 Hiroshi Fuji

普段は空き家や廃材なのを使って空間作りをしたり、地域に新しい活動を作り出すアートプロジェクトの仕組みづくり、デモンストレーションとなる展覧会やプロジェクトを全国各地で実施しています。ヒマティーン・トリップでは予定とやることでギチギチの子どもたちに美大生とゆる〜く過ごす時間の旅を提供したいと考えています。クリエイティブな活動はあらゆる隙間から発生するのではないでしょうか。 https://www.fujistudio.co/

2024年度の募集は7月下旬予定!

2024年度も、ヒマティーン・トリップを9〜11月に実施します。
募集開始は7月下旬の予定です。
“ヒマ(日間)”を楽しみたい人、秋田県内のどこかを旅してみたい人、ぜひ、一緒に旅に出てみませんか。

Information

クリエイトブラボー ヒマティーン・トリップ

■事業名:クリエイトブラボー ヒマティーン・トリップ
■対象定員:11〜15才 / 各回 15名程度
■主  催:秋田公立美術大学
■担当教員:藤浩志(秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻教授)
■企画運営:NPO法人アーツセンターあきた
■お問い合わせ:NPO法人アーツセンターあきた (担当:小野)
[TEL]018-888-8137 (受付時間平日9:00-17:00)
[E-mail]createbravo@artscenter-akita.jp
[WEB]www.artscenter-akita.jp

ヒマティーン・トリップFAQ
クリエイトブラボーInstagram

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

武藤沙智子

秋田県生まれ。大学卒業後、航空会社系旅行会社で営業・企画・販売推進などの業務に従事。47都道府県を巡る旅好き。
奈良、宮城、大阪、千葉、埼玉と移り住み、2019年に秋田市の地域おこし協力隊 移住定住コーディネーターへの応募をきっかけに帰秋。退任後は民間企業を経て、2022年から2024年まで在籍。あきた発酵伝道師一期生。現在は発酵食品、伝統食、伝統工芸に興味を持っています。

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