「me all」と「meal」を掛けた造語で表現された展覧会タイトル『me:all*meal』。「私は光を食べている」と書かれたテキストを横目に薄暗い展示空間に入ると、そこには青色に染まった大判の布が所狭しと吊るされている。よく見ると一つ一つ色や模様が少しずつ違う。紫色もあれば漆黒という表現に近いものもある。何一つとして同じ表情はない。模様も曼荼羅とも違うし、絞り染めでもない。模様は勢いよく水飛沫のようなものもあれば、全体を覆うようなやわらかな円が重なるものもある。透ける布もあれば、分厚いものもある。それらを避けつつも少し肩に触れながら、少しずつ奥へと進むと明るい場所に辿り着く。床に森の中の木漏れ日が作り出すような光が当たり、有機的な影が落ちる。
佐藤は秋田の自然豊かな県南育ち。幼少期のころから布が身近にある環境で育ち、家にある布に針を通すことが遊びの一つだった。洋裁を嗜む祖母に服の作り方を学んでいき、布を縫いながら自身の創作意欲を育んでいったという。佐藤にとって布は身近な存在であり、大切な思い出との繋がりでもあり、美術大学という学び舎でいつしか自らのアイデンティティを自覚する存在となった。大学入学後も布や縫う行為に着目する作品を制作し続け、その一貫した活動はあまり学生の表現を追えていない私の耳にも入るくらい活発な印象がある。
今回、佐藤は布を「縫う」というこれまでの行為から離れ、コントロールできない自然物と関わり、布のみでどのように表現していけるかを試みたこととなる。
展示した布は、佐藤自身が床に敷かれた布に薬剤を塗装した後、氷を叩き割り、日光写真と呼ばれるサイアノタイプの技術を使って青く染めたもの。
制作したのは夏の強い光が漏れる薄暗く広い空間。砕かれた氷はじわじわと布の上で薬剤と交わりながらその姿を消失させる。佐藤は夏休みの誰もいない静かな大学の薄暗い空間の中で、一人黙々と薬剤を塗布し、氷を割り、布の変化と向き合う。太陽の光を吸い込みながら氷が溶けるのと同じような時間をかけてゆっくり青色が浮き出してくる。思うように色が出るかはわからない。どんな模様になるかはわからない。
まるで光を求める儀式のようだ。人間はどんなに文明を重ねても自然を扱うことはできない。多発する自然災害はコントロールできない。自然の中に人間がいることを感じ、まさに祈りと共にある。日照時間が少ないが農業が盛んな秋田では太陽の光はいつだって求められるものだ。光を浴びて安堵するという佐藤にとっても、光はまさにエネルギー。言い換えれば展示タイトルにあるmealにつながる。
布に薬剤を塗ると、光だけでなく、その時の温度、音、その時考えていたこと、全ての思いや環境が佐藤の持つ筆先を通して染み込み、やがて佐藤は布と一体化するイメージが浮かぶのかもしれない。染色家の志村ふくみは著書『一色一生』で、植物で染めた布の「色はただの色ではなく、木の精なのです。」という。それほど布は自然と共にあり、一瞬一瞬を大切にしながら身体を動かし染色する行為は命を宿す行為なのかもしれない。佐藤は布に自らの命を吹き込みながら、光で布を染め、光を求め続けた。
展示を観た後、目に入るのは遠くに見える蒼い山々と、茂る街路樹から日差しが差して揺れる木漏れ日。展示の様々な青色をリンクさせながら顔を上げる。できればあの布たちは少し窮屈そうだったので、もっと広いところでゆったりと観てみたいと思った。こんな木漏れ日と共にある場所で。
Profile プロフィール
Profile 作家プロフィール
作品撮影:草彅裕
Information
佐藤芽維個展「me:all*meal」
▼佐藤芽維 個展「me:all*meal」DM(PDF)
■会期:2024年8月17日(土)〜2024年9月8日(日)
■会場:秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT
(秋田市八橋南1-1-3 CNA秋田ケーブルテレビ社屋内)
■時間:9:00〜17:30
■主催:秋田公立美術大学
■協力:CNA秋田ケーブルテレビ
■企画・制作:NPO法人アーツセンターあきた
■お問い合わせ:NPO法人アーツセンターあきた
TEL.018-888-8137 E-mail bp@artscenter-akita.jp
※2024年度秋田公立美術大学「ビヨンセレクション」採択企画