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パフォーマンスを展覧会に落とし込むことの意味 「MINE EXPOSURES / 鉱山の露光」

レクチャー形式を用いた「語り」のパフォーマンスを行う佐藤朋子の展覧会「MINE EXPOSURES / 鉱山の露光」。10月には日本の近代化を支えた鉱山を題材にドキュメントとフィクションで紡ぎ出したレクチャーパフォーマンスとトークを繰り広げました。2019年度BIYONG POINT企画公募の採択作品。

秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINTにおける2019年度企画公募の採択作品である佐藤朋子「MINE EXPOSURES / 鉱山の露光」(2019年8月30日〜11月4日)。会期終盤の10月20日には、佐藤朋子によるレクチャーパフォーマンスと、インディペンデント・キュレーター服部浩之(秋田公立美術大学准教授)とのトークが繰り広げられました。リサーチを重ね、レクチャーパフォーマンスを空間に落とし込んだ展覧会は、どんな効果をもたらしたのでしょうか。当日の記録を通して、展覧会を振り返ります。

資料館建設計画を解説するパフォーマンス

「MINE EXPOSURES / 鉱山の露光」は、佐藤が前年から行ってきた小坂鉱山や花岡鉱山、尾去沢鉱山などのリサーチをベースにした展覧会。ドキュメントとフィクションを行き来することで、閉山した鉱山の廃坑道から無声映画のフィルム3本が発見され、鉱山と映画に関する資料館の建設が計画されているというストーリーを紡ぎ出しました。この日のレクチャーパフォーマンスは、佐藤がアーティスト活動の傍ら、リサーチャーとして資料館建設計画に関わっているという設定で始まりました。

リサーチャーの立場から建設計画を紹介し、観客に資料館の今後の可能性を考えてもらうパフォーマンス

閉山した鉱山で発見されたのは、無声映画フィルム『The Haunted House』(1908)、『日露戦争実写』(1904)、『カリガリ博士』(1920)の3本です。日本の近代化を支え、無声映画をはじめ技術や文化がいち早く入ってくる場所だった鉱山と、鉱石を採掘することで想像上のものを作り上げていく現代のゲーム『マインクラフト』。そこに佐藤は、小坂鉱山や花岡鉱山、尾去沢鉱山の歴史や伝説、フィクションを織り交ぜてストーリーを展開していきます。

かつて無声映画を上映する際に、異国の文化や言語、スクリーンに登場する人物に声を付け解説していたのが活動写真弁士でした。この日のレクチャーパフォーマンスでは、活動写真弁士・片岡一郎の語りによる3本の無声映画を上映し、その合間に佐藤が解説を加えていきました。

鉱山で上映された無声映画で活躍していたのが活動写真弁士。異国の文化や言語、スクリーン上の人物や異界の存在に声を付け、解説する

「ドキュメントと創作(フィクション)について」

レクチャーパフォーマンス終演後には、「ドキュメントと創作(フィクション)について」と題して佐藤朋子とインディペンデント・キュレーター 服部浩之(秋田公立美術大学准教授)とのトークが繰り広げられました。コーディネーターはNPO法人アーツセンターあきたの岩根裕子。パフォーマンスを展示空間に落とし込んだ意味に迫ったトークの記録です。

シナリオによって展開する、映画的な展示空間

岩根 佐藤朋子さんは「旅する地域考」で秋田の県北地域をリサーチして、小坂町の康楽館では活動写真弁士の片岡一郎さんを迎えてパフォーマンスをして撮影し、それらをBIYONG POINTの展示空間に落とし込みました。そして今回、会期中にレクチャーパフォーマンスをおこなうという複雑な構成になっています。佐藤さんにとっては、展覧会としてどう展開していくかが課題だったと思います。まずはご覧いただいての感想をお聞きしたいと思います。

服部 BIYONG POINT企画公募にご応募いただいて、今回の展覧会とパフォーマンスが実現しました。コンペの時にも話題になったのですが、これまでの佐藤さんの活動を見ると、これを展覧会として展開する必然性はあるのだろうかという疑問がまずありました。そこが僕は、実はピンときていなかったんです。パフォーマンス的なものをどう作品に落とし込めるのか、どう展示に実践できるのかを佐藤さんが強く語られていた印象があって、それを見てみたいというのがコンペでの印象でした。

