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BIYONG POINT「MINE EXPOSURES / 鉱山の露光」 3本の無声映画フィルムを起点とした物語

レクチャー形式を用いた「語り」のパフォーマンスを行う佐藤朋子による展覧会「MINE EXPOSURES / 鉱山の露光」。鉱山の町として栄えた秋田の県北エリアをリサーチし、ドキュメントとフィクションを行き来して紡ぎだした物語とパフォーマンスについて語った、オープニングトークの記録です。

発見された3本の無声映画をもとに、資料館建設が計画された

「閉山した鉱山の廃坑道から、50年以上放置された無声映画のフィルムが3本見つかった。現在、このフィルムの発見を契機に、鉱山と映画に関する資料館の建設が計画されている。」

日本の近代化を支えた鉱山を題材に、解説から始まる展覧会「MINE EXPOSURES / 鉱山の露光」。レクチャーパフォーマンスという、レクチャー形式を用いた「語り」のパフォーマンスを行う佐藤朋子による空間は、建設計画中の資料館に設けられる予定の3つの展示室と3本の無声映画、鉱山にまつわる資料によって構成されています。

展覧会「MINE EXPOSURES / 鉱山の露光」は、2018年度「BIYONG POINT企画公募」に採択された
建設計画中の資料館に関する解説映像。佐藤による資料館に関するレクチャーと、活動写真弁士・片岡一郎による無声映画の上映が行われている(上映時間:45分)
3つの展示室に関する関連資料。展示室は発見された無声映画を軸に構成される計画

鉱山で栄えた秋田県の県北エリアでリサーチを重ねて紡ぎだした物語は、活動写真弁士・片岡一郎による無声映画の上映と佐藤自身による解説映像とで露わとなり、鉱山にまつわる資料展示とかけ合わせることでフィクションとドキュメントを行き来する空間を作り出しています。

初日である8月30日に行われたオープニングトークでは、佐藤の表現手法であるレクチャーパフォーマンスについてと、50年以上放置された3本の無声映画が発見されたという架空の物語から始まる展覧会について語りました。

レクチャーパフォーマンスを表現手法とするアーティスト・佐藤朋子

レクチャーパフォーマンスの起源は?

佐藤によるトークでは、まずは自身の表現手法であるレクチャーパフォーマンスについて解説しました。

「私が修了制作で題材とした説経節の『信太節』は、狐が人間の女性に化けて恩返しをしたが正体がばれて山に帰った悲劇の物語。これを岡倉天心がアメリカで上演しようとして未完に終わったことを知って、私も架空の物語を設計してレクチャー形式のパフォーマンスとして表現しました」

狐の伝説「信太妻」をレクチャーパフォーマンスで語り直した「しろきつね、隠された歌」(2018)

「レクチャーは聖書を読み上げることが起源という説があり、現代美術の文脈でも、ロバート・モリスの『21.3』(1964)などがレクチャーパフォーマンスの代表例としてあげられます。説経節には、節がついているのでより音楽的、芸能的ですが、レクチャーパフォーマンスと親和性が高いのではないかと個人的に思っています」

リサーチして出会った鉱山の痕跡をもとに

秋田での鉱山との出会いは、2018年の「旅する地域考|AKIBI 複合芸術プラクティス」がきっかけでした。

「小坂町や大館市で小坂鉱山や尾去沢鉱山、花岡鉱山などを見ました。その中で、小さな鉱山の町の山の中に突然、当時としては珍しい近代建築の建物が現れるのがとても奇妙で、面白さを感じました。山奥なのにこんな洋館があるのかと驚いて調べたのが始まりでした。そして大館市を歩いていて御成座という映画館を見つけ、鉱山の町でも、活動写真弁士が活躍していたことを知りました。私が行うレクチャーパフォーマンスと活動写真弁士の語りという、2つのアプローチから鉱山の物語を展開すれば、新しい形ができるのではないかと思いました」

鉱山の町に残る“出来事の痕跡”をもとに創作したシナリオは、資料館建設という設定が始まりとなります。

「無声映画のフィルムの発見を機に出てきた建設計画という物語の台本を書き、片岡さんが3つの映画を選んで、それを受けて書き直し、解説映像ができました。活動写真弁士との二人語りの実演によってフィクション(創作)とドキュメント(事実の記録)を行き来する映像作品は、小坂町の康楽館で撮影したものを再構成したものです。映像に加えて、鉱山にまつわる資料を展示することで、見る人が自分で選択的に情報を選んで資料館を立体的に想像できたらと思いました」

フィクションを体験すること、物語を体験すること

オープニングトークの参加者からは、フィクションであることが分かりにくい展覧会の展示手法について質問がありました。

「作品がフィクションであることを言うか言わないかはいつも考えていて、私の課題です。嘘つきかもしれないけれど、フィクションを楽しんでほしいというよりは、身近なこと、自分自身に関係があることとして物語を体験してほしいという気持ちで、そのためにフィクションだと言わない、という選択を今はとっています。出会ったこと、出来事を忠実にドキュメントとして書こうとしても、結局は私というフィルターを通して見たものであって忠実に記述することはできない。そうであれば、ひとつの物語体験として伝えることで複数の出来事を伝えることができたらと思っています。フィクションであるというただし書きを入れないことにはリスクと暴力性があるかもしれませんが、今はこういうように実践し、物語を届けたいと思っています」

日本の近代化を支え、繁栄した鉱山の町に残る“出来事の痕跡”をもとに構成した展覧会「MINE EXPOSURES / 鉱山の露光」は、11月4日(月祝)まで。10月20日(日)には、佐藤がレクチャーパフォーマンスを上演します。その後、インディペンデント・キュレーター 服部浩之(秋田公立美術大学准教授)とのトーク「ドキュメントと創作(フィクション)について」を開催。佐藤が本展でチャレンジしたことを作家自身から聞ける貴重な機会となります。ご期待ください。

Information

佐藤朋子「MINE EXPOSURES / 鉱山の露光」

チラシダウンロード(PDF)
■会 期 2019年8月30日(金)〜11月4日(月祝)9:00〜18:00
■観覧料 無料
■閉館日 9月14日(土)、15日(日)
■会 場
秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT(秋田市八橋南1-1-3 CNA秋田ケーブルテレビ社屋内)BIYONG POINT
■主 催 秋田公立美術大学、NPO法人アーツセンターあきた
■協 力 CNA秋田ケーブルテレビ、東京藝術大学大学院映像研究科、RAM Association、和田信太郎
■出演・映像資料協力 片岡一郎(活動写真弁士)
■助 成 秋田県芸術文化振興基金助成事業

【関連イベント】
ギャラリーツアー+オープニングパーティ
■日 時 8月30日(金)18:00〜20:00
■会 場 BIYONG POINT

レクチャーパフォーマンス+トーク
■日 時 10月20日(日)18:00〜20:00
■会 場 BIYONG POINT
■内 容
①佐藤朋子によるレクチャーパフォーマンス
②トーク「ドキュメントと創作(フィクション)について」
登壇者:佐藤朋子、服部浩之(秋田公立美術大学准教授)

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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