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ひらかれた美術館を目指して―「みんなのキンビ」プロジェクトの2年目

県立近代美術館がしかける「みんなのキンビ」プロジェクト。2月8日(土)にオープンした、展覧会「笑う!はひふへほ展」オープニングイベントの様子をレポートします。

「みんなのキンビ」プロジェクトとは、秋田県立近代美術館が核となり、様々な機関や市民と連携し、秋田に暮らす誰もがアートを楽しみ、アートを通じてつながる地域づくりを目指す3カ年の取組みです。専門機関や学校、行政、近代美術館が連携し、「しかける」「うごかす」「のこす」「ふりかえる」の4つのプログラムを軸に通年で活動し、その成果展を開催しています。

「みんなのキンビ」プロジェクト
▼ 昨年度の成果展「からだじゅうで 味わう 大根ビネーション」展の様子
https://www.artscenter-akita.jp/archives/45821

取組みの2年目となる今年度は、キンビコミュニケーター事業、アート鑑賞プログラム、キンビ美術部等の多様な活動を実践し、その成果を企画展「笑う!はひふへほ展」の中で発表しています。

2月8日(土)に開催されたオープニングイベントでは、一般財団法人Arts Alive代表理事の林容子さんをファシリテーターに迎えた高齢者の方々を対象にした対話によるアート鑑賞会につづき、「誰もが、ずっと、その人らしくいられるためにアートができること」と題したトークイベントが開催されました。

少し遅れて会場に到着すると、いつもは静かな印象のある近代美術館の展示室内から、ワイワイとにぎやかな話し声が聞こえてきます。

会場内をめぐりながら、林さんのファシリテーションで、幾つかの作品について集まった皆さんとの対話が展開されます。例えば、「この絵に描かれた人は、何歳くらいに見えますか?」との林さんの問いに、参加者からは、描かれた手の皺に注目して「70代かな」、「私と似ているから80歳」などの意見が。静かにしなければいけない、知識がないと感想を述べることもはばかられるといった美術鑑賞の固定概念を覆し、参加者それぞれの視点が共有されることで、「そういう解釈もできるのか」と新たな発見を促します。

秋田公立美術大学(柚木恵介)「みんなのワハハプロジェクト」
キンビ美術部による作品展示

ワークショップの後には会場を変えて、トークイベントが開催されました。登壇したのは、今年度の「みんなのキンビ」プロジェクトを支えた3人。林容子さんと東京藝術大学の伊藤達矢教授は、今年度複数回開催された「みんなのキンビ研究会」で講演やワークショップを実施。美術家で秋田公立美術大学の藤浩志教授は、「みんなのキンビ」プロジェクト実行委員会の副会長を務めています。

1年間のプロジェクトを振り返りながら、林さんは、自らが実践されている対話型鑑賞プログラムの担い手養成講座「アートコンダクター養成講座」に、秋田県から2人が参加していることを紹介。今後秋田で継続できるようになること、そのための人材育成や体制整備の重要性を指摘しました。伊藤先生は、2019年の国際博物館会議(ICOM)京都大会における、ミュージアム(美術館・博物館)の国際的定義の再考に関わる議論の中で、豪州の専門家が「安心して話しをすることができるのがミュージアムである」と発言したことを例にだしながら、日常の中の非日常としてミュージアムが存在することや、そのコンセプトを再起動していくための取組みとして「みんなのキンビ」プロジェクトが機能していく可能性を話しました。また、藤先生は、美術館は“鑑賞する場”であるという役割に対して、「みんなのキンビ」プロジェクトが“表現をする場”としてひらかれているとし、「その人らしくいる」ことを自制する、抑圧する社会に対し、自分なりの価値観を生み出すことを認め、受け入れる場としての重要性を論じました。

「みんなのキンビ」プロジェクトの2年目の取組みの成果展、「笑う!はひふへほ展」は3月9日まで開催中。会期中は、週末を中心にさまざまなイベントが予定されています。

Information

「みんなのキンビ」プロジェクト企画
笑う!はひふへほ展

●会期:2025年2月8日(土)~3月9日(日)9時30分~17時(入館は16時30分まで)
●会場:秋田県立近代美術館5階展示室(横手市赤坂富ケ沢62-46)
●主催:「みんなのキンビ」プロジェクト実行委員会(事務局:秋田県立近代美術館)
●企画・トータルディレクション:澁谷和之(澁谷デザイン事務所)
●協働:藤浩志(秋田公立美術大学 教授・NPO法人アーツセンターあきた 理事)/安藤郁子(秋田公立美術大学 教授・NPO法人アートリンクうちのあかり 代表理事)/林容子(一般社団法人 Art Alive 代表理事)/秋田県産業技術センター/秋田協同印刷株式会社/一般社団法人 秋田県視覚障害者福祉協会
●助成:文化庁 令和6年度InnovateMUSEUM事業
●観覧料:一般500円(450円)、大学生以下無料
※高校・大学生は学生証提示が必要です。
※()内は20名以上の団体及びシルバー[70歳以上]の方々の料金
※本展の半券ご提示で、会期中は何度でも入場可能!

https://akita-kinbi.jp

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた 事務局長

三富章恵

静岡県生まれ。名古屋大学大学院国際開発研究科修了。2006年より、独立行政法人国際交流基金に勤務し、東京およびマニラ(フィリピン)において青少年交流や芸術文化交流、日本語教育の普及事業等に従事。
東日本大震災で被災経験をもつ青少年や児童養護施設に暮らす高校生のリーダーシップ研修や奨学事業を行う一般財団法人教育支援グローバル基金での勤務を経て、2018年4月より現職。

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