実際、今回の展示はすごく面白かったです。想像以上でした。すごくクリアに作られているんですが、これを実現させるにはやはり時間が必要だったんだなと思いました。明らかに、かけられている時間がある。深みがあると思いました。「旅する地域考」に参加して、鉱山や活動写真弁士に注目したという前段階があって、そこからもう一段進めていった。康楽館でライブをやって、そこからさらに展示へと展開していく。そんな時間のレイヤーがあって、それぞれの意味が見えてきたのも良かったです。それは展示が展示として成立していたからだと思います。極めて映画的だなと思ったところもありました。シナリオに沿いながらも、シナリオを意識させないように展開している。どうしてそんなに気づかないかたちになっているのかなとも思いました。3本の無声映画の選び方も良かったと思います。日本やドイツなど違う場所、違う時間のものがシナリオによってひとつの層に繋がっていて、そこが真実味を持たせたと思いました。何より、シナリオがよくできていましたよね。当初、展示に落とし込む意味を問うていたものが、展示として見られるかたちに実現したことが印象に残りました。

服部浩之(秋田公立美術大学准教授)
佐藤朋子

事実とフィクションの複雑な往来が紡ぐもの

服部 映画は3本とも佐藤さんが選んだのかと僕は勘違いしていましたが、片岡さんなんですね。佐藤さん自身が選んだと思わせるほどシナリオの展開がすっきりしていましたし、この3本について腑に落ちました。無声映画である根拠は明確にあったんですね。

展示するという問題について思ったことなんですが、レクチャーパフォーマンスをすると、佐藤さんがパフォーマンスで語っていることがすべて真実だと思われて、「嘘ついていたの?」と言われることがあると話していましたよね。展示という形式は、実はフィクションが入れにくい形式なのかなと思いました。結構、事実だと思う人が多いと思うんですよ。それは、資料として見せる博物館的な展示の形式を借りているということもあると思うんです。博物館というものに対して人は、事実の資料が置いてあること前提で見ると思うんですね。この設定自体がよりフィクション性を見えなくして、だから博物館とか展示ということの問題や可能性、展示がはらむもの、あるいは事実とは何かを静かに語りかけていて面白いなと思いました。具体的な土地をリサーチして活動写真弁士というリアルな存在が出てきて、事実をベースにつくられてはいるが物語あるいはフィクションである、ということの複雑な往来が面白く機能しているなと思いました。

ひとつの物語として

佐藤 オープニングの時に、「フィクションであることを最初に言ってしまった方が、安心して物語を見られるのでは」という意見をいただいて、私自身も確かに物語にとってはそうかもしれない、と思いました。ですがある事柄についてリサーチする時に、図書館にある本だから信用度が高いと思って読んでみると、情報が本によって違う事があります。台本を書く時には、どれが今伝えたい情報なのかを自分で選ばなければいけませんでした。事実として書かれたことも、誰かのフィルターを通って伝達されていますし、今はフェイクニュースに代表されるように創作が事実のように報道されていることを思うと、「フィクションです」と言ってしまうとその強さに負けてしまいそうで、できませんでした。

服部 僕は先ほども言いましたがある意味、映画っぽいなと思って展示を見ました。映画のように捉えると何が真実なのかあまり気にならなくなって、ひとつの物語として見えてくるところがあって。何層かのレイヤーがあることが面白いですね。佐藤さんは、展覧会をつくるだけでなく、どうしてさらにパフォーマンスしようと思ったんでしょうか?

佐藤 実際に展示をしてみると、鑑賞者は見るものを自分で選択できるし、パフォーマンスのようにアーティストと鑑賞者が対面するよりも鑑賞者が無責任でいられるのはいいなと思いました。展示している映像は45分あることもあり、語っている内容は、展示物とともにもっと断片的に届いているような気がしています。そして再度、言葉を直接始めから最後まで届ける時間がほしいと思いました。そこで、展示している解説映像のレクチャーパフォーマンスをそのままやるのではなく、展示している状態を内容に含めて再度レクチャーをする、という体をとりました。

服部 始まりがあって終わりがあるパフォーマンスを見ているという感覚はありました。ここの空間は暗くしていて、展示空間の明るさとのコントラストもよかった。展示空間を暗くせず、仕切らずに見せたのは結果的に良かったと思います。資料と映像を同じ展示空間の中で見られるから、映像を45分間見なくとも分かる、ある意味潔いつくりだなと思いました。

パフォーマンスを展覧会にした意味

佐藤 展覧会という形式自体が真実らしさを醸し出すという服部さんのお話はすごく面白いと思いました。服部さんのベネチア・ビエンナーレでの展覧会では神話をつくっていますが、それが創作であることは前面に出していないですよね。鑑賞者には、これが創作されたものとは思わずに見ている人もいる。津波岩だけが、本当のものとしての存在感が強く、その場に不思議に存在しているように思いました。

服部 下道さんの動かない津波石を捉えた写真っぽい映像は、モノクロで情報量も少なくして、まるで実在しないSF的世界が目の前に広がる感覚があります。モノクロにすることで時間性、場所性、空間性を曖昧にしてあえて抽象化しています。実際には数年かけて彼は現地調査をしているのですが、それを展示ではあまり見えないようにして、抽象化によってどこの場所にも置き換え可能なように、自分ごととして考えられる可能性があるようにしています。石倉先生が創作した神話も、神話学の専門家としてずっとさまざまな神話や民話、伝承を調べ続けてきた前提があります。そこからいろいろなものを参照して特定の場所に収束させないものとして、創作神話をつくってもらいました。

