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鮮烈な色彩が語る記憶。BIYONG POINTで
南林いづみ作品展「ハミング」

2018.06.26

「記憶」をテーマに鮮烈な色彩で風景や草花を描く南林いづみ作品展「ハミング」が、秋田公立美術大学のギャラリースペース「BIYONG POINT」で始まりました。ビジュアルアーツ専攻に在籍する南林さんの油彩画、ドローイング、銅版画などを展示する作品展のオープニングトークをレポートします。

BIYONG POINTで始まった南林いづみ作品展「ハミング」では、ビジュアルアーツ専攻4年に在籍する南林さんの油彩画、ドローイング、銅版画など6作品を展示。会場に入った瞬間、あふれ出るように芳醇な色彩が現れます。

「制作したのは、風景やイメージと記憶との関係。忘れること、思い出すこと、繰り返すことから発生する風景やその発展」と語る南林さんが構成した大画面は、鮮烈な色彩の草花で埋めつくされています。一方、自らのイメージから生まれたという一人の男を描いた銅版画の連作は、不穏な気配を漂わせます。

初日である6月16日には、南林さんと秋田公立美術大学大学院・岡添瑠子さん(複合芸術研究科複合芸術専攻助手)によるオープニングトークが開かれました。記憶と色彩が織りなす世界観を語ったトークの模様をレポートします。

南林いづみ作品展「ハミング」オープニングトーク

ただ手を動かすことが、草花を描くモチベーション

岡添 最初に見て色のヴィヴィッドさに圧倒され、トロピカルな色に魅了されました。二次元と三次元の間を行き来するような作品。きれいなのだけれど、匂い立つような色の強烈さがちょっと怖い感じで、ともすれば死を浮き立たせるような印象を受けました。すごく形式化された花なのに、実物のように細かい部分が写実的であるかのようにも見えます。絵の具が汚く混ざっていない、クリアさが保たれていることも印象的でした。

南林 描くモチベーションは、テーマを設定するのではなく「画面を埋める」「手を動かす」「油絵の具をのせる」という作業に置かれています。そのモチベーションを満たすきっかけとして描き始めた花が、自分の手からどんどん発展して、いつの間にか作品として見てもらえる形になった。モチベーションはただ手を動かすことだけで、きっかけもほぼそれです。

岡添 そもそも花をモチーフにしようと思ったのはなぜですか?

南林 生まれ育った長野県の田舎では、植物に囲まれて遊んでいました。母は庭仕事が好きで、身の回りに花があふれていた。何気に見てきたということもあって、それが引き出しとして自分の中にあったような感じです。順番は逆かもしれないですが、花の絵を描くようになってから、身の回りの花をよく見るようになりました。花の形や花びら、どれくらい描き込むかといったことは自分の中からレパートリーとして出てきますが、ディテールが足りていない部分はその場で見る。それを繰り返す中で、大枠の形のレパートリーとディテールの形のレパートリーがどんどん重なってくるようになった。実在している花とは構造的には違っている花、みたいな感覚になるかと思います。

《3つのトロピカル(二つのトロピカルと一つの池のあるトロピカル)》

岡添 アトリエを訪ねたら、座って黙々と描いていて。でも離れて見ると統一感があって、色のバランスが取られている。

南林 描き方としては、薄い黄色で下の方からぶわっと線画のように描いてから塗っていきます。下の方から上にいって、もう一度塗るときには、何の花をイメージして描いていたかを忘れてしまうこともある。そういう時はディテールの様子を見たりして、色をその場その場で決めてく。キャンバスにすごく近い距離に立って描いているので、実在の花というよりは、この花の隣なら水色というような決め方で、たまに引いてバランスを見て色を決めています。

思いながら描いたのではなく、描いていて思い出した記憶

岡添 透明感のある絵の具での描き方について教えてください。

南林 キャンバスでは研磨に耐えられないこともあって、パネルを使っています。下地は地塗り材を何層も塗って研磨していて、画面はかなりすべすべで絵の具が染み込みづらい、乗りづらい状態にしています。その上に柔らかい筆で描くと絵の具の動いた跡がヌルッと残るので、それをより見やすくするために透明感の強い絵の具、ドロッとした質感や艶の出るオイルを使って描いています。絵の具の質感と透明感が両立できるように、あまり複雑な混色はしないようにして。

過去に自分が見たものの集積から引き出してくるというのが、シンプルに記憶というものとつながるのではないかと。ちょっと暗い、怖いイメージといった印象は、指摘されて初めて気づきました。そう気づいてから考えてみると、植物をぎっちり描いて画面を埋めること、カラフルな花を描くことについては過去の記憶に思い当たることがいくつかあります。

岡添 描いていくうちに記憶と結びつくのは必ずしも花や植物の記憶ではなくて、全く別のもの。

南林 小学生の時、通学路の近道に竹藪があって、それはすごい密度で竹が生えている細い道で。普段はトンネルのように楽しく通っていたのが、ある日、突然怖くなって走って転びながら抜けて、泣きながら家に帰った記憶があります。

それと、高校生の時に自転車で学校に通っている途中で甘い匂いのようなものがして、それが花屋さんの匂いだと思って辺りを見まわしたら、道の真ん中で猫がひかれて死んでいたっていう。花の香りと、そういうネガティブではないけれども、ちょっと強烈なイメージがつながったということが過去にあって。それを思いながら描いていたというのではなくて、描いていて思い出したという感じです。

ビジュアルアーツ専攻4年に在籍する南林いづみさん