7月、2週間に渡り開催した、1/1000油谷コレクションの分類整理活動。
浅舞の油谷さんのご実家の片隅で埃をかぶっていたたくさんのモノたちが、文化創造館スタジオAに搬入されて、一つひとつ埃を払い磨れたとたん、モノが目覚めて語り出す…
モノの由来を知ったり、当時の生活を窺い知るという面白さ、
モノを媒介として人のつながりが生まれてゆく不思議さ。
そんな出来事が、期間中いくつもありました。そのエピソードのいくつかをご紹介できればと思います。
息を吹き返した活版印刷機
浅舞の倉庫の入口に鎮座していた、一台の活版印刷機。
埃をかぶり、長年眠っていたことがわかる風貌・・・。
油谷さんの話によると、ポケットティッシュの差し込み広告のご商売をされていた時期があり、油谷さん自ら購入されたとのこと。商品に取り付けられた金属タグには「自動フート印刷機Super Ace/岩橋栄進堂/昭和44(1969)年製造」と記載されています。また、印刷機の足元には、活字の入った木箱もいくつか見つかりました。
大人4人でやっとのことで持ち上がる重たい機材を、トラックに乗せ持ち帰ることになりました。




倉庫の事前下見の時から印刷機に着目していたスタッフの大村香琳さん、意気揚々です。

古くなった油を台所用洗剤で落とし、新たに油をさしてみると… 動いた!!!
大村さんのインスタ日誌より(https://www.instagram.com/aburaya.aca/)
本来は電動だがひとまず手動で歯車が回った。
残されていた版は「油谷これくしょん」仕様の油谷さん名刺。
即席ではんこ用インクをつけ印刷をしてみると…ちゃんと凹凸のついた印刷に!
搬入から1週間、色々な人が磨き続けたおかげです(親子ボランティアのNさんが数時間かけて磨いてくれた)。
油谷さんも「やっぱり動く方がいいね」。
ボランティア、スタッフ、会場にいたみんなで喜びを分かち合いました。
かくして、手動でなんとか動くところまで復活した活版印刷機。
さらに電動での復旧の可能性をさぐるため、文化創造館でいったん保管しながら手立てを探すことになりました。
秋田活版印刷株式会社の木村さんにご相談したところ、さっそく調べてくださり、いろんなことがわかってきました。
「Super Ace」という印刷機は広く普及していた機種で、秋田県内でも小規模な印刷所で活躍していたこと。製造元の岩橋栄進堂は2020年頃に廃業されていることが判明しましたが、部品交換などが必要な場合も、残っている機材から部品手配できる希望は持てるとのこと。まずは通電して動くかどうかを確認するため、土崎の穴山電機工業所の江畑さん、佐々木さんと一緒に、印刷機の様子を見にきてくださいました。
漏電の恐れなどないか慎重に確認したあとコンセントを繋ぎ、スイッチを押すと、ゆっくりと動き始めました… 思わず拍手! 「(こうして動いたのは)きれいに磨いた成果だね」と穴山電機の江畑さんが目尻がほころばせ、大村さんを労ってくれました。


つながる、ひろがる
その後、モーターの状態や印刷の一連の動きを詳しく診ていき、一部部品の交換を行えば、ふたたび稼働できそうなことがわかってきました。ただ…やはりそれなりに大きな金額がかかります。
復活させたとして、活版印刷機を活用してどんなことをやりたいだろう、どんなことができるだろう。と、あれこれ思案していた、そんなある日。
秋田市内で活版印刷事業をスタートさせた印刷屋さんがあるというニュースが飛び込んできました。卸町にある印刷所、フロム・エーにご連絡してみたところ、作業場を見学させてくださるとのこと!大村さんとお邪魔してきました。担当の藤原さんが見せてくださったのは、永井機械製作所の「手フート印刷機 NGI」。
社長さんが個人的に購入され保管されていたものだそうで、藤原さんの提案で半年前から名刺などのオーダー印刷をスタートさせたのだそうです。ちいさなイラストの樹脂凸版を機械に取り付け、お試し印刷体験させていただきました。
藤原さんも「この楽しさをいろんな人に体験してみてほしくて、いつかワークショップを開催できたら、とも考えています」とおっしゃっていました。



そんな私たちのヒミツの活動を知ってか知らずか、さらに油谷さんから驚きのお電話が…
「横手の友人から、手動の活版印刷機を譲りたいという話があるんだが、興味あればもう少し詳しく聞いてみるけれども、どうだい?」
…つづく(?!)
Information
1/1000油谷コレクション
油谷満夫さんの私蔵民具等の1000分の1程度を倉庫から取り出し、アーティストと市民ボランティアによる分類整理と、多様な分野の専門家による価値検証が並走するアートプロジェクト。
開催期間:2024年7月~
開催場所:秋田市文化創造館ほか
主催:NPO法人アーツセンターあきた
監修:服部浩之
参加作家:藤浩志、國政サトシ
協力:油谷満夫
助成:公益財団法人野村財団