佐藤 レクチャーパフォーマンスを展覧会に落とし込むことは私にとって挑戦だったのですが、展覧会とレクチャーパフォーマンスは、鑑賞者の印象としてはどこか近いのかなと思いました。展覧会自体もフィクションとして使える、不思議なかたちだなと。

服部 例えば、グループ展などでレクチャーパフォーマンスの記録映像だけ展示されているというのがたまにあります。展覧会の文脈に合わせてライブの体験とドキュメントに落とし込んで無理やり持ってくると、鑑賞者にあまり見てもらえないものになってしまうことが多いですよね。記録のアーカイブやドキュメントは相当うまくしつらえないと見られるものにはならない。それもあったので、どうしてレクチャーパフォーマンスを展示にしたのか聞いてみたかったのでした。

そして今回の展覧会はある程度、鉱山について調べないとできない、調べたからこそできたものだったとは思いますね。そこは気持ちのいいかたちで出来上がったと思います。

岩根 佐藤さんは今回初めて展示空間に落とし込んだことで、これまでと違うものはありましたか?

佐藤 パフォーマンスをして「これはフィクションなのだ」と知った観客から怒られたことはありますが、展覧会では私はそこにいないので直接は怒られない。これは違いますね。怒ったり悲しんだりしてくれるのは物語がきちんと機能しているということなのかな、と勝手に思っていますが、今回はそれが起きているのか分からなくて、遠くの観客に届けているような感覚が新鮮でした。

服部 もうひとつ、今回展覧会を見ていて、東京芸術大学の映像研究科ができてからの良い意味での型ができつつあるんだなと勝手に思いました。世代やかたちは変わっても面白く引き継がれていますよね。全然違うつくり方をしても、背景に受けてきた教育やメディアとか映像体験の存在があるのだと分かってきました。

佐藤 指導教員だった高山明さんからは、とにかく台本の指導を受けました。私は上映もパフォーマンスも展覧会も、すべて台本がなければつくれません。台本を書くプロセスでできることが明確になり、何を伝えたいかが残ります。今回、展覧会というかたちで物語を共有できたことは、新しい共有のかたちと出会って、物語を遠くの観客に届けている実感がありましたが、レクチャーパフォーマンスによってこうして本日、目の前にいるに皆さんに直接物語を届けることができて、良かったなと思います。

Profile 作家プロフィール

佐藤朋子

1990年長野県生まれ、神奈川県在住。2018年東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。レクチャーの形式を用いた「語り」の実践に取り組む。史実の調査過程から浮かび上がる事象を複眼的につなぎ合わせ、フィクションとドキュメントを行き来する物語を構想する。日本が辿ったいびつな近代化への道のりや、大文字の歴史からこぼれ落ちてしまった歴史の複数性への関心、各地に残された伝説や痕跡などへの興味を糸口にして作品を制作している。[主な展示・活動歴]2019/「ふたりの円谷」上演, SHIBAURA HOUSE, 東京、「103系統のケンタウロス」上映, 渋谷ユーロライブ, 東京、「103系統のケンタウロス」展示, Gallery Saitou Fine Arts, 神奈川 2018/「瓦礫と塔」上演, 浅草公会堂, 東京、「しろきつね、隠された歌」上演, BankART Studio NYK, 神奈川 http://tomokosato.org/

Information

佐藤朋子「MINE EXPOSURES / 鉱山の露光」

チラシダウンロード(PDF)
■会 期 2019年8月30日(金)〜11月4日(月祝)9:00〜18:00
■観覧料 無料
■閉館日 9月14日(土)、15日(日)
■会 場
秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT(秋田市八橋南1-1-3 CNA秋田ケーブルテレビ社屋内)
■主 催 秋田公立美術大学、NPO法人アーツセンターあきた
■協 力 CNA秋田ケーブルテレビ、東京藝術大学大学院映像研究科、RAM Association、和田信太郎
■出演・映像資料協力 片岡一郎(活動写真弁士)
■助 成 秋田県芸術文化振興基金助成事業

【関連イベント】
ギャラリーツアー+オープニングパーティ
■日 時 8月30日(金)18:00〜20:00
■会 場 BIYONG POINT

レクチャーパフォーマンス+トーク
■日 時 10月20日(日)18:00〜20:00
■会 場 BIYONG POINT
■内 容
①佐藤朋子によるレクチャーパフォーマンス
②トーク「ドキュメントと創作(フィクション)について」
登壇者:佐藤朋子、服部浩之(秋田公立美術大学准教授)

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた チーフ

